第9章1話
惑星統合連盟……通称惑統連を脱退した丁度その日、連邦総合病院警察病棟の特別病室、その中に二人の男が右手に手錠をかけられた状態でベッドに寝そべっていた。
もちろんその男というのは、伍長とルーズルートの2名。本来ならば普通病棟に入れられるはずだったが、警察の上層部の判断によって重要者共同収容病室に入っている。もちろんネクタイを外された状態であるが……
もちろん警察の上層部に圧力をかけた組織がある、系列的にみると、警察病棟管理課<警察庁警備部<警察庁上層部<総督省<皇宮省<皇宮大臣<大天皇帝という感じになる。
まぁ……ね、陛下にとっては侍従長とそのお友達で、大事な手足でもあるのだから……。
そんな二人の共同病室に黒服のどこかの怪しい組織の人間という格好をした男たちがいた。
「どうも、お二人さん。……いや、片方の方はお久しぶりですね? 公安警察庁の警備部第2課の風見川です。」
怪しい組織ではなく、もっと怖い組織のさらに怖い人たちであった。
「む? 確か連邦捜査庁の地下取調室で私らの手柄を横取りした人たちか?」
「くくく、なんという人聞きの悪いことを、自分たちも仕事っていうものがあるんでね。っと、まず紹介しておこうか、自分の部下で警備部第2課のチーフテンと、同じく警備部第2課の河北だ。」
風見川は二人の男を紹介していく。
二人は風見川から紹介を受けると、伍長たちに一礼し、何も言わず直立不動で待機する。
「ああ、これはご丁寧に。私は連邦捜査庁特別捜査局のボリス・ヴァーゲンだ。」
伍長はあくまで偽名と架空の組織名を語る。
特殊諜報捜査局というのは、名前からして重いっきり諜報機関だ。別に発覚しても問題はなさそうだが、首席顧問という名の依頼主がフェルトさんなので、問題は大ありだ。
なので所属組織名を聞かれたら、架空組織である特別捜査局という組織名を語る。
名前については……。……まぁ、彼らには伍長さんたちの名前は知られていないので、別に偽名を語ってもよかろう。
「同じく、連邦捜査庁特別情報局のニュルンベルク・ワーグナーです。よろしく」
今度はルーズルートが自身の名前を語る。
ちなみにルーズルートのベッドは一番奥の窓際である。
「くくく、ご冗談を……。……アドルフ・アルベルト、連邦捜査庁特殊諜報捜査局A班班長、趣味は特にないが、二人の子供がおり、イクメンである。
何かの偶然か、皇帝陛下暗殺未遂事件・ビジネスホテル放火事件の際に、陛下を救助に行き、気絶しながらも命からがら陛下を守り抜いた英雄。
その縁もあってか、現在の連邦捜査庁に半ば強制的に入庁し、特殊諜報捜査局A班班長となった。
……その反応だと、本当のことのようだね?」
伍長は目を白黒していた。
彼らの身分も含め、機密事項となっているはずである。
そりゃぁそうだ、別の諜報員に狙われる恐れかってあるのだから、うかつな情報公開は出来るはずがない。特殊諜報捜査局は公には知られていない組織だし、伍長の名前は出ていても写真は出ていないので、伍長のことをアドルフ・アルベルトだってことは誰もわからないはずだ。
なのに、風見川という男は、彼のことを何もかも知っていた。
この意見にはルーズルートも同じのようで、まったく同じような反応をしていた。実に似ている。
「で、奥の貴方は……。フェラン・ルーズルート、連邦捜査庁特殊諜報捜査局局長兼侍従長、趣味は不明、奥さんにアリスティンという皇宮省筆頭事務次官がいる。
国家元首の侍従長として重要な役割を果たし、侍従武官からも仕事を奪うほどの軍事・政治関係は詳しく国家戦略でも非常に大きな影響を与えている。
……そう考えると、あんたもすごいな」
ルーズルートの履歴を改めてみると、結構すごいかもしれない。
侍従長で、諜報機関の局長で、皇宮省の幹部が奥さんで、侍従武官からも仕事を奪えるほどの軍事・経済学に精通していて、フェルトさんの教師でもある。
……どこの完璧超人なんだ!?
「はぁ……。それはどうもありがとうございます……。……お得意の内情捜査というものですか?」
「くくく、わかりますか? ええ、ちょっと連邦捜査庁に部下を送り込んでいましてね、そこからちょいお借りしてきました情報ですわ」
ニンマリと笑う風見川。
「そうですか、それで公安警察の人間が何故私たちに何か御用です?」
ルーズルートが風見川に尋ねると、風見川以下3名は伍長さんとルーズルートの寝そべるベッドの間へと歩みより、来客用に置かれていた椅子に腰かけこう答えた。
「そうですね、何個か聞きたいことがありますがね、まずなぜペルシアント惑星王国なんかにいたんですかね? いやね、諜報活動でいったならわかりますけど、それなら大金とハッキング装置、それにヴァイツァー20なんか持っていたんですかね?」
「いや、普通に諜報活動していただけだがね? なぁ、ルーズルートそうだったよな?」
「はい」
諜報活動を認めるのはどうかと思ったが、まぁ、特殊諜報捜査局が知られているなら、問題はないだろう。
「ふ、まぁそういうことにしておきましょう。……そういえば知ってますか?」
「? 何をだ?」
「……ス連邦が惑統連を脱退したことを」
「……あぁ、今朝のニュースで知った。なんでも加盟国家から脱退勧告を受けて、脱退せざる負えないとの判断だったそうだが。脱退したら何か問題でもあるのか?」
伍長の素朴な疑問に答えたのは、政治の先生でもあるルーズルートであった。
「そうですね、脱退したメリットとしては分配金を払わずに済むこと、安全保障分野に関与しなくてもよくなったということ、技術公開をしなくてもよくなったこと、地球外交の独占ができるようになったことが挙げられますね」
「ほぉ~、じゃぁデメリットは?」
「えっとですね……」
顎に手を当てデメリットは何か真剣に考える。
「まず、関税がかかるようになったこと、自由貿易が出来なくなったこと、海外に行くにビザを申請する必要があること、安全保障分野にかかわれなくなったこと、外交がヴィルヘルム惑星大公国経由でしか出来なくなったこと、宇宙航路の安全が確保しにくくなったこと、経済制裁を受ける可能性が上がったこと、戦争・紛争への介入が出来なくなったこと、世界への影響力が低下したこと、共同安全保障への参加が出来なくなったことなどが挙げられますかね?」
「デメリットだらけじゃねぇか!」
それほど惑統連の加盟というのは重要なんですよ、とルーズルートは付け加える。
「それで? 惑統連からの脱退がどうしたんですか?」
「あぁ、そうだったな。……これを渡して来いと上から言われたんだったね」
風見川は懐から一枚の封筒を取り出した。
前に、フェルトさんからの招待状が入っていたような高級封筒ではなく、ありきたりな……手紙を入れるような普通の封筒であったが……。
その封筒を拘束された右手と左手を起用に使い、封筒を開き、中に入っていた書類をビクビクしながら目を通す。
だってね? デジャヴだもの……。入院中に人が入ってきて、封筒を渡していくシーンなんて……。
そして、真っ先に入った文章に、伍長の顔はしかめっ面になった。
「召集令状? アドルフ・アルベルト様? なんだいこれは?」
そこには、
~召集令状~
アドルフ・アルベルト閣下
しか書かれていなかった。
「くくく、そのまんまの意味さ。……惑統連からス連邦が脱退したから、軍事技術や最先端科学技術の技術公開がされなくなってしまって、各国がそれを盗むためにこぞって諜報員を送り込んできたのさ。
密入国しようとしてきたものは、国防総省が対応してくれているが、いかんせん、元々ス連邦にいた諜報員や工作員の発見は困難を極めていてね。そこで連邦捜査庁、公安警察庁、国防総省情報局、国防軍治安維持庁、警察庁の一定の職員が集められて諜報員の摘発に乗り出したわけさ」
「な、なるほど……」
つまり、諜報員を摘発したいんだけど、いかんせん数が多いから、捜査機関・諜報機関合同で摘発しましょう……ということである。
「ちなみに、推定でいいから諜報員の数はいったい何人ほどだ?」
「1万300人ほど」
「はぁ!?」
まさかの万単位だったことに伍長は衝撃を受けたが、侍従長でありフェルトさんの最側近のルーズルートは大体の数を知っていたのでそれほど驚かなかった。
ちなみに、ス連邦から他国に放っている諜報員は、2万人に上り、大体は外交官と称した諜報員だったりする。
「まっ、そういうことで、明日の9時、迎えに来るからよろしく頼んだぞ」
そういうと、風見川たちは共同病室を出て行った。




