第9章11話
プルルルル
極々普通のスマホの着信音が伍長の鞄から鳴り響いた。
高層マンションの地上駐車場来客用スペースに止めてある田所運輸のトラックに偽装した装甲車。メルフォード社のMF10容疑者移送車、通称動く刑務所。
光学迷彩をかけることによって、輸送トラックから装甲車から何にでもなることが出来る。
そしてその荷台には、2、3畳ほどの牢獄が備え付けられている。
一応ベッドと明かりと簡易的なトイレが備え付けられており、容疑者移送によく使われるので動く刑務所と呼ばれている。
その動く刑務所の運転席では伍長が鞄の中からスマホを取り出し電話に出る。
「はい、もしもし。アドルフですが……」
『……アドルフ、さん?』
「ん? その声、ルーズルートか?」
何と電話の相手はルーズルート侍従長であった。
『はい、ルーズルートです。すいません今お時間大丈夫でしょうか?』
「おう、大丈夫だが……どうした? フォールドグラード刑務所で旧貴族の子孫が死亡した事件の捜査中だったんじゃないのか?」
『はい、現在フォールドグラード刑務所で捜査中なのですが……伍長さん貴方今陛下と一緒ではございませんか?』
「は? 何故私が陛下と一緒にいると?」
私のような裏世界に住むような人間が……。と付け加えて自虐的に答える伍長。
『いえ、伍長さんは陛下のお気に入りの一人なのですよ。何せ命の恩人なのですから』
「はぁ、それはまぁ有難いなのだが……。……陛下とは今日はあっていないぞ、昨日の会議で恐ろしいことを聞いた後も見ていないな」
『なるほど……そうですか……』
「ところで陛下がどうしたんだ? 何かあったのか?」
『……それがですね……』
ルーズルートは言葉を詰まらせながらこう告げた。
『陛下の乗ったリムジン車が先ほど事故にあいました。』
「……。……。……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!?」
『ちょ、うるさいですよ。落ち着いてください』
「落ち着けるか! ってか、何でルーズルートお前はそんなに落ち着いてられるんだ!? 一国家元首が事故にあったんだぞ!」
『わかってますよ、私かって焦っています。ですがとりあえず落ち着いてください』
「くっ……」
ルーズルート慰められ他伍長は深呼吸を2回行い、ようやく平静を取り戻した。
「それで、いつどこであったのだ?」
『はい、時刻は昨日午後3時00分。スウェットハーヴェン特別自治区北側地区と中央行政特別区域北側ゲートの目の前の交差点でした。一番前を走っていたリムジン車に爆走トラックが横から衝突したのです。リムジン車はそのまま百メートルほど押されてその先の交差点で停止しました。』
「な、なるほど……。それで?」
『……近くにいた市民の皆様が救助活動や通報したりトラックの運転手を取り押さえようとして下さり大事には至らない……』
「ほぉ」
『……はずでした』
「はず?」
妙な言葉が聞こえ思わず聞き返していしまった。
はず?
ルーズルートはしばらく黙り込んだが、口を開きこう告げる。
『……その後やってきた救急車に陛下が乗せられたのですが……。その後救急車が2台来たのですよ』
「2台? そのリムジン車には3人乗っていたのか? 運転手と陛下以外に」
『……いえ、お二人のみです。そしてすぐに特務軍が急行してきてある真実が判明しました。……陛下の乗ったと思わしき救急車には特殊車両登録もGPSも付けられていませんでした。
私はその時に侍従長として連絡をいただいてことを知ったのですが、私のほうも国民連邦保険を通じて加盟病院に搬送されていないか確認したのですが、見つかっていません』
「おい、それって、つまり……」
『……。はい、陛下は恐らく人為的に仕組まれた事故の混乱の中に、堂々と誘拐拉致されたのだと思われます。』
「はぁ?!」
『と、いうわけで、連保捜査庁特殊諜報捜査局発足後初の大事件かもしれません。現職の大天皇帝陛下の誘拐拉致事件なんてス連邦の捜査機関も国家自体の面目の丸つぶれです。
政府には許可をもらていますので、明日連邦捜査庁総会議室で特別捜査本部が設置されます。
直ちに任務を放棄して、連邦捜査庁に戻ってきてください。
いいですか、伍長さん。諜報員摘発は一時放棄をしてください。問答は無用です、いいですね!』
念を押しに押しまくるルーズルートの焦り具合から、相当陛下を敬愛し愛しているんだろうな……。と伍長は思った。
もちろん愛しているの愛は、ラブではなく、ライクのほうであるが……。
「わ、わかった。だが、ルーズルート、お前のほうはいいのか? フォールドグラード刑務所での操作は終了したのか?」
『……ええ、実際にいって遺体を見てきましたよ。ひどいものでした。目は真っ赤に受血していて、3食おやつ付きにもかかわらず、体は骨が見えるまでげっそりと痩せていました。
そして……心臓のある部分に穴が開いていたのです』
「改めて聞くと……恐ろしいな……。」
『はい、吐きそうになりましたもの……。あんなに悲惨な遺体は初めて見ましたよ』
伍長は改めて現地からもたらせられる男の遺体の情報に身震いをした。
例え国家元首暗殺罪の容疑者で、かつての旧貴族の男であろうと、被害者になってしまったらその加害者を見つけ出さなければならない。
「ん? そういえば、男の目が充血していると言っていたが、男の目には本当に充血によって赤くなっていたのか?」
『……正直を申しますと、充血にしては赤く染まっているんですよね……。充血というより元々真っ赤な目だったというほうが正しいです』
「いや、それはない。私は奴の目を見たことがあるが、碧眼だったはずだ」
『ええ、私も取調室の室内の状況をモニタリングさせてもらっているので、彼の目が碧眼だったことはよく覚えています。
遺体は総督省科学捜査鑑定技術研究所に送りました。詳しいことは報告書で……』
「わかった。私も奴を逮捕したんだ。報告書ぐらい読ませてもらうぞ」
そう言い終え伍長は電話を切った。
というわけで、第10章はルーズルート侍従長たちの刑務所捜査。
第11章が皇帝捜索になると思います。
変なオチになってすいません。




