第10章2話
「A班全員整列!」
局長補佐の号令で、A班の班員たちは乱れていた列を整え、背筋をピシッ伸ばし直立不動の姿勢になる。
A班の班員や班長代理のシェリアさんたちはそれぞれ指定された捜査道具やカメラといった必要な資材を背中に背負っている。
「えー、ではこれよりフォールドグラード刑務所への現場検証および証拠品を受刑者、看守問わず押収します。証拠と思われる品、毛髪、指紋などは出来る限りすべて回収してください。
車は先ほど同様装甲車で向かいます。
私はサイドカーで少しばかりお役所友達との階段があり遅れて現場へ向かいますので、到着次第班長の指示で動いてください。
現場での注意事項ですが、まず囚人に物をねだられても渡してはいけません。
また、現場へと向かう途中に重房と呼ばれる房を通ることになる恐れがあります。その際中にいる囚人たちと目を合わせないでください。
そしてもし万が一喧嘩に巻き込まれた場合、看守を呼んでください。それでも命の危機が脅かされる場合は……正当防衛として護身用の麻酔弾・電磁麻酔弾の発砲を許可します。」
ルーズルートは他に証拠品の収集方法や、保管方法の仕方などを軽く説明する。
というか注意事項が、まるで遠足に行く小学生のしおりに書いてそうだな……。まぁ、物を渡すと脱走幇助罪という脱走を助けたまたは助けようとした罪にあたいするので仕方がないことか。
「では、A班、乗車!」
基本的に目上の人でも目下の人にも平等に敬語を使うため、命令に強制力が無くなってしまうルーズルートに変わって、目下に人には余裕でため口で発言できる局長補佐の男性の怒号によって、A班班員たちは、自分たちが乗ってきた装甲車に次々と乗り込んでいく。
というか、実際ルーズルートは政界歴でも従軍歴でも後輩にあたる伍長まで敬語を使っているほどだ……。敬語は疲れるとたまに聞くのだが、ルーズルートは疲れないのだろうか?
そんなルーズルートの敬語問題をよそに、A班の班員が乗り込んだ装甲車は町議会堂の駐車場を後にし、町から直線距離で12km離れたフォールドグラード刑務所を目指し走り出した。
それを遠目で見守るルーズルート。
ちなみに局長補佐の男性は現場責任者が必要だろうということで装甲車に乗っていった。
「さて……そろそろ出てきてもよいんじゃないですかね? ラインハルト大公情報捜査機関第1情報室室長」
「あぁ、バレていたかぁ……」
「当たり前です、一般兵士に偽装するのに何で顔を変えないんですか?」
駐車場に止めてあった装甲車の裏から、べレー帽をかぶり背広型の国防軍服を着たルーズルートと同じ初老過ぎの男性。
この男は今回の護衛の2両目の戦車に乗っていた車長なのだが、それは仮の姿、本当はヴィルヘルム惑星大公国の大公情報捜査機関でス連邦本星を管轄する第1情報室の室長である。
ス連邦の連合構成国であり、衛星保護国でもあるヴィルヘルム惑星大公国が事実上の宗主国であるス連邦に諜報員を送ってもいいのか?
と、よく専門家やら学者からツッコまれるのだが、一部の自治能力しか与えられていないが、一応主権国家であるわけだし、いいんじゃないか?
別に取られて困るようなことないし……。
「いやぁ、だって地球以来の旧友との久しぶりの顔合わせなのに、本当の顔を見せなくてどうする?」
「はぁ、貴方は昔からそうでしたよ、議員時代も閣僚時代も……そして今も変わりませんね」
「そりゃぁそうだ、コロコロ人が変わったら、恐怖だろう?」
「それはそうですが……」
「まぁ、そう硬いこというなって。久しぶりの再会なんだからさぁ、びっくりしたぞ、お前がこっちに来たのは知っていたが、まさか侍従長になっていたとはなぁ……」
ご機嫌そうに笑うこの男性。
本名をラインハルト・ハインリヒといい、アメリカに住んでいたドイツ系の移民のこどもで、何を隠そうこの人、ルーズルート侍従長の議員時代の同僚で友人でもあり、ルーズルートが国防長官時代、大統領補佐官を務めた人なのだ。
そして、彼もルーズルートと同じ地球で一回死んだはずが、この地で目が覚め、気が付いたら情報機関の副室長という役職を持っていた人でもある。
「はぁ、まさか旧友の顔をわざわざ見に来るために国防軍に出向したんですか? 室長なのに? 暇なんですか?」
「はっはっは! そんなわけないだろう、これも仕事の一環だ」
「仕事?」
「ああそうだ。 私は公王から2つの任務を命じられてわざわざ遠く離れた宗主国の本星に来たんだよ、まぁその一つは今回の事件の捜査に護衛として参加せよということ。そして、この捜査資料を君たちに渡すこと」
そういい、ラインハルトは装甲車に体重をかけながら手に持っていた青いファイルをルーズルートに渡した。
ルーズルートはそれを一つ一つ目を通していったのだが、段々とその顔は動揺と驚愕に満ちていた。
「これって……!」
「ああ、その資料の通りだ。……被害者はラウィンツィ・ハインロール、財閥企業ハインロールのCEOにして、我が国の名誉貴族だった男だ。死亡時刻は5日前の午前2時32分、死因は現在不明……。……知っているだろう? ハインロール財閥社」
「……ええ、皇宮財閥とこの銀河で唯一肩を並べられることが出来る財閥として有名ですね。……でも、そんな大財閥のCEOが亡くなったのに報道されていないことってあります?」
「あるんだなぁ、これが。……箝口令が発令しているんで詳しくは語れないのだが……ちょっと肩貸せ」
半ば強引にルーズルートを装甲車の裏に連れ出し肩を組んで何やら話し込んでいる。
そのルーズルートの表情は話が進むごとに驚きに変わり、やがて……
「そんな……」
絶句していた。
「まぁ、そういうことだ。この話から私がここに来た理由もわかるよな?」
「……ええ、それは公王陛下も疑いを持ちますよ……」
「と、いうわけで、何かわかったら連絡してきてくれ。番号は……まぁ、大公情報捜査機関第1情報室室長あてに連絡してくれ。」
「ええ、わかりました。できる限り情報を渡しますが、渡せない情報もあることはお忘れなく……」
「わかっている、それだけ伝えられれば十分だ。……っと、そうそう、お前今の大天皇帝、フェルトベルク陛下のことはどう思っている?」
唐突に変な質問を投げかけられ、ルーズルートは何を言っているんだ? という怪訝な表情でラインハルトを見る。
「はっはっは! いうわけないか、公務中は陰口であろうとそれを言うのは”不敬罪”に値するか!」
「……わかっているならそんな質問はやめてください。貴方たちの国とは違ってこちらには”不敬罪”というものがあるんですから……」
不敬罪。
これはその国家の君主やその一族、宗教の聖地といった場所や人物の名誉や尊厳を損害する、もしくは不敬と扱われた行為を行った場合に成立する罪のことである。
ス連邦……というより一部導入国に共通することは、不敬罪の対象が一般市民の公の場にて無許可でデモや皇族批判、政府批判を行った場合が対象となり、警察や国治維庁両庁の許可があれば公の場でも批判していいことになる。
マスコミ報道関係者は、極右思想や極左思想的発言を放送したり掲載した場合、不敬罪にあたり、中道報道が求められている。また、政治評論家の意見などには、テロップや意見の後に『あくまで個人の意見です』を入れなければならない。
国家公務員は、公務中の発言は厳しく罰せられる。(一部対象外あり)
そんな不敬罪、実は惑統連の連盟憲章第23条の条文と同じである。
まぁ、元々惑統連事態ス連邦が作ったようなものだし、連盟憲章も多少は影響されているし……。(詳しくは第7章5話参照)
そんな不敬罪を気にするルーズルートは、言葉を選びつつため息交じりに答える。
「はぁ……、あのですね? 私が陛下に不満を持つわけないじゃないですか。不満を持つようなら辞表を提出していますよ」
「まぁ、そういうだろうと思っていたよ。ただ、これだけは言わせてくれ……今回の事件や関連事件のほとんどは陛下に危害を加えた者たち……または加えそうになった者たちが殺されていった。
それらが陛下に危害を与え、国家を転覆させたりするために行っているなら、まだマシだ。
だが、逆に言えば陛下がやろうとしている何かを、阻止するために裏で誰かが操っているんじゃないか? ただ、失敗したためにトカゲのしっぽ霧のような形で殺されていった。」
「…………」
「ま、あくまで私の推察でもあり、憶測にすぎない。だが、気を付けろ、ルーズルート。あのお方は歴代皇帝……いや、それ以上の何かで大きなことをしようとしている。私は今までの経緯やらなんやらでそれだけは確信している」
「……どういう根拠でですか?」
「詳しくは知らん。だが、あのお方が即位されてから、世界は変化を見せている。連合共和国の崩壊から惑統連の脱退、仮想敵国ペルシアント惑星王国への侵略、対地球外交の衰退化……いろいろなことが起こった」
「…………」
再びルーズルートは黙り込んだ。
「……っと、長話はここまでだ。あくまで私の推察だ、気にするなよ。じゃぁ、私は元の任務に戻るとしよう」
そう言い残し、ラインハルトはその場を去っていった。
一方のルーズルートには、ラインハルトの言った言葉が妙に心に残っているのだが、自分の仕えるものに疑問を行かないと、心を平常化させ、刑務所へと向かっていった。




