第6章12話
ごめんなさい、長くなりすぎるのでまだ続きます。
「はいこれ、総裁の指紋です」
「ああ、どうもどうも?……
薄いゴム手袋をルーズルートから受け取る。しかも両手じゃなくて右手のみというね……。
それを手に着け、いろいろ眺める伍長閣下。ただ、何故ゴム手袋なのかはあえてツッコまないみたい。というよりツッコんだらいろいろな意味で負けな気がする。
「で、ルーズルート。さっき言いそびれていた問題って何のことだ?」
「ああはい、今から説明しますね。伍長さん、このパスワードは毎日政府からの暗号で贈られてくる数字を入力しないといけないと言いましたよね?」
「ああ、確かそう言っていたな」
ルーズルートの話を聞きながら、右手にはめた手袋の人差し指を指紋認証装置に押し当て、指紋認証を一応パスした伍長閣下。
「そして今何時ですか?」
「ええっと、ちょっと待ってろ……。」
荷物の中から腕時計を取り出す。
「23時42分だな……なに!? 23時だって!?」
「そうです、あと数十分もすれば日付が変わる時間です。そして深夜零時になると、パスワードは……?」
「無効になる!」
「そういう事です、さらに暗号が日付が変われば送られてくるわけではなく、早朝8時の出勤の時間帯に総裁室の暗号受信機に届きます。ですが、それまでの8時間、ここで過ごさなくてはいけませんよ」
「うへぇ、めんどくせえなそれは……。ん? ところでルーズルート、じゃあ今日のパスワードは分かっているのか?」
「…………」
不自然なまでに言葉を詰まらせて何も語ろうとしないルーズルート。
それを見ていた伍長は、焦りを感じ始めた。
「お、おい、まさかとは思うが……分かってないとか?」
「……。本当のことを話しますと、その通りです。」
「…………」
「まぁ、安心してください。暗号は事前に傍受済みなので後は……」
「おおぅ?! 安心できると思うのか? このまま解読出来ずに零時を回ってはい撤収、総裁が暗号文を持って地下に行こうとしたら階段横に穴が開いてあり、指紋認証装置がパスされていた。焦った総裁は政府に通報し、警備レベルがマックスになって二度と入れない状況になったらどうすんだ?! えぇ!?」
恐喝のごとく、手袋をつけていない左手でルーズルートの胸ぐらを掴みすごい勢いで睨みつけながら話す伍長閣下。
まぁ、彼が怒るのも無理はない。パラシュート降下からの国道を徒歩で歩き続け、C4を使い壁を爆破したと思ったら重装備を持ちながら銀行まで全速力で走る。どこぞの特殊部隊の軍事訓練よりも大変だと思う。
不幸中の幸いなのは、湖を重装備で渡れなどという無茶な指令がなかったことだろう。
ついでだが、中の人は一度従兄弟とゴムボートに乗って遭難しかけたことがある。そのせいでライフジャケットなしで泳ぐのが怖くなった。(実体験です、海で泳ぐ際は安全には注意しましょう)
……よく生きていたなと今でも思う。
「おおお、落ち着いてください伍長さん、怖いです、顔が”悪役に大事な人をけなされた主人公が、報復攻撃をするときの怒った顔”のようで怖いです。」
「わかりにくい!?」
伍長さんと中の人は、ルーズルートが例えで言った内容が分かりにく過ぎて素っ頓狂な声を上げた。
そのわかりにくい例えのせいで、伍長は完全に毒気を抜かれ、胸ぐらを掴んでいた左手を離す。しわになったスーツとネクタイを軽く整えると、こう述べた。
「最後まで聞いてくださいよぉ、今日の暗号は行く前に傍受済みです。もうそろそろ……」
と、丁度その時だった。
ルーズルートのズボンのポケットから、何やら威厳を感じさせてくれそうな音楽が鳴りだした。
この音楽は、ス連邦中央国歌である。
ス連邦自体、連合と連邦制が入り混じる複雑な国家体制なので、国歌斉唱の際は中央国歌である~我が祖国 共栄と皇帝と共に~と各連合国家の国歌を二つ歌わねばならない。
~我が祖国 共栄と皇帝と共に~は、2xxx年前、西暦制と共に、完全な中央集権型立憲君主国家が導入された年に国歌になった。
作曲は、ビリオス・バルサノスという著名な作曲家で、あまり関係のない人物である。
「ちょっと失礼します。……はい、ルーズルートです……はい……少々お待ちください。伍長さん、貴方に電話です」
「私に? 誰から?」
訝しみながらも形態を受け取り、耳に当てる。
「はいもしもし」
『よぉ! アドルフ! 久しぶりじゃな、私じゃよ私、』
「……爺ちゃん!?」
電話の主は意外にもアドルフの祖父、ヨーゼフ・アルベルトの声だった。
「えっ、今どこにおんの?」
『何を言っとる、局員室じゃよ。局員室で、ほら、お前さんが育てることになった兄妹……何て名前だったっけ?』
「えっと……そういやぁ決めてないな……。」
『ならこっちに帰ってくる前に考えておけ、まぁ話は戻すが私は今その兄妹たちをあやしながら電話をしておる』
「結構器用なことが出来るんだな……」
『舐めるんじゃないぞ、チャーチルなんか現役時代、一回の交戦中に21人もの将兵を治したで有名なんだからな。さて、アドルフ、なんか脱線しまくってしもぅたが、ここからが本題じゃ。単刀直入に言えば今から言う数字をパスワード認証装置に入力しろ。いいか? 言うぞ』
「ちょ! ちょっと待って!」
慌てて、装置の前でかがみ、パスワード入力画面のカバーを取り外す。
「ああ、準備で来た。いつでもいいぞ」
『言うぞ。6 2 4 1 0 3 1 7 8 1だ。入力したか?』
「ええっと……ああ、6241031781だな?」
『そうだ、ミスするなよ。』
6 2 4 1 0 3 1 7 8 1と順番に入力していく。するとどうだろうか? 鍵が解除されたという青色のランプが光り、ガシャンと何かが動いたような音がした。
「よし、開いた! 凄いな爺ちゃん、どうやってパスワードが分かったんだ?!」
『ああ、そのことなんだがな。実は私も何故番号がそれなのか今一つわかっていないんだ』
「は? じゃあ何でわかったんだ!?」
『実はな、確かに暗号文は連邦捜査庁の情報傍受局が事前に手に入れていた。だが手に入れた暗号文がどこかの学会の論文みたいな話だったんじゃ。
で、暗号が分かっても意味はないじゃろ、だからな、国防総省から解読文章を回してもらった。』
「国防総省だって!?」
『ああ、そうじゃ。国防総省情報捜査室という場所から回してもらった文章じゃよ。何でも監視衛星を経由してハッキングしたときに手に入れた文章じゃそうだ』
監視衛星……ああ、アドルフか。と伍長は思う。
『まぁ、そんなことじゃ。ほんじゃあ切るぞ。妹ちゃんがお腹がすいたらしい』
「お、おう。んじゃぁまた」
『ああ、気を付けるんじゃぞ』
電話が切れ、持っていた携帯をルーズルートに投げて返却した。
「うおっと、ちょっとちょっと! 投げないでくださいよ!」
「おお、すまんすまん。わざとだ、気にするな!」
「何でですか!? わざとなんですか?! 携帯に何の恨みがあるというのですか!」
悲鳴に近い声が地下から上がった。勿論声の主はルーズルートである。逆にルーズルートと伍長以外の人だったらこの閉店時間を過ぎた地下の金庫室には誰かがいるということになる。何それ怖い!
「まぁ、いいですよ。壊れてませんし、貴方が私の携帯にどんな恨みがあるか知りませんけど……」
何で爺ちゃんの電話番号知っているんだよ。と、お前の携帯の待ち受け画面、アリスティンさんとのラブラブ写真じゃねぇか! と二つのことで伍長は携帯を投げた。




