第9章2話
翌朝9時。
連邦総合病院来客用ロータリーに民間軍需企業であるメルフォード社製の多目的起動装甲車、MF8が止められていた。
多目的起動装甲車MF8は、その名の通り、砂漠地帯から熱帯雨林、極寒地、湿地帯といった様々な場所で様々な条件下でも対応できる装甲車として開発製造されている現役装甲車である。
現役なので、現在陸軍、海軍陸戦団で運用されており、様々なバリエーションの派生型が存在している。
武装は41㎜CC軽戦車砲が1門、12.7㎜CC機関銃が2門装備されており、地球の兵器でいえばハンヴィーに似ており、いかにも軍用車両といった外見をしていた。
そんなMF8に向かってスーツ姿の一人の男が、病院の正面玄関から歩いてくる。
男はMF8に一瞬困惑した表情を見せたが、そのまま乗り込んできた。もちろん、この男は伍長閣下、諜報活動の時に使う変装用のネクタイを着用しているため、どこかの総統閣下のような見た目である。
ちなみに、ベッドと伍長の右手を拘束していた手錠は、もちろん外された。
まぁ、拘束されていた理由も、形式的な拘束だったし……。ベッド側の手錠はすぐに取り外せるし……。
その伍長が乗り込んだ車内には他に3人の黒いスーツ姿の男と、軍服姿の男が2人座っている。
スーツ姿の男は、風見川率いる公安警察の人間であったが、国防軍治安維持庁の知り合いは残念ながら伍長にはいない。
「どうもボリスさん、紹介しますよ、そこの軍服の2名の方は国防軍治安維持庁から派遣されたモブ……ではなく、右に座っている奴が内藤 吉政君と左の男が内藤 吉秀君ですね。で、ええっと、この人がボリス・ヴァーゲン……連邦捜査庁からの出向員ですね」
「あぁ、どうも。ボリス・ヴァーゲンです。よろしく……」
「はい、内藤 義正です。国防軍治安維持庁情報部に所属しています」
まず、正面向かって右に座っている20代後半の男性が伍長の差し伸べた右手を漫勉の笑みで受け答えた。
「で、こいつが私の弟の内藤 吉秀です」
「どうも……」
その隣に座る痩せ型の20代前半の男性が、流されるがごとく伍長と握手した。
「ということは、二人はご兄弟で国治維庁に?」
「ええ、私が先に入庁しましてね、そのあとにこいつが入庁してきたんですよ、引き籠りだったのにどうやって入ってきたんでしょうかね?」
「ちょ、兄さん……。そういう話はやめろって……」
「おお、すまんすまん」
国防軍治安維持庁に入庁するためには、国家公務員国防総省試験にて最低20位以上入っていなければならず、また自分から入庁することは難しい。
大体は、旧ソ連の保安委員会のように、機関の人間が接触してきて、そこでやっと入庁することが出来るそうだ。ちなみに現在の某大国の大統領もこうして保安委員会にはいれたそうだ。
「おーい、あんたら、そろそろ向かわんと間に合わへんで!」
MF8の運転手がエンジンをふかしながらバックミラー越しで伍長たちに叫んだ。
慌てて空いている後部座席に座り込み、しっかりとシートベルトを着用する。たとえどんな軍用車両であろうと、シートベルトは万国共通で着用義務がつけられている。
なんでもどこかの国では、戦車にもシートベルトを着けているとか?
……木々をなぎ倒し、家屋を破壊し、車を踏みつけ、高速で移動することが出来る力がある戦車なんかにシートベルトは必要なのか?
・・・・・・・・・・・・
車はゆっくりとロータリーを回りスピードを上げていく。
以前ここを走ったときは伍長の場合、意識不明の重体状態で救急車に乗って運ばれてきたため、ここまで来た道のりを覚えていなかった。帰りは複数の警察車両に囲まれていたし……。さらに今回はドクタージェット輸送機という名前からして変態じみている飛行機で運ばれてきた。
病院へは担架に水平維持装置とパラシュートを取り付けてカーゴドアからけり落され病院のロータリーにシュタッと着地した。
その際は、患者の恐怖心を抑えるために耳栓と目隠しをする必要があるので、伍長さんは病院への道のりを必然的に覚えていなかった。
伍長はふと思う。
連邦総合病院は結構な大病院で、様々な最新医療(惑統連からのおさがり)を所有していたはずだ。
なのに、なぜこんな山の中に建てられたのだろうか?
市街地に建てれば、それなりの利益が得られそうなのに……。
「いえ、市街地にも大型病院はあるんですがね、あれくらいの病院を建てられる土地というのがなかなかありませんしね。さらに新たに立てる必要がないというのも大きな利点だそうですよ」
「……なぜ私の考えていることが分かったのだ?」
まるで心を読むかの如く、伍長の抱いた疑問に答える内藤家の兄のほう。
ただ、彼は決して超人的な能力があって人の心を読んだわけではなく、
「いえいえ、ボリスさんの表情からそう読み取りました。先ほどから連邦総合病院のほうをチラチラ見ては首をかしげていたようでしたから……。すいません、職業柄か、他人の考えには異常に鋭くてですね……」
いったい情報部ではどんな訓練を受けて、人の心を読めるようになったのだろうか?
どうやらこの疑問は悟られなかったらしい。
「…そういえばボリスさんは、連邦捜査庁のどのような部署に所属しているんですか?……」
弟のほうがおずおずと伍長に尋ねてくる。
「あぁ、特別捜査局という部署に所属しているな、まぁこれっぽっちも事件事故捜査なんて回ってこないんだがな……。だから実質は諜報機関だ」
確かに彼が今までやってきたことって、調査、逮捕、調査、破壊、潜入、破壊、カーチェイス……しかやってないからな。もう工作員でいいんじゃないか?
いや、諜報機関ですら怪しい。
「はは、それはそれは……」
苦笑いを浮かべる内藤家の弟。
と、
『前方の車両! とまれぇ! ここから先は中央行政特別区域である。』
拡声器から明らかにこの車両を指している停止命令が聞こえてきた。
伍長はMF8のまるで戦車の覗き窓のごとく小さな窓から外へと目を凝らした。
そこは異様な雰囲気を出している。
ス連邦首都しかも市街地の中に5mほどの高さのフェンスが区域内をぐるりと囲み、数百メートル間隔で監視塔が存在し、ライフルや荷電粒子砲(小型)を装備した兵士がキョロキョロあたりを見渡す。
まるで、何かの監獄のようであった。
伍長さんたちはその中の、国境検問所みたいな場所に来ている。
『代表者は顔を出せ!』
一人の兵士が指示を出す。
代表として風見川が銃手席から顔を出した。
『所属、階級、名前、そして要件を言え!』
「公安警察庁警備部第2課所属の風見川だ、階級は警部補、特殊事案3 E号の発令により召集された!」
そう言い終えると同時に兵士は、部下に何やら指示を飛ばし、
『わかった、そのまま通れ!』
ゲートを開ける。
そのまま車は何事もなかったかのようにゲートを通り過ぎて行った。
ちなみに特殊事案とは、首相または連邦政府が発令するもので、その3番目の項目、E欄に書かれたことが今回発令された。
「……あんなに厳重な警備をする必要があるのか?」
伍長は検問所のような施設を通過するとき、ぼそっと呟く。
「あれ? ボリスさんってもしかしてここを通るの初めてですか?」
内藤家の兄が問う。
「あ? あぁ、生まれはルーストルーデンブルクであるし、連邦捜査庁本庁は皇居特別区内にあるものでね……」
とっさに思い付いた言い訳である。
ルーストルーデンブルクは伍長の最初に仕事先で、少しの間だが、面白く人情味のある町だった。なのでとっさに生まれをルーストルーデンブルクだと語った。
「へぇ、皇居特別区ですか、あそこってよっぽどなことがない限り入れないんですよね、」
「まぁ、だろうな……。……で、なぜこんな厳重な警備なのかね?」
「あぁ、簡単です。ここの中に各国の大使館があるからですよ。まぁ中央省庁があるということからこんなに厳重な警備になっていますが……」
苦笑いを浮かべながら内藤家の兄はそう答えた。




