第7章6話
戦闘機が飛び回る。
町の人々は恐怖に怯え、立ち尽くす者、座り込むもの、家の中に退避するものと様々であった。それもそうだ、この辺りは先ほどから空襲警報がずーっと、ずーっと鳴り響いているからである。
心なしか空襲警報のサイレン音が少し強い音色になったような気もするが……。
もちろん伍長達もこの空襲警報サイレンといい、どこかの国……いやス連邦の突然の領空侵犯および敵ヘリへの攻撃など異常な事態に何もできずに車のドアにもたれかかりたたずむのみであった。
「ご、伍長さん! あの、あの戦闘機の写真を取っておいてください!」
「お、おう……。しかしなぜ?」
「わからないんですか?! 伍長さん、思い出してください。大体戦闘機が敵の領空を侵犯するときって何のためですか?」
「そりゃぁ、いろいろあるだろう? 偵察とか……敵の対空砲をつぶすためとか……あっ!」
伍長は城壁を見渡す。
城壁の上からは定期的な間隔で黒い煙がモクモクと立ち込めていた。それも遠くから見るだけでも結構な数……。煙はサーチライトや城壁設置型の照明に吸い込まれるようにゆらゆら漂っていた。
「そうです、わざわざ偵察だけで敵のヘリは攻撃しない。もちろん対空砲もです。ならなぜ攻撃するか? 簡単です、爆撃に必要な制空権を確保するためですよ!」
「そ、それなら、何故戦闘機を撮影する必要があるのだ? 第一国軍は陛下の命令がない限り動けないんだろう?」
「ええ、そうです。ですが、伍長さん……あの一瞬でしたがあの機体には国籍マークが貼られていませんでした。……伍長さん、ヴィルヘルム軍事作戦世界協定ってご存知ですか?」
車のドアを背もたれにし、ルーズルートが伍長に問いかける。
「いや? 知らん」
「そうでしょうね……。ヴィルヘルム軍事作戦世界協定というのはね? 本来ならば非正規軍への紛争などの時に守らなければいけないことを示した条文なのですよ……。
そこにね? こういう言葉が書かれています。
”本協定加盟国および惑統連列強各国は、正規作戦の際は国家の識別が可能なようなマークを張ることを義務とする。またこれにより、国籍マークが貼られずに軍事作戦を行った場合、惑統連総会で作戦国家の国際批判を決行する”
という条文が書かれているんですよ……。いえ、惑統連の連盟憲章にも書かれています」
確かにヴィルヘルム軍事作戦世界協定の第3条にそのような内容が書かれている。
そして、今まで加盟国1か国、列強国2か国が第3条違反で国連総会で200か国以上からつるし上げを食らった。何をしたかはあまり言いたくはないが……。
そして、ス連邦というのは過去の問題(ク連独裁政権問題)のせいで条約違反や連盟憲章違反などで国際的信頼性を失うことが恐ろしくてたまらない。
別に国際社会との関係を断絶して鎖国してもス連なら生き残るだろう……。だが、それは後々の外交上好ましくはない。
なので、ヴィルヘルム軍事作戦世界協定も破りたくはない。
「なので、ス連邦は陛下が指揮する作戦の場合、国籍マークを書かないという事はあり得ないんですよ!
これらのことから、おそらくこの作戦は……」
「! まさか、統合軍の軍部が指揮しているという事か!?」
「そうです」
そう、陸海空宇宙軍が戦闘指揮権や作戦指揮権を持っているはずがない。
持っているのは皇帝陛下か、統合軍の参謀本部ぐらいである。
「もし、陛下の指揮でなければこれは条約違反です。私達は陛下直属ですが、国家直属ではありません。証拠にもなりますし、参謀本部の人事変更にも使えそうですし、フフフ…」
なんか悪そうな顔をするルーズルート。
まぁ、悪そうな顔をするのも仕方がないだろう。侍従長と参謀本部という別の組織の人間とは言え、中立的穏和派であるフェルトさんと、対立している強硬派として強固な作戦を提案する参謀本部の一部の人間とは侍従長としては関係が良くない。
だって、侍従長は陛下にべっとりだもの……。逆もそうだけど……
「さぁさぁ! 撮って撮って!」
ピピ
丁度一機の戦闘機がくるっとUターンしてきた時に合わせ、持ってきていたスマホのカメラで戦闘機の動画を撮影する。
何故動画かというと、高速で飛行する戦闘機を写真で撮影することはプロかコンピューターか変人ではないとできないと思うので、それなら動画の方がいいだろうという伍長の思いやりから動画となった。
そしてこの動画は後々重要な証拠となっていくのだが、それはもうちょっと後のお話……。
「ん?」
撮影中、何かはるか上空、闇夜の空に何かが点滅しているのがカメラに写り込んだような気がした。
伍長は双眼鏡を使い、点滅している地点を最大倍率で確認する。
推定高度1万メートル以上、地上からでもはっきりわかるような大きな巨体、遠すぎてわからないがその速度は恐らく地球上では考えられない速さなのだろう……。
「ルーズルート! 上空に見えるあの点滅している機体は何だ!?」
伍長は双眼鏡を外し、ルーズルートに対し上空で光っている機影を指さした。
「ええっと……。……あの巨体であの独特な形状……。まさか!」
パッと伍長の方を振り向き、慌てて双眼鏡を覗いている伍長を車の後部座席に押し込み自分の運転席に座り急いでアクセルを踏み込むルーズルート。
いきなり車に乗らされたので、しばらく状況がつかめなかった伍長だったが、バックミラーから見えるルーズルートの蒼白と焦りが入り混じる顔を見て、ようやく問うことにした。
「ちょ、どうしたルーズルート? そんな世界が終わりそうな顔をして」
昔映画で、世界が終わる瞬間、人間が今のルーズルートと同じ様な顔をしていたな……。そう最後に付け加えながら伍長は問う。
しばらく黙り込んで運転していたルーズルートであったが、意を決し話し始めた。
「……。伍長さん、今世界の軍事兵器に問わず発電でも使われている技術って知ってますよね?」
「ああ、あれだろ? 永久機関動力エンジンとかそういう永久機関で動かせるエンジン類だろ?」
「はい、そうですね。これ一機でも一都市分は発電できる力を持っています。これによって石油も石炭などを使う火力発電も、地熱発電も、危険な原子力発電も、再生可能エネルギーと呼ばれる水力、風力、太陽光などそれらの発電所を作らずに、無償で電力を供給できるシステムが完成しています」
「そうなのか! それは便利だな」
「ええ、確かに便利ですが、戦争で使う火薬は賄うことは出来ません。特に戦場で一番火薬を使うといっても過言ではない陸軍と空軍は火薬不足問題に大きな悩みを抱えていました。
そこで、ス連政権発足後、陸空合同であるものを作ろうとしていました……。いえ、作ってしまいました……」
「何をだ?」
「……。ここからは、国家最重要機密となっていますので、私が言ったことは内密に……あと口外厳禁です」
何やら重要な話があるそうなので、伍長は念のためヴァイツァー20と脚立を折り畳み、サンルーフもきちんと閉め改めてルーズルートに向き合う。
「その名前ですが、秘匿なのでCC1となりますが、問題はその内容です。簡潔に言いますと、物質から火薬を製造し爆弾を鉄などを製造して組み合わせることによって、時間はかかりますが半永久的に爆弾を投下するシステムです。
あくまで私もわかる範囲での説明なので、詳しくは知りません。」
「そ、それは最強じゃないか……」
「いえ、まだ試作品なので巨大な装置を入れるように機体を設計しなければなりません。さらにそんな巨体を離陸させることが出来る滑走路………約17㎞が必要なようです」
「へぇ~、でも実用されたら恐ろしいな。半永久的に爆弾を投下できるんだろう? ってか17㎞も必要な機体ってどんなのだよ!?」
「……。どんなのも貴方が見つけたんじゃないですか!……。今この国の上空を飛んでいるあれですよ!」
「え?! あれ!」
改めて伍長は上を見上げる。
そこは天井であったが何となく先ほど見た巨大な機影が見えたような気がする。
「CC1 30(Claude Craft1 30)と呼ばれています。搭載量は初期爆弾で12t、装置で2t、そこから半永久的にですから……。100tは一機で落とすことが出来ますね。」
「えぇ……」
もう驚くを通り越して呆れてきた伍長であった。
「まぁ、旋回するとき結構時間がかかるんですけどね……。ただ、あの機体の恐ろしいところはですね? 複数機でやってくると都市どころか国家が破壊される恐れがあります。
人は誰一人も生きて帰ることが出来ない……。終末世界のような感じになってしまいます。なので急いで逃げないといけません……!」
だがその判断は遅かった。
想像以上に速度が速いCC1 30はあっという間に制空権が確保されている首都上空へ到達し、巨大な機体の底にある爆弾倉が、パカッっと開き次々と1tもの爆弾が次々と投下されていった。
本来現代戦というものは、先に敵の戦略的価値のある施設をミサイル等で破壊するか、ゲリラ戦を仕掛けたり排除したり……そういうのが今のおおよその現代戦である。
ただ、今回の作戦は第2次世界大戦下の無差別攻撃と同じである。絨毯爆撃という名の大量虐殺が今現在行われていた。
1t爆弾がCC1 30から次々と要塞都市・城塞都市である首都パリス・ペルシャアントに投下されていく。それも一機の爆撃ではない。大編隊として何十機もの同型機が首都へと大量の爆弾が投下されていったのだ。
ヒュウゥゥゥー ヒュウゥゥゥゥー
風を切るような音が首都上空で鳴り始めた。
「ルーズルート! スピードを上げろ! 爆弾が当されたぞ!」
「わかってますって! ただ北門から脱出するのは無理なんですよ!」
「何故!?」
どんどんスピードは上がっているが、対照的に北門からはどんどん遠ざかっていた。
「見えないんですか! 北門に何がいるか! 双眼鏡で北門の方を覗いてみてください。」
ルーズルートは後部座席にいる伍長にそう告げると、サンルーフを運転席から開閉し伍長はそこから徐々に遠ざかっていく北門に双眼鏡の視野を合わせた。
伍長が双眼鏡で見る北門。
北門自体は第2の都市へ向かうための主要交通路として常時門が開いていた。国王暗殺後も憲兵が配置されただけで、別に門が閉まったりなどはしていなかったはずだ。
北門の先は一直線に国道が続く。この国の国道はこの世界では珍しく、首都を中心に枝分かれしている構造である。その北門の道沿いには街頭や平原が広がっているはずだ……。
なのに……。
なのに双眼鏡からでも平原が見えない。
北門は首都から郊外に開くように設計されてる。門が見えないという事は門はいつも通り開いているはずだ……。なのに、平原が見えない。
いや、その北門から見える範囲にあるものが埋め尽くしていた。
それは何かの塊であったが、伍長はその塊から生えている象の鼻のようなものを見た瞬間、背筋が凍る思いになった。
「あ、あれは……! 戦車!」
そう、北門から見える平原を埋め尽くしていたのは、緑色に塗装された戦車であった。
「伍長さん! もうちょっと倍率を上げて!」
言われた通り、最大倍率にする伍長。
見やすい……。
戦車の周りや城壁の上で陣取っている人間の顔もはっきりとみることが出来る。
「戦車にどんな国籍マークが書かれていますか!?」
「えっと……。……赤と青の大きな五芒星その中心にある2の数字、その周りを囲む5つの黄色の星……そして五芒星の後ろに隠れるように存在する鉄十字……あれは、陸軍第2機甲砲兵軍か?」
冷静にそう解析する伍長。ここまで高密度な解析が出来たのはブレル状況下で如何にして目標を観測するか……そういう訓練のおかげであろう。
ってか、何故ルーズルートでもない伍長が陸軍の部隊名を知っているのだ!? と思ったけど、さすがは自分の机の上にこの国の資料を集めておいてある伍長だ。知っていてもおかしくないか?
「多分その通りです。陸軍第2機甲砲兵軍は機甲砲兵総軍に所属するペルシアント惑星王国周辺を担当する軍です。米軍でいうところの太平洋軍のような感じです。
ただ……。陸軍第2機甲砲兵軍は、命令系統だと陸軍省直属の部隊ということになります。こういう独立軍というのは元々皇帝の国軍私物化の抑止力となるために、陸軍元帥直属部隊として作られたものですが……。まさかこれが証拠になるとは……」
つまりルーズルートが言いたいのは、皇帝の直属指揮権がない軍が陸軍元帥の指揮なしに動かせるわけではない。しかし陛下がどう関わろうであれ、国籍マークを付けないということは無いだろうと……。
ヒュウゥゥゥゥ ヒュウゥゥゥゥ
「……って! ルーズルート! 前見ろ! そのルート、爆弾直撃ルートだ!」
風切り音が聞こえ、慌てて振り返れば、そこには戦略爆撃機であるCC1 30から1t爆弾がある程度の偏差はあるとはいえ明らかに直撃ルートにいるという事だった。
「ちょ! それは早く言ってください!」
慌ててハンドルを切ろうとしたが、いきなり右に切ればバランスを崩しかねず対向車線にはみ出し、逆に左に切ったら電柱か何かに激突する運命が目に見えてきたので、おとなしくブレーキを踏むことにした。
ちなみに、投下されていた爆弾は彼らがあと数十メートル進んでいたら木っ端みじんの大惨事になって殉職していた可能性がある。
投下された爆弾は、見事なまでに伍長達が進んでいた国道に着弾し……
ドゴォォォォンッッ!!!
と大爆発を連続、連続で起こしていった。




