第6章11話
暗闇で何も見えない垂直ダクトを音を鳴らさぬようにゆっくりと降り、さらに匍匐前進で進むと一つのカバーの前へとたどり着いた。
なお、この排気口のダクト屋上から1階まで一気に下りれる仕組みになっており、縄梯子を何個も持ってこなくてもいいのだが、その分縄梯子なしで降りるとなると強靭な足腰がない限り負傷する可能性がある自然のトラップでもあった。
……いや、人工物なので自然のトラップというべきなのだろうか?
「(伍長さん、懐中電灯あります?)」
「(ああ、一応持ってきているが、必要なのか?)」
こんなにも優れた暗視装置があるのに……。と思う伍長。
「(ええ、このカバー外側から占められている仕組みでしてね、それを外すために手元をたらしたいのですよ)」
「(ああ、なるほど)」
伍長は胸ポケットを探り出し、眼鏡が入れてあった方のポケットから小型懐中電灯を取り出し、ルーズルートへ転がして渡した。
懐中電灯を受け取ると、LEDライトをつけて口に加えながら何やらスーツの上着の内ポケットから取り出し……。
パシュッ パシュッ パシュッ パシュッ
サイレンサーピストルを4発撃った。
これに慌てたのは伍長、慌ててルーズルートの右手を取り押さえた。
「(ちょちょちょ、何してんの!? 何で音を立てるなって言ったのに、音を立てたの!?)」
「(いやいや、だって内側から開かないんですもの、それならいっそねじを吹き飛ばした方が良くないですか? 手間も省けますし、一石二鳥じゃないですか?)」
「(どういう試行しているんだ……)」
自分の恩師の思考がどうしてこうなったのか、なんかむなしい気持ちになってきた伍長。
まぁ、実際はルーズルートの読みは当たっており、普通に外すよりはるかに早くカバーを外すことに成功した。
カバーをゆっくりと持ち上げ、奥の方へと追いやる。
そして……
「ちょ!」
ルーズルートが頭から部屋の中へと飛び込んでいった。
思わず声を上げいぇしまう伍長閣下。それもそのはず、命綱どころかマットすらない場所へ飛び込んでいったのだから……。
だが……
「なっ!」
何とルーズルートは結構な高所のところから落ちたのにもかかわらず、体操選手顔負けの見事すぎる着地を決めていた。どうやら足から着地したらしく、目立った怪我もなさそうだ。
「……っ! 痛ててててて!」
目立った怪我はなかったルーズルートだが、着地した時足を負傷したらしい。
「(おーい、大丈夫かぁ!)」
できるだけ小声で、ルーズルートに問いかける。
その負傷したルーズルートは排気口のダクトから覗いている伍長の方向き、Vサインをした。
ヴィクトリーじゃねぇよ!……。伍長は口パクでそう伝えた。もちろん本人には伝わっていないのだが……。
「(ん? 待てよ? ってことは私もか!?)」
そう、ルーズルートは命綱および縄梯子を付けずに着地したのだ。なので伍長さんも同じようなやり方で降りてこなければならない。
下手をすれば首か頭を打つ大けが、軽くてもルーズルートと同じ足首をくじきました状態だろう。
覚悟を決めた伍長は、排気ダクトのふちにつかまり小さな穴に己のみを必死にねじ込んでぶら下がり状態に持ち込んだ。
そして、手を放す。
重力に引っ張られる体は、そのまま一直線に地面へと向かう。
排気ダクトのカバーの丁度真下は何もない……場所的には待合スペースあたりだろうか?
スタ
そういう擬音が合いそうなほど大きな音もなく綺麗に着地した。
「(よし、着地成功……。ルーズルート、防犯カメラは無効化したか?)」
「(ええ、しておきましたよ。あっ伍長さんもう普通に喋ってもらって大丈夫です」
「そうか、さてでは私は地下の金庫室へ向かうとするよ」
「はい、私もやることが終わったら手伝いに行きますので……。あっ、鍵の開き方わかります?」
「もちろんだとも、任せて置け」
前世の中の人はもちろんだともワトソソ君と言っただろう。……前世の中の人って誰だ!?
・・・・・・・
地下の金庫室に行くためには、3つの鉄格子を開ける必要がある。
一つ目は支店長室から地下通路および地下階段へ向かうための鉄格子。次に地下金庫の手前についている金庫を開けるための装置やパスワード入力機器などが管理されている部屋へ入るための鉄格子。そして貸金庫室と現金が置いてある部屋に入るための鉄格子。
最後の鉄格子は高確率で南京錠で閉じられていることが多いので、銃でチェーンを撃ってしまえば開けることが出来る。
最初の鉄格子も横に穴をあけて入ればいい。
だが問題は、2つ目の金庫を開けるために必要な装置などが管理されている部屋へ入るための鉄格子だ。部屋の広さというのが、大体1、2畳ほどの大きさしかなく、奥行きもそれほどあるわけではない。なので横から爆破で掘り起こそうとしても、電子機器を損傷し、永久に開かなくなる可能性だってある。
さらに鉄格子を開けるシステムというのも厄介で、この銀行の総裁の指紋認証に毎日政府から暗号で贈られてくるパスワードの数字、そして幹部職員用のカードキーを差し込む必要があった。
高出力レーザーカッターの活躍により、第1の鉄格子の隣に人がかがんで通れるほどの穴を向こう側まで通し、伍長は持ってきた荷物を先に穴の奥に置き、くぐり抜けた。
「えっと、問題の二つ目の鉄格子は……」
カツン カツンと靴の音と伍長の独り言のみが響き渡る。
あたり一面大理石で作られた地下の壁からひんやりとした冷気が漂ってきた。おそらく大理石自体が冷房のような働きをしているのだろう。実際こういう大理石は宮殿や屋敷の建築素材にも使われている。
そんな大理石で作られた螺旋階段を下へ下へと下りていく。
「……って、あったあった。わかりにくいんだよなぁ……」
最深部の一番奥にドンと構える巨大な地下金庫。その巨大金庫の手前に1、2畳ほどの空間への侵入を拒む鉄格子があった。
伍長は鉄格子に近づき、ガチャガチャガチャと鍵がかかっていることを確認した。
そのまま鉄格子の鍵をしゃがんで確認しる。
「うへぇ、指紋認証にパスワードにカードキー……。どんなけ厳重なんだよ……」
事前にルーズルートから聞かされていたが改めて見ると結構厄介なシステムである。
と、
「おーい伍長さぁん、そちらはどうですか!」
ルーズルートが螺旋階段の最上部、つまり地上一階部分の中央の吹き抜けから顔を覗かせ、叫ぶ。
「だめだ! 指紋もそうだが、パスワードが一番の問題だ! カードキーはなんとかなると思うが……」
「そういうと思って、総裁室の執務室から総裁の指紋らしき指紋を採取しておきました。ただ、問題が発生しました」
「ど、どうした?」
「ちょっと待ってください、今そっちに向かいますから。」
ルーズルートはそう一言告げると、ものっすごい勢いで階段を下りてきた。バタバタそんな音が鳴りそうな勢いで……




