第6章3話
……と、伍長とルーズルート、朝比奈さん3名は前列の座席のモニターで公安警察庁と国防軍治安維持庁の記者会見を無言のまま見ていた。
伍長さんは肘掛けに肘をかけ、ボーっとしながらモニターを眺め、ルーズルートは手元でPCをいじりながら所々ちらちらとモニターを眺め、朝比奈氏に至ってはルーズルートがいじっているPCを眺めるばかりでモニターをちっとも見ようとしなかった。
何故見ないのか?
それは公安警察庁という一部の人間から大いに嫌われている組織と国防軍治安維持庁という完全に憲兵組織が伍長達にはもうわかり切ったことを発表するより大きなことがゴーゴレが運営しているニュースサイトで見つけた。
「伍長さん、伍長さん」
「ん? なんだ?」
名を呼ばれた伍長が椅子の隙間から顔を覗かせる。
「伍長さんは、韓国と北朝鮮……あぁ…朝鮮民主主義人民共和国という国をご存知ですか?」
「ああ、朝鮮戦争があったところだろう? 西ドイツでもたびたび新聞に出てたぞ、何やら今も仲が悪そうじゃないか。それがどうした?」
「いえですね……。どうやらこの2ヶ国、首脳会談をするらしいんですよ……」
「そうかそうか首脳会談をするのか…………えっ! 今何とった!?」
「いえですからね。首脳会談をするらしいですよ、板門店で……」
「うへぇ~、あの2ヶ国がねぇ……」
伍長は朝鮮半島に存在する2ヶ国が首脳会談をするという事に、大変度肝を抜かれた。……そして伍長さんはちょっと微妙な表情になった。それは他人事とは思えない理由がある。
西ドイツと東ドイツ同様、韓国と北朝鮮も同じ民族がすむ国家同士なのだが列強国……まあ知っての通りアメリカ某とソヴィエト某両国に分断統治されそれぞれで独立したという過去を持つ国である。
西ドイツで首相を務めた伍長閣下はその当時、東西冷戦真っ盛りで資本主義国家と共産主義国家が対立する構図になっているためドイツ統一を成し遂げることが出来なかった。
そして自分が首相の任期を終え、この世界に来てからようやくドイツ連邦共和国が建国されたのを知ったのだ。
しかしそれは、分断されてから45年近く経ってからの1990年であったが……。
伍長はそのことを知った瞬間大いに喜んだ。だが対照的に苦難の表情も滲み出していた。
それはなぜか?
東西ドイツの経済格差であった。
東ドイツは社会主義国の優等生と呼ばれていたが、西ドイツほどに発展している訳ではなかった。再統一後のドイツは深刻な不況に襲われ、その影響は長く続いたほどである。
実の話、伍長は政権を取る前と取った直後、秘密裏に東ドイツの経済状況を視察していた。(本人ではなく専門の人に調査を頼んだそうだが……)
そして西ドイツとの経済格差があることが、将来的に再統一しても格差のせいで不況に襲われると予測していたのだ!
そして不運にもそれが当たってしまった。
今回の韓国、そして北朝鮮が統一したとしよう。しかしかつての西ドイツと東ドイツが再統一した時に生じた経済格差が今回でも出てくるかもしれない。
こういう経緯があって伍長は微妙な表情になってしまったわけである。
「それにですね……」
「ま、まだ何かあるのか?」
伍長は悲報を覚悟で問う
「いえ、近々米朝首脳会談が行われるそうです」
「……ルーズルート。君と私は疲れているんだよ……」
伍長は考えるのを、止めた。
「いやいや! ここにそう書いて……あれ? メールですね……」
しばらくPCをじっくり凝視したルーズルートは、顔を上げ伍長に言う。
「伍長さん、任務内容の変更と追加任務が来ました。」
「変更? 何を変更するのだ? 銀行のお金を持って来いとか……」
伍長はお金でパンパンに膨らんだバッグを担ぎ、警察車両の追跡から見事なドライビングスキルで逃げ切るシーンを想像してしまった。だいたいこういうシーンでは必ずといっていいほど事故が起きる。
……あっ、伍長が乗った車のタイヤすべてが一斉にパンクした…。
「いえ……どうやら時刻変更と侵入経路ですね、これを見てください…」
ルーズルートは、PCをタブレットとキーボードに分離させ、タブレットに表示された地図を使い説明し始める。
「本来ならば銀行へ向かう時刻は昼、銀行員が持ってきたお金をその場で燃やすという手はずだったのですが、警察に通報されやすいというデメリットと共に、今回の皇帝暗殺未遂事件で非公式ながらぺ王国の財政を牛耳るマフィアが関わっているという情報もありましてね。ぺ王国はス連の報復措置を恐れて厳戒態勢を敷くと思うのです。
そんなところに銀行で……しかも国家予算の一部を管轄する中央銀行でお金が燃やされるとわかれば真っ先にス連邦の関係者が疑われることになります」(注、この世界での通貨の単位は円ですが日本円ではありません)
「なるほど……つまり闇に紛れて侵入し燃やすという事だな?」
「はい」
「しかし……そうなってくると、いろいろ問題が生じるぞ? まず侵入経路だ。私らは正面玄関からどう堂と入る手はずだったが、それは出来そうにないだろ?」
伍長は座席の隙間から顔を覗かせ、腕を組みながら首を傾ける。
「ええ、確かに正面玄関はシャッターが閉まっているでしょう。なので……ここです。」
画面が地図から高性能人工衛星が撮影した衛星写真へと切り替わる。
高性能なので画質が良く、録画もでき、歩いている人間の指紋も取ることが出来る。つまりこれを使用することによって事件の容疑者を一瞬で発見することが出来、場合によっては監視社会へと変貌するものなので、運用をめぐり政府と人権団体との対立があるそうだ。
つまり、『これによってプライバシーの侵害だ!』や『人権問題だ!』とか『これは連邦最高憲法第23条3項に明記されている”政府および国家公務員は、令状なしにプライバシーを侵害してはならない”の違反だ!』と訴えられている。
ただ、建物の中はさすがに写せる技術を搭載していないので、建物で何をやっているかはわからない。
よって、憲法違反ではないはず……。
「ええっとですね……。……ああ! ここです。」
ルーズルートは銀行の屋上にある通気口を指さす。
「排気口か?」
「はい、通気口です。ここの排気口を伝っておおよそ20mほどですかね? そこを移動しましたらD2と書かれた排気口から降下して丁度ですね……おそらく……ああ丁度待合スペースの上ですね。そこに降下した後、私はセキュリティーをハッキングして防犯装置すべてを停止させますので伍長さんはその間に地下の大金庫室から現金などのありとあらゆる金目の物を持ってきてください。」
「わかった。しかしルーズルート? お前ハッキングできるんだな…」
「いえいえ、連邦捜査庁内でごく一部の人間のみ流通しているハッキング装置を使うのですよ。」
「そ、そんなものがあるのか…?」
伍長は半笑いで問う。
「ははは、まぁあるんですよ。」
「そ、そうか……。で? 私が気になるのはその次の追加任務というものだが……」
「はい、えっとですね。……これは陛下からの非公式要請です。」
「また、非公式か……。で? 内容は?」
「えっとですね……。ペルシアント惑星王国国防軍のプデ・ドルゥーチェ中将とボリスティン・ボレゴグラールド少佐を殺さずに誘拐し、彼らに成りすまして王宮の見取り図と近衛軍団の配置転換図そして国防軍の戦力を手に入れてこい……。という任務です」
「…………」




