第8章3話
公開尋問。
それは、発言者側……つまりは尋問対象者にとっては異常な威圧と自分を一斉に見つめる大多数の目線という巨大なプレッシャーが訪れる。
しかもそれが、すべて国王級や首脳級と言った国家の重鎮、権力者なのだからなおさら質が悪い。
弱小国家や小国ならば、列強国家がにらみを利かせれば、横暴した態度が一変、自重し、譲歩する。それでもプレッシャーという無言の圧力の中、浴びせられる質問や罵声、怒号と言った言葉に耐え続け、答弁しなければならい。
ある種の拷問でもある。
その公開尋問が今まさに惑統連総会大会議場で行われようとしていた。
巨大な円卓の中心部に位置する惑統連の国章、それを踏まないように国王諸氏などが着席している観客席のような席に向かって向いている一つの演説台のようなもの。
周りを列強各国の国家元首や首脳が固める中、その演説台のようなところに一人の少女が腰掛ける。
演説台には、暗くなった室内から浴びせられる強烈なスポットライト数台が一転を照らし、まるで舞台で演舞をやる主演女優のような感じである。
歩くたびになびいている白銀色の髪と容姿から、議場にいる全員満場一致で皇帝ではなく女帝として君臨することを望んだ。なお、ペルシアント惑星王国は……ゴニョゴニョ……
なお、本編とかかわりがないので、話させてもらうが、1年後の総会でそのような声明を発表しようとしたが、ス連の国家的圧力と拒否権のような何かを行使したため、声明が出されることは無かった。
まぁそんな、国家元首たちがそういうほうの趣味か何かをお持ちだったことはさておき、演説台に腰掛けたフェルトさんは宣誓する。
「宣誓。私は今より行われんとする公開尋問および証人尋問に対する質問者からのいかなる質問に対し毅然とした態度で望み、出来る限り虚偽発言を行わないことを誓います。
ス連邦大天皇帝 フェルトベルク・A・スウェットフェルクロード」
スポットライトの強烈な光から目を守るために、少しばかり目を細めながらそう宣誓した。
自分の名前を言うという事は、虚偽発言したものがいったい誰か責任追及を可能とさせるためにある。
「では、只今よりフェルトベルク皇帝陛下の本件の公開尋問を行います。私が指名しますので、それまで質問はしないでください。えっとでは……。ヴェールリン惑星公国皇王陛下」
結構な数の国王または首相級が手を上げる中、首相は一人の80代の老人を指名した。
「ああ、儂ですかい……。こんにちは陛下、ご機嫌いかがですかい?」
「はい、陛下。まぁまぁ、いいほうだと思いますぅ」
にっこりと笑顔で返事をしたため、公王はモニター越しに穏やかで頷くような素振りを見せていた。
だが、隣に座る首相らしき男性から、質問するように注意を受けると、穏やかな表情のまま質問へと入った。
「さて、陛下。儂が聞きたいのは、統合軍での作戦指揮参謀本部で行われていた会談の間、いったい何をされていたのかね?」
「……。答弁申しますと、統合軍作戦指揮参謀本部が行われたのは、私が就寝しきっていた深夜の零時です。夢の中でした」
「そうかい……。ちなみに何の夢を見たんじ……っ! 痛てててて!」
画面越しからでも、直接見ても何やら痛そうに悶える男。どうやら映像の変なミスではないようだ。
「陛下、それ以上はプライバシーの侵害です。」
「ひっ!」
隣の女性が、公王を凄い形相で睨みつけると、悶えていた爺さんがビクゥとなった。
「す、すまんの、儂からは以上じゃ」
隣の女性が睨みつけているので、爺さんは震えながら質問を終えるが、いつものことだったので特に誰も気にはならなかった。
ちなみにこの爺さん、丁度お孫さんがフェルトさんとおんなじくらいの年齢で、実にフェルトさんに甘い。一国家元首なのだが、結構ヴェールリン惑星公国とはお付き合いが深い。甘すぎて隣の女性にセクハラではないか見張られるほどに……
どのくらい国家同士が深いかというと、ス連がこの惑星の安全保障を担当している代わりに、結構高品質な石油を輸出してくれている。日米関係的な?
「……えー、では……。FSPF(自由社会主義惑星連盟)会長閣下」
首相が50代のちょび髭を付けたおじさんを指名した。
というか、この惑統連加盟国というものは実にユニークな名前が多い。
今当てられた自由社会主義惑星連盟もそうだし、ヴァークス惑星連盟もそうだ、まぁ大体こういう国には旧ク連時代の貴族というのは追放されていない。
大体、元植民地同盟といったところだろう。
もちろん国名に自国の求める主義思想が隠れている。FSPFだって自由社会主義という主義を国策に掲げているから……。
「どうも、皇帝陛下。いつも何かとお世話になっております。」
「いえいえ、こちらこそ……」
「さて、皇帝陛下。我が国でもペルシアント侵攻作戦に関して様々な情報を独自ルート(情報機関)から入手したのだが、その中の一つの市街地への無差別爆撃・絨毯爆撃があったと聞きました。陛下はご存知でしたか?」
「いえ、私が知ったのは首相との会談前に海軍元帥閣下より報告を受けた際、初めて知りました。その時、侵攻作戦があったこと、市街地への無差別爆撃が行われていたことを知りました」
冷静にそう答える。
その冷静さでいえば、今まで伍長さんたちに見せていたほわほわ感というかゆるーい感じとは真逆で、しっかり落ち着いた口調で話せるほど冷静である。
フェルトさんは、演説台に取り付けられているモニターに映る自分の顔と相手の顔をチラッっと、見つめ動揺がないことを確かめた。
動揺を悟られると、これから悟った相手国との外交の際、不利益が生じる恐れがあるからである。
「そうですか。では、私からもう一つ……」
「はい」
「陛下は連邦捜査庁という組織を知っていますか?」
「……はい、記者会見の際知りましたが……」
「そう、ですか……。いえ、私からは以上です」
なぜ最後に連邦捜査庁のことを尋ねたが、疑問に思ったフェルトさんだったが、尋問を受ける側が質問するのは色々不味いということなので、あえてスルーする。
「えー、では……。……では、枢密院議長閣下、どうぞ」
四条はあたりを見渡し誰を当てるか考えたが、列強国席から枢密院議長が手を上げていたので、被害国が質問するという状況に躊躇いつつも議長を指名した。
だが、枢密院議長が当てられた瞬間、数十人の国家元首または首脳級諸氏が不愉快な顔をした板。
「どぉも、皇帝陛下。枢密院議長の矢生貝と申します。先ほどは王女殿下が失礼な態度をとってしまい申し訳ないです。」
枢密院議長は軽く頭を下げたが、ここにいるもの全員が本心ではなく外交上の謝罪だというこは、各国は重々承知していた。
「いえ、お気になさらずに……」
「そうですか。そりゃぁ助かります。さて、陛下、実は私はあなた方……いえ、反乱軍が首都を爆撃しているとき、枢密院にいたんですがね、その時に国防軍総司令官の副官からね、ある報告が上がったんです」
「ある報告……? ですか?」
何のことかさっぱりと、枢密院議長のほうを向いて首をかしげるフェルトさん。
それをどう思ったのか、ニンマリと不吉な笑みを浮かべるとこう続けて答えた。
「いや、”国籍不明の戦闘機数機が首都上空に接近中”という報告をですね、受けたんですよ。言いたいことわかります?」
「……。……それは誠ですか?」
「はい。間違いないですね、憲兵もそう証言しているのですから。これ、明らかにヴィルヘルム軍事作戦世界協定に違反してますよね?」
動揺した。
無理もない、なぜならフェルトさんは国籍マークを付けずに侵略していたことを知らなかったのだから……。
「……いえ、たった今初めて知りました。」
「なるほど……。では、もう一つよろしいでしょうか?」
「はい」
「……陛下はもしかして国軍の軍事兵器には国籍マークを付けないようにご指示さなされていますか?」
「っ!?」
思わず目を見開き、驚愕してしまう。しかし、慌てて今までの冷静な表情へと切り替えた。
「いやですね、今回の反乱軍が意図的に国籍マークを塗りつぶしたというなら構わないんですが、もし陛下が兵器製造の際に指示していたのなら、国際条約違反ですよ? どうなんですか?」
「……。……いえ、それはありません。CC社に国籍マークを貼ること義務付けていますので、それはあり得ません。」
「ふっ、でしょうね。憲兵の話では、戦車にはきちんとついていたようですからね。反乱軍鎮圧部隊の荷も…。ええ、私からは以上です。首相? どうぞ」
「そ、そうですか。えーでは……、あぁ、ヴェルト州惑星連合王国女王陛下……の代行閣下? ですか?」
首相が次に指名したのは、列強国席に座る一人の女性だった。
その席は、宇宙版のイギリス連邦といった連邦国家であるヴェルト州惑星連合王国の国家元首席だった。だが、列強諸国及び加盟国諸国は女王陛下が、いつもの女性とは違う女性だということに気が付いていた。
「はい、女王エレネア・E・ヴェルトヴィアに代わって出席しました、娘のメリア・S・ヴェルトヴィアとも押します。以後お見知りおきを……」
「そうでしたか、これは失礼しました。しかし……女王陛下はいかがされました? 欠席とは聞いていませんでしたが……」
「ああすみません、母は昨晩に急に体調不良を訴えまして、総合病院のほうで入院中です」
「そ、そうですか。」
ちなみに症状は、胃もたれ。
「えーでは、殿下、どうぞ」
「はい。……皇帝陛下に置かれましては、ご機嫌麗しゅうございます」
「はい、ありがとうございます」
「いえ、では王国を代表して質問させていただきます。陛下、貴国の国軍の軍部(統合軍)は今回の反乱で一部を除き全員の更迭が決定されましたでしたわね?」
「はい、更迭外となっている海軍元帥閣下は作戦書類・発案書への署名が確認できなかったことが大きな理由です」
「そうでしたか。つまり強硬派も含め軍部は陸海空宇の作戦指揮・戦闘指揮能力を失ったということですね?」
「……はい、確かに作戦指揮・戦闘指揮は下位組織である統合軍参謀補佐委員会または私に移行することになりますが……」
「では、陸海空宇の4軍指揮能力が消えかけているときに、第19021安保理評常任国会議決議案である、ヴォルデシア共和国へのテロ鎮圧作戦へはどうするおつもりなのでしょうか?」
なるほど……。確かにヴォルデシア共和国へのテロ鎮圧作戦は列強各国軍が主力となっているが、実際はス連が大半を占めている。
わかりやすい例ならば、朝鮮戦争時の国連軍の軍隊編成を見ていただければわかりやすい。所謂ス連邦がアメリカの位置に当たる。……ソ連みたいな国名なのに……
「……私としては、安保理評常任国会議の決議案は無視できないのですが、今回の反乱によって軍内での中立性が危うい状況です。現在国内調がアンケート調査並びに内偵中です。結果次第ですが、三選は不可能かもしれません……」
国内調というのは国防軍治安維持庁傘下内偵調査部の略称である。
まぁ所謂、国軍の兵士たちを内偵する部隊のことで、70名の国防軍治安維持庁職員や軍人が全軍合わせて1万何百人もいる国軍将兵を領収書一つ一つ監視している。
逆に国防軍を監視する統合軍情報部というものがあるが……今回は関係ない。
殿下は何回かうなずくと、こう続けた。
「そうですか。わかりました、私からの質問は終わります」
「えー……。時間が迫りましたので、本質問を持ちましてス連邦大天皇帝公開尋問を終了いたします。休憩時間15分間ののち、ス連邦首相、ヴェール氏への公開尋問を行いますので、では、閉廷!」
小槌を鳴らし閉廷を首相は告げた。




