第9章3話
中央行政特別区域内に入ってしばらくたつ。
今までは、高層ビルやものすごい近未来的な建築物が立ち並び、人々が意気揚々とした雰囲気を出していたスウェットハーヴェン特別自治区とは違い、中央行政特別区域のフェンスの中は高層ビル群が立ち並ぶだけで、他には一切何もなく、人々もスーツ姿か軍服を着た人しか見なくなった。
それもそうだ、各国の大使館や中央省庁庁舎、国営企業・国営放送の本社・本部、中央証券取引所、国家評議会議事堂、連邦政府庁舎、国防軍中央駐屯地、首相官邸、首相公邸、最高連邦裁判所、スウェットハーヴェン特別自治区自治庁舎などの国家の中枢施設が数多く点在するからである。
そのせいか、幹線道路にもかかわらず、先ほどからすれ違っている車の多くは、軍用車かリムジン車、高級車といった車が多く、しかもすれ違うのも数百メートルに1台または2台の頻度であった。
「……本当に街中なのか? まるでベルリンの壁によって包囲された西ベルリンのようだぞ……」
あまりの人通りの少なさに、伍長は呟く。
確かに伍長さんの指摘は間違ってはいなく、壁がコンクリートだということと、中は行政やではなくフェンスというだけで、あまりベルリンの壁と大差はない。
「くくく、確かに自分たちも毎日毎日ここを通ってますが、いつもこれくらいですよ。……いや、今日はいつもよりかは多いか」
「マジか! ……いつもより多くてこの量って、じゃぁ普段はどのくらいなんだよ……」
風見川が語った衝撃的な事実に驚きとさらに深まった疑問に首を傾げる。
「まぁ、仕方がないですよ。今日は平日、仕事をしている人が多いんでしょう」
「……それを言うなら、休日はほとんど誰もいない」
「……それもう、ゴーストタウンじゃね?」
内藤家の弟の発言に伍長はため息まじりにツッコんだ。
「でも、最近では、ヴェーレ首相が閉め切った区域内に新たな風を取り入れるために、一部区画を民間企業に貸し出しているそうですよ。その分、民間人の流入がだいぶ多くなりました。」
ですが、その分落書きといった迷惑行為も増えてきたんですけどね。そう一言付け加える内藤家の兄のほう。
「はぁ、民間のねぇ……」
民間人らしき人影を探そうとする伍長だが、それを内藤家の兄のほうが止めに入る。
「いえいえ、ここにはいませんよ。民間人はこの区域の第2区画と呼ばれる場所にいます。まぁ、その周りもフェンスで囲まれていますが……」
「……やっぱここ、収容所か刑務所じゃないのか?」
呆れ顔でそう呟く伍長。
武装した兵士にあたりを囲むフェンス、監視塔に狙撃手、人気の少なさ……うん、物的証拠はばっちりだ。いや、 人気の少なさは果たして関係があるのだろうか?
「ちなみにどんな会社が入っているんだ?」
「えっとですね……。なんだったっけ? 覚えているか、吉秀?」
「……皇宮財閥」
「民間企業じゃねぇ!?」
思いっきり国営企業だったため、伍長はツッコミも兼ねて素っ頓狂な声を上げた。
いや、民間人の従業員や社員を雇っている皇宮財閥傘下の国営企業ということならば、ある意味民間企業と言えるのではないだろうか?
そんな雑談にも近いどうでもいい話をよそに、車はどんどん幹線道路を進んでいき、丁度ビル群も先ほどより断然多くなってきた。
どのくらい多くなったかというと、特別区域内に入った時は、50階ほどのビルや中世ヨーロッパ風の中央省庁庁舎がチラチラと見えていたり、中に努める職員用の公営食堂や公営コンビニも混じっていたのだが、そのような建物は一切なくなり、150階越えの超高層ビルしかなくなってしまった。
果たして耐震工事は施されているのだろうか?
「ん? そういえば各国の大使館はどこにあった? そんな建物今までに見た記憶がないぞ」
伍長が疑問をぽっと漏らす。
「えっとですね、ス連邦と国交を結んでいる国の大使館は大体大使館ビルと呼ばれるビルの中に入っています。ルート的には見られないでしょうが、1フロアに1か国の大使館が入っているんですよ。」
「ほぉ、ということは、地球各国の大使館もあるのか?」
あるならばドイツ大使館に行って自分がどのように向こうで死んだのか、本当に存在していたのか調べてみようと思ていた伍長だったが、内藤家の兄は首を横に振りありませんと答えた。
「地球各国の大使館は、ミッドウェー島沖の人工島に設置してあります。
オーバーテクノロジー満載のス連邦や惑統連でその科学力を盗もうとする国家も存在します。そんな国にもし最新技術が盗まれて世界の軍事バランスが傾いたら……どうなりますか?」
「……それは恐ろしい……」
例えば覇権主義のC国が超大国A国に対抗するためス連邦の荷電粒子砲関連の技術を大使館経由で盗んだとしよう。そしてそれを完成してしまった。
すると、A国より上の技術を手にしてしまったC国は瞬く間に暴走するだろう。
そう内藤家の兄は言いたかったのだ。
ちなみにA国やC国は完全に空想上の国家ですので、ご了承ください。
「なら、在地球ス連邦大使館はどこにあるんだ? その人工島か?」
「いえ、在地球大使館は国際連合に設置しています。惑統連の大使館なので在国連惑統連大使館となりますね。ス連邦は接触国の日本に大使館を置いています。」
「へぇ~」
なんかすっごいどうでもよさそうな反応をした伍長。
まぁ恐らくドイツ大使館がないことに落胆したからこのような反応なのだろう……。
「……興味なさそうですね」
「いやだって実際興味ないもの」
「…………」
そう堂々と言われてしまうと反論する気も起きずに、渋々黙り込んだ。
と、
「おーい、あんたら、もうすぐ目的地に着くでぇ、そこの銃手席から外見てみぃ、びっくりする景色みられると思うでぇ」
運転手が伍長たちに話す。
「む、目的地だと? そういえば目的地ってどこだ?」
今更ながらどこに向かうか一切知らされていなかった。
ふと、それを思い出し、近くに座る内藤家の兄のほうに問いかける。
「あれ? 聞いてませんでしたか?」
「あぁ、風見川は明日迎えに来ると言っていただけで……」
「ちょ、風見川さん。目的地つたえなくてどうするんですか!?」
「くくく、いやはや申し訳ない。すっかりさっぱり忘れていたわ」
「わ、笑い事じゃねぇ……」
え、何? この人たち目的地伝えなかったのって、私のこと嫌いだから!? と少しばかり自分の周りからの評価が気になってしまった伍長。
特に身に覚えのないのに、嫌われているのは、悪意を持っているといえよう
……じゃぁ善意を持って嫌っていることはあるのか?!
「くくく、改めて申し訳ない。自分たちが向かっているのはあそこだよ」
フロントガラスのほうを指をさす風見川。
それを目線で追う伍長が、フロントガラスの先に映っているものを見た瞬間、
「な、なんじゃありゃぁ……」
驚きのあまり絶句してしまった。
伍長が見たもの、それは……
「ようこそ、ボリスさん。ス連邦最大の名所であり、ス連邦中央行政特別区域中央にそびえたつ5つの超高層タワー、連邦政府庁舎ビルに」
内藤家の兄はそう言った。




