1 俺から見た塁
水無瀬塁は、子供の頃からずっと同じ学校に通う腐れ縁だ。
同じ小学校を卒業し、同じ中学校を卒業し、今は同じ高校に通っている。
こんなにも同じ環境で、同じように生きてきたのに、どうして神様はこうも差をつけてくれたのか。
水無瀬塁は、マイペースで口数の少ないやつではあるが、若干人見知りなだけで優しい好青年だ。そして何より、男から見ても申し分のないイケメンである。
昔からサラサラでストレートな髪質の黒髪は、前髪を長めにして流している。目は大きく華やかな二重瞼に、高く美しい鼻筋が通っている顔。そして左の下唇と顎の間には、なんとも色気のある黒子があったりするのだ。
しかも、勉強は常にトップクラス、運動部に所属はしていないが、体育の授業ではさりげにいつも活躍するようなやつだ。
女子たちが、そんな塁を放っておくはずもなく、あいつは常にモテモテの人生を歩んでいる。
一方の俺は…――――、あいつといつも一緒にいるからか、引き立て役に徹して早10年。
信じられないが、一度も女子から告られない。
あれだけ視線を集めている塁の隣にいる俺に、誰一人として関心を持たない。
最近気付いたんだが、みんな、目が節穴なんだ。
そうとしか考えられん。
「おはよう、大輝くん…」
翌朝、歩いて学校へと向かっているとどこからか塁の声がした。
(ん?振り返っても、いねぇな…どこだ?)
「…視界に入っても良いかな?」
…どうやら昨日の俺の言葉を気にしていたらしい。
「は?あんなの冗談だろ、出てこいよ」
俺が笑ってそう答えると、目の前の立て看板から塁が現れた。
そう来たか!というか、お前ずっとそこに隠れて待ってたのかよ。イケメンのくせに。
そしていつものように並んで学校へと向かう。
「…あぁ、今日隕石とか落ちてこないかなぁ」
「は?」
塁が真剣に空を見上げて呟いた。
それ、俺の台詞だろ。
「教室行くの、憂鬱だなぁ…」
だから、それ、俺の台詞だろ。
つか、ため息をつく姿すら格好いいって、それ嫌味だろ、おい。
「あ、塁くんがキター」
「おはよー」
(うわ、待ち伏せ集団、だとっっ!?)
漫画の世界のような展開が、塁を襲った。俺は、完全に邪魔者扱いだったので、少し離れたところからそれを見ていた。先に教室へ行こうとしたら、塁が売られていく子犬のような顔でこちらを見ていた。
なんだよ、待ってろってことだろ?
分かったよ、待ってればいいんだろ?
俺には朝から待ち伏せする子も、チョコを渡してくる子も、いないけどね!
なんだよこれ、どんな罰ゲームだよチクショー。
こんなチョコレート会社の陰謀的風習なんてこの世から消えてしまえばいいのにチクショー。
「大輝くん、ごめん…」
血の涙を流す俺のところに、ようやく解放された塁がふらふらとやって来た。
結局学校へ着いてから教室へたどり着くまでの間に塁は、名前も知らない女子たちから何度かチョコ攻めに遭い、ようやく教室に辿り着いたと思ったら、塁の席はチョコレートで埋め尽くされていたのだった。
「・・・これって、イジメかなぁ」
自分の席の前で、塁がぽつりと呟いた。
「うーん、どうだろうな」
俺は、そう答えながら思った。
(なんだろうな…、羨ましいを通り越して…怖いわ。お前の、モテモテぶりが。)




