第9章5話
どれくらいたったのだろう。
しばらくすると、頭にすっぽりかぶせられていた袋は外され、強烈な外の光が伍長の目を細めた。
数刻もすれば、意識と視界もはっきりしてきて、自分が今どこにいるか察しがついた。
「連邦政府庁舎ビルの……中か?」
何かに乗せられた後、体が上下に揺れたので、何かに乗せられたか、エレベーターに乗ったのかな? そう思っていた伍長だったが、確かに今いる場所は会議室のようなそんな場所だった。
そこにはスタッフらしき人たちが慌ただしく動いている。
「うふふ、ご名答ですわアドルフ閣下。」
「そ、その声……」
後ろからかけられた声に反応し振り替える。
伍長のことをアドルフ閣下という人物は数少ない、そしてこの口調……間違いない、
「アリスティン……さん?」
皇宮省の筆頭事務次官にして、侍従長であるフェラン・ルーズルートの奥様でもあるアリスティン・ルーズルートの姿がそこにあった。
ただいつもとは違い、私服でもなければ礼服姿でもない。……なんというか、その……
「……なんですか、その服装は?」
ド直球に聞いてしまって、周囲にいた人たちが一瞬冷や汗を垂らしたが、本人たちは気づかない。
「この服装ですか? これは皇宮省の正装ですわよ、スーツに見えますけど肩章とワッペンに皇宮省の紋章が描かれてますでしょ? それが目印ですわ」
確かにアリスティンが着用しているスーツの肩には、肩章が付けられており盾に巨大な青の十字架に鉄十字、それに覆いかぶさるような五芒星、それに添えられる剣と銃……これが皇宮省の紋章なのだろう。
にしても、中の人……ス連邦はどうして鉄十字と五芒星のセットが好きなのだろうか? いや、悪いことではないので別に構わないのだが……。
「はぁ、なるほど……。して、ここはどこですか? なぜ私は拉致されるような真似を?」
「簡単ですわ、ここは連邦政府庁舎ビル中央区画シークレットエリアと呼ばれる場所ですわ。何せここは政府の中でも一握りしか存在を知らない区画なのですもの。機密保持のためこのような手荒な真似を使わせていただきましたの」
「手荒な真似……ねぇ……」
あれ、地下駐車場じゃなければ、絶対に事件ものだったよな……。と伍長は口ずさみそうになったが、黙っておくことにした。
というか、どうしてこの銀河では手荒な真似で拉致って来ることが多いのだろうか?
惑統連総会の時のフェルトさんや首相も特殊部隊によって連れてこられたし、今回は……そういえば、誰が拉致って来たんだろうか?
「ところで、アリスティンさんは何故ここに? というかなぜ私は召集されたんですか?」
何も聞かされていなかったことを思い出し、尋ねる伍長。
というか、何も知らされずに車(装甲車)に乗せられ、首都まで来たと思ったら、中央行政特別区域という場所に入れられ、更に連邦政府庁舎ビルのシークレットエリアにまで連れてこられた。
ただ事ではないなと思ったのと、NOといったら殺されそうだな……。そんな考えが伍長の脳内をよぎった。
だが、その伍長の不安そうな表情から察したのか、アリスティンは、うふふと笑ってから、こう答える。
「私は皇宮省の代表として参りましたの。しかし……風見川さんから聞かされませんでしたか?」
「あー……」
確かになんか諜報員を摘発するとか何とか言っていたような……。
「うふふ、まぁいいですわ。アドルフ閣下にも新たに伝えなければならないことがございますし……。
今回の惑統連脱退を受けて政府は、国防総省情報局、警察庁捜査4課、公安警察庁警備部第2課および警備部第3課、国防軍治安維持庁情報部、特務軍、機動治安部、連邦捜査庁特別捜査局(特殊諜報捜査局)などに諜報員や工作員などの摘発をするため召集いたしました。
ここにいるのは、捜査員または諜報員がほとんどですわ。他にも各省庁から代表者1名が来ておりますの。」
「なるほど……風見川の話よりかは分かりやすいと思うが……ならなぜ私一人なんですかね?」
そうなのだ、他の組織は最低でも3人、多くて20人ほどが来ている。
なのに特殊諜報捜査局だけ伍長ただ一人なのだ。
……というか、風見川の答えより確かに具体的だった。わかりやすいかはさておき……
「そういえば伍長さんはまだ知らなかったはずでしたわね。……アドルフ閣下、以前超剤所持で逮捕した金髪の元貴族覚えていらっしゃいますか?」
「え? ええ……まぁ……」
急に真剣な目つきになって、一瞬怯んだが、何とか応答する。
「……彼が、収監中の刑務所で死亡したんですの……」
「はぁ……はぁ!?」
最初のはぁ、はため息であって、次のはぁ!? は死亡したことに驚いて出した声である。
「ええ! なんで? なんで死んだの?!」
「しっ、声が大きいですわよ!」
「す、すまない……」
取り乱しそうになった伍長を、宥め、アリスティンは話を続ける。
「アドルフ閣下が丁度ペルシアント惑星王国に行っているときですわ。フォールドグラード刑務所と呼ばれる凶悪犯罪者を収監する刑務所で点呼にな手も起きないことを怪しんだ看守が扉を開けて、死亡しているのが発見されましたわ。」
「し、死因は?」
「……生きたまま心臓をえぐられたようですわ……。手には注射痕がありましたので、何者かが彼に睡眠薬を打ち込んで心臓を抉り出したのでしょう……。」
「なっ!?」
伍長は絶句し、生きたまま心臓をえぐられる状態を想像してしまったため、身震いした。
「そ、その心臓は?」
「……現場から持ち去られてましたの。でも、おかしな点が数多くございましたわ」
「おかしな点?」
「……発見した看守や医師によると、目が充血とは思えないほど赤く染まっておりましたわ」
「……。……いや、奴の目は碧眼だったはずだ……」
伍長は一男の目の色が赤だったような気がしたが、取り調べの時の記憶を呼び起こし、碧眼だったことに気が付き、ぼそっと呟く。
「……そして、明らかに他殺ですのに、他人が入った形跡すらございませんでしたの……」
「……つまり密室殺人だと?」
「はい、そうですわね。他の皆様はその事件の捜査に駆り出されましたので、伍長さんお一人ですわ」
「いや、しかしそれなら首相とか他の人でも良かったんじゃないか?」
確かに伍長のほかに首相やヨシフおじいちゃんを使って、伍長は捜査に回すという方法もあったはずだ。
なのに現にこうして伍長だけが呼ばれているわけである。
だが、その答えをアリスティンから聞けることはなく、伍長の真後ろから聞こえてきたある人物の声によって遮られた。
「うふふふふ、フェルトちゃんいるところに私あり。私いるところに警察車両あり、世界の警察ス連警察庁刑事部長リフェリアァー・メルディエッタロード!」
「いや、その登場方法はおかしい!」
まるで戦隊ものの登場シーンのような登場をし、絶賛どや顔中のこの女性。
リフェリア・K・メルディエッタロードさん、つまりフェルトさんの姉に当たる人物であった。
なんと、リフェリアさん、警察庁の刑事部長をやっていた。
しかも結構最近……。
で、リフェリアさん。先ほどからやけにテンションが高い。
ヨシフおじいちゃんと最初に出会った時と比べると、明らかにテンションが違っていた。
なぜ、こんなにテンションが高いかというと……
「フェールートーちゃーぁん!!!!」
伍長たちをすっ飛ばして、一直線にある人だかりへと突っ走っていった。
その人だかりには、軍服姿の若き皇帝……フェルトさんが、ヴェーレ首相や各省庁の関係者と会議していた。
その人だかりにリフェリアさんは、突撃し、振り返ったフェルトさんを押し飛ばすような勢いで抱き着いた。
困惑を浮かべるフェルトさんと、人目を気にせず抱きしめているリフェリアさん、苦笑いが止まらない首相。ジト目で見る伍長とアリスティン……そんな構造が出来上がっていた。
「え? え! ちょっと!? どうしたの!?」
「ねえねえ、お姉ちゃんがいなくて大丈夫だった仕事はきちんとできたお姉ちゃん警察庁の執務室でずっとフェルトちゃんのことを心配して心配して今から買い物行こうよ今すぐよし行こう!」
「強制的!?」
素っ頓狂な声を上げるフェルトさん。
リフェリアさんが抱き着きながら喋りっぱなしで買い物に連れ出そうとしたので、周囲の人間がリフェリアさんに警戒心を抱くようになってしまった。
ああ、だめだこりゃ……。伍長はジト目でリフェリアさんを見つめる。
その視線に気が付いたリフェリアさんは、どう思ったのか徐にフェルトさんから離れ、伍長にウインクしてこう告げた。
「おじ様、私に惚れるのは有難いのですが、私に人妻なので……」
「なんでだよ!?」
今度は伍長が素っ頓狂な声を上げた。
なぜジト目で見られているのに、惚れている目で見られていると思ったのだろうか?
「……アドルフ閣下、おいたしてはいけませんよ……」
「な!? 違う……」
変に誤解を受けてしまった。
中の人から言うのもあれだが、伍長にはそんな度胸はない。
特徴も寝起きが悪いぐらいで、周囲の人々からの伍長のイメージが怖くなってきた。




