第6章10話
「えっしょ、よっこらぁっしょ!」
ある建物の路地にある配管、3階建ての建物にパイプを上っている二人の男がいる。
誰であれ伍長閣下とルーズルート侍従長の姿だ。
そして彼らがいるという事は、この建物は例の任務の現場となる銀行である。この世界の銀行とは不思議なもので、民営や私営の銀行は一つもない。もちろん惑統連非加盟国ならあるかもしれないが、加盟国の中ではス連も含め惑統連加盟国中央銀行と呼ばれる国際組織が管理している。
まぁ、例外として一部国家では国内での造幣も許可されているが、基本的には禁止。加盟国内では紙幣制度が大多数を占めているが、物々交換制という国家もあるらしく、そういう国と取引する際は、物と物で取引し紙幣を一切使わないようにしているそうだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、なぁルーズルート、こんな こと ならさわざわざ 郊外 に パラシュート降下せ ずに 銀行の 屋上に 着陸すれ ば よかったんじゃ ないか?」
やっとの思いでパイプを登り切り、屋上で息を切らしながらルーズルートに問いかける。
爆発地点からここまでノーストップで走り、休む暇もなくパイプを登る、さらに軽量化されたとはいえ10㎏以上ある銃火器を持ちながらである。
どこの機密部隊の軍事訓練だよ……。伍長はそう愚痴りながら登ったという。
「確かにそうですが、昼間であれ夜であれ、首都であるここの警備レベルは常時最高らしいです。さらに見てく出さい」
すました顔でルーズルートは鉄筋コンクリート製の周囲を囲む城壁を指さした。
伍長は重い体を起こし、言われた方を見る。
「サーチライトか……」
確かに城壁から何本もの光の筋が空に向かって伸びていた。
「夜の衛星写真を何回か私は見たことがありましたが、よっぽどな非常事態ではない限りサーチライトは出されることはありません。私が最初にここからサーチライトが出たのを見たのは、監視衛星アドルフが投入された時です。監視衛星が自分たちの軌道上に投入されるのをわかっていたのでしょう。サーチライトを照らし地対空ミサイルをバンバン撃ってきましたよ……」
「……今しれっと凄いことを言ったよな? 監視衛星アドルフだって!?」
自分の名前が出てき、さらにそれが監視衛星になっていることに驚きを隠せない伍長。
「あれ? 言ってませんでしたっけ? 監視衛星アドルフというのはアドルフ・フリューシュキンプスという軍事科学者が作られた……ほら輸送機内で見せた衛星写真あったでしょう? あれも監視衛星アドルフが撮影したものなんですよ」
「へ、へぇ……。……なぁその男は私の親戚とそういうのではないよな?」
「いえいえまさか、別人ですよ。今も生きていますし、今度会ってみますか?」
「いいえ、結構。そんなことより任務だぞ!」
「はは、そうですね」
すました顔で笑うので、イラっと来た。たださすがに顔に出すのは不味そうなのであえて顔には出さない。
「さて……、そろそろ時間ですね。では行きますよ」
「おっ、いよいよか」
「ではここから先は会話を含めあまり音を出さないように、」
「了解」
ここからは、基本的に喋らないそうなので、中の人が分かりに状況を逐一説明していこうと思う。
伍長さんたちは、荷物の中から布状のマスクを取り出した。
暗視装置付きの眼鏡を二人とも取り外し、伍長さんは7:3分けの髪と髭の形を維持しながらいかにも銀行強盗といわんばかりの覆面をかぶる。
ルーズルートは特に何もなく普通に覆面をかぶり、さらにその上から取り外した眼鏡をかける。
「(おい、眼鏡かけるのか?)」
「(暗視装置もついてますし、伍長さんも付けといたほうがいいですよ)」
結局喋るのかよ……。伍長は中の人の代理でツッコんでくれた。
伍長はツッコみつつ自分も覆面の上から暗視装置が付いた眼鏡をかけ、暗視装置を起動した。相変わらずの鮮明度である。
荷物を軽く整頓し、ルーズルートのいる方へと目をやる。
そのルーズルートは、排気口に取り付けられているカバーのねじを取り外しているところである。なお排気口なので普通なら人は入らない、人が入れる大きさとはいえ垂直部分は何も置かれていないので、けがをする恐れがある。
なので、ルーズルートがカバーを取り外している間に伍長は縄梯子を掛けられる場所を探し、取り付けなければいけない。
屋上で目立たないようにかがみながら見渡した末、小型電波塔の支柱に結ぶことにした。
「(伍長さぁん! 準備できましたよぉ! 結び終えましたかぁ?)」
「(ああ、とりあえずはな)」
「(そうですか、では私はお先に)」
ルーズルートは一言そう述べると排気口へと入っていった。
後に続けと伍長も匍匐前進で排気口へと入っていく。
人っ子一人が通れるほどの小さな空間で、進路を間違えればバックで戻らなければいけない。
ルーズルートの足を眺めながら伍長は軍事訓練のごとく肘で前へ前へ進んでいく。
数分進み……
下の階へと続くことが出来る場所へ着いた。
「(伍長さん、縄梯子は持ってきましたか? それ、貸してください)」
「(はいよ、これでいいか)」
伍長はまとめられた縄梯子をルーズルートへ手渡した。




