第9章10話
「お疲れ様です、陛下」
皇居特別区地下第1駐車場に急ぎ首相官邸へ向かうフェルトさんの姿があった。
軍服にマント軍帽に鞄姿のいつものフェルトさんである。
フェルトさんはそのまま地下駐車場の出入り口にぴったり横付けされた防弾使用のリムジン車に乗り込み、扉を閉めてくれた運転手に急ぎ首相官邸に向かうように告げる。
「わかりました。しかし法定速度内で15分で首相官邸につくのは無理かもしれませんが……いいですか?」
「はい……メイド長には帰ったらこっぴどくやられると思いますけどね……」
「メイド長ですか……」
運転手の顔までもが険しくなっていく。
そんなに恐ろしいのか、レミレアメイド長は……
「では、参ります」
運転手はそう一言述べ、車を走らせる。
地下駐車場はどこにでもありそうな構造をしており、リムジン車はそのまま地上の幹線道路へ向かうために地上へ延びる坂をのぼ……
……らずにそこで一度停止した。
フェルトさんは自分の座っている座席の肘掛けに不自然に取り付けられていたスイッチを2回押す。すると、テーブルから一つの端末がいつの間にか出現し、そこに人差し指を乗せる。
すると……
地上へと向かう坂道が手間へゆっくりと倒れていき、そして今度は地下へ続く道が作られたのだ!
車は再度エンジンをふかし、法定速度である85㎞丁度ぴったりで白いKEDライトで照らされる長い半円形のトンネルを進んでいった。
車内の様子はというと、
フェルトさんは無言で先ほど国務省の出向員という名の諜報員の手によって届けられたヴォルデシア共和国の内政状況などが書かれた資料を読み漁り、一通り読み漁った後、鞄からPCを取り出し画面に資料を手で押さえる形で張り付ける。
すると……
張り付けられた資料は瞬く間に光の粒子に変わっていき、まるで画面に吸い取られるかのようにフェルトさんの押さえている手元から消えていった。
ピロロン
メールの着信音のような音がしたと同時に、画面上に”なんか資料が送られてきたけど、これはレベル5でええよな?”というメッセージと共にOKかはいの選択肢が現れた。
というか、はいかOKって……選択肢じゃないじゃん……。英語か日本語かの違いじゃないか?
そんな訳の分からない選択肢のOKの部分をクリックする。
どうやら先ほどの資料がPC内に保管されたようで、追加したと思われるファイルに鍵がかかった。
そう、このパソコン、もちろんだが普通の一般的なパソコンではない。
逆に一般的なパソコンに、画面へ資料を移行できるならぜひとも中の人が欲しいくらいだ。本作品の各国の国旗のイメージやフェルトワンのイメージが一瞬でパソコンへと移行できるのだからな……。
まぁ、そんな中の人の願いはかなうことは無い。
何故ならこのPCはフェルトさん専用のパソコンである。
軍事コンピューターや軍事衛星と言った軍の心臓的存在のスーパーコンピューター群のメンテナンスや修復なども手掛けている皇宮財閥傘下の企業であるCC社、クロードクラフト社が最先端の科学技術を詰め込みに詰め込んだパソコンであり、スウェットフェルクロード家の家宝でもあるこのパソコン。
このパソコンにハッキングしようとした組織や個人は数知れず。
大体のハッカーは、外国を経由してパソコン内に侵入できたのだが、暗号キーやら勲章のシリアルナンバー、そして謎の攻撃によってデータを盗むことが出来なかった。
そして、ハッキングした夜。
眠っていたハッカーたちの家にチャイムが鳴り響き、扉を開ければ数十人の覆面をかぶった人間たちによって眠らされ、早朝になれば部屋の内装ごと消え去ってしまうという。
「……そんな噂があるそうなのですが、本当なのですか陛下」
ハッカーたちの末路の都市伝説を語り、所有者であるフェルトさんに直接疑問をぶつける運転手。
普通ならば一国家元首に何でもかんでも質問するのは失礼に値するのだが、それも許されるのはフェルトさんだからであろうか。
「あははははは……。黙秘、とだけしか言えないです」
「ははは、左様で……」
苦笑いを隠し切れない運転手。
黙秘なので肯定も否定もしていない……つまりハッカーたちが消え去ったのは本当かもしれないし、嘘かもしれない。大天皇帝が関与しているかもしれないし、そうでないかもしれない。
「して陛下、もう間もなく分岐点に付きますが、ABCどれがよろしいでしょうか? ちなみに只今の時刻は2時56分です。」
「どれが速く首相官邸につきそうですか?」
「Aは中央行政特別区域近くの立体駐車場につながります。Bはゲート近くの地下駐車場の一角に。Cは警察署地下駐車場につながります。」
「そうですか……。あの、安全で早く着くのはどれでしょうか?」
「そうですねぇ、地上に上がる際一般市民に見られる恐れもありますから、Cは安全で警察署が北側ゲート前ですので、Cが安全かと」
一体何の話をしているかといえば、この数キロ先に4つの分岐点がある。
一つは北側ルート、通称Cルート。この地下道の出口である警察署の駐車場に出ることが出来る。
一つは南側ルート、通称Aルート。この地下道の出口である立体駐車場につながっている。
一つは西側ルート、通称Bルート。この地下道の出口のあるフェンスゲート近くの地下駐車場につながっている。
そしてもう一つが、永久に続く直線ルート。通称地獄の回廊。
永久に出口がないため、走り出すと一周するか最悪作業用トンネルから脱出しない限り抜け出せない。
「わかりました、Cで構いません。ただ安全運転でお願いいたしますね」
「承知致しました。仰せのままに」
数刻後。
予定通り小さな交差点のような分岐点が見えてくる。
地面には白い石灰でA B C ↑ の3つのアルファベットと、暗闇の先を指す矢印が書かれていた。
この時、中の人とフェルトさんはふと思う。
何でアルファベットのDではなく、矢印なのだろうか。と……
様々な憶測が学者内(皇居・皇族関係者)で飛び交っているのだが、ABCDで書くより矢印で書いた方が目立つから迷う人間が減るからではないかという憶測が有力である。
本当かは定かではないが……。だって、このトンネルが作られたのは西暦690年。改修工事が西暦1251年、1324年、1978年の計3回の改修工事をしただけでそれ以外は一切手が付けられていない。そのため、どのような時に矢印がいつ書かれたのかは不明である。
その歴史が漂いそうなABC↑分岐点のCと書かれた道にハンドルを切り曲がる。
しばらくすると、トンネルの奥に地上へと向かうと思わしき緩やかな上り坂が見えてきた。
100mほどの穏やかで緩やかな坂を上っていくと、そこには、トンネルと同じ対核素材で作られた巨大な壁が立ちはだかっていたのだ。
そこでフェルトさんは先ほどと同様机の上に置かれているというか先ほどから放置されっぱなしだった端末に人差し指を乗せる。
すると、目の前に立ちはだかる壁がゆっくりと重々しい音を立てながら引き戸のように開いていったのだ。
一体どういう原理で対核素材で作られた壁をスライドさせることが出来るのだろうか?
長年皇族家の運転手としてこの地下道も何回も通ったことのある運転手でも、この手のことはさすがにチンプンカンプンであった。
「これ、間に合いますか?」
「……無理でしょうな、出来るだけ急ぎ首相官邸へ向かう所存ですが、北側から首相官邸までは最低でも15分はかかります。さらに警察署の外の渋滞状況でも大きく変化するでしょう。」
「はぁ……お説教確定かぁ……」
バックミラー越しに見えるフェルトさんの表情は軍帽で見えなかったが、かすかながらに怯えが見えた。
そして、長そうで1分ほどの待機時間を終え、壁は目の前から完全に消え去り、そこから外の光が……
……入ってくるはずもなく、地下のジメジメした駐車場が広がっていた。
ごく一般的な地下駐車場に見えるのだが、止められているほとんどの車は青色のバイクや青色と白色で塗装されたパトカー、そして一般車に見えるがよく見ると赤色灯が助手席に置かれている覆面パトカーと言った警察車両があちらこちらに止められていたのだ。
だが、リムジン車はそれらの警察車両を無視し、地上へ上っていく。
警察署がある場所はスウェットハーヴェン特別自治区北側地区を管轄する警察庁首都担当部北側地区署のフェンス沿いを管轄する警察署である。
ややこしいが、簡単に言えば首都の北側地区と行政区域を分けるフェンス沿いを担当する警察署と覚えればいい。
「……って、ああ……赤信号……」
警察署地下駐車場の目の前は大きなT字路があり、その奥に北側ゲートがあるのだが、その目の前のT字路の信号がつい先ほど赤信号になったばかりであった。
ほんの数秒前まで青信号だったため、T字路の先頭に止めることが出来た。
あ! ちなみにだが、フェルトワンの旧ク連占領下だった惑星国家は共通で左側通行である。
数十秒という長そうで長くない時間が終わり、ようやく青信号になったためT字路を進もうとしたのだが……走り出そうとした瞬間、フェルトさんは背筋が凍り付いた。
そして、その原因はすぐに判明することになる。
大型トラックが止まるそぶりを見せないまま交差点を突っ切ろうとした。
そしてトラックは明らかによけようとはせず、リムジン車と衝突しようとしていた。
異変に気が付いた交差点を通ろうとしていた車は、急ブレーキを踏みクラクションを鳴らしていたが、トラックは全く止まるそぶりも見せない。
リムジン車の運転手も、異変に気が付き急いで停まろうブレーキを踏んだが、それがあだとなった。
確かに車は止まったのだが、車体が長いためトラックの進んでいるルートにリムジン車の後方が当たってしまったのだ。
「う、運転手さん! 早く、早くアクセルを踏んでください!」
フェルトさんは焦った様子で運転手に叫んだ。
運転手は慌ててアクセルを踏み込んだが、慌てていたため誤ってサイドブレーキを掛けていたことに気づかず、アクセルを何度踏み込んでもぴたりとも動こうとしなかったのだ。
そして……
ドォォォォンッッッ!!
トラックがリムジン車に衝突し、トラックの明らかに法定速度以上の速度で衝突したため、リムジン車がゲートから100m以上も押し出されてしまい、次の交差点のオフィスビルの壁に衝突してようやく停止した。
不幸中の幸いなのか、車は事故の瞬間を見ていて慌てて歩道に寄せたため、巻き込まれた車は一つもなかったが、衝撃でリムジン車はペシャンコにつぶれ、見るも無残な状態になっていた。
事故を目撃した市民たちがリムジン車とトラックを取り囲む。
警察や救急に通報する者、状況をスマホで撮影する者、トラックの運転手を取り押さえようとする者、そしてリムジン車の運転手と同乗者を助け出そうとする者様々であった。
数人の男たちが、トラックの運転席に乗り込み運転手を取り押さえようとする。
だが、運転席に運転手の姿が見当たらなかった。
動揺する市民。
それもそのはずだ。
何故なら、運転席は原型こそ留めていたものの、エアバックによって脱出は不可能となっていた。
なのに、そう、まるで元々そこには運転手が座っていなかったかのようにだれも運転席に座っていなかったのだ。
ほどなくして、救急車のサイレン音が遠くから聞こえてきた。
市民たちの手によってフェルトさんと運転手は車の外に運び出され、救命措置を受けている。
フェルトさんも運転手も頭から血を流しているが、実際はフェルトさんがとっさに発動したシールドによって運転手もフェルトさんも怪我をしているように見せかけているだけで、無傷なのである。
だが、怪しがられないためにも、怪我をしているふりはしなければならない。
そして、通報から異常に速く救急車が事故現場へとやってき、市民たちに後でもう一台来ると伝えフェルトさんを救急車の中へ乗せ……
病院へは行かずそのままどこかへ消え去ってしまった。




