おじい様の来訪
(リゼリア視点)
地図には三つの場所が記されている。
そして図書館は中央にある巨大な螺旋階段を中心に三層に分かれていた。
まずは一層目、ここは幼児のためのコーナーと軽い読み物や雑誌が置いてある。
そして書き物や調べものをするための机が多い。
「お嬢様。この最初の印は、書き物机を指しているのではありませんか?」
日当たりの良い南側は幼児コーナー。
そして東側に子供用の小さな机や、ソファー。それに背の低い本棚。
北側には、大きな書棚が並んでいる。
そして西側。ここは大人用の机が整然と十卓ずつ二列で二十卓並ぶ。
一層目の印は、二十卓ある机の一番北の端を示していた。
「この机に 何か隠しているのかしら?」
全部の引き出しを取り外して、隅々まで調べる。
コンコンと叩いてみる。
「何もないなぁ」
「お嬢様!」
セーラが何か見つけたみたい。
なんと、机の天板に鍵が貼り付けられていたのだ。
お母さまは、私に見つけて貰いたかったのかな。
私はぎゅっと鍵を握り閉めた。
「鍵でございます。どこかに開ける場所があるはずですよ。お嬢様」
セーラが少し早口でそう言った。
興奮しているのね。本当に鍵が見つかったから。
ひんやりとした鍵は鈍い光を帯びていた。
二層目。ここは、この図書館の中心部分
それこそ 円形に作り付けの本棚が 何重にも並んでいる。
そして印は一番内側 中央のらせん階段に近い場所にあった。
「ここには、何もありませんよね」
「確かにね。ここはこの建物の中央部 大きな柱が中央にあるだけ」
地図はこの部屋の中心部分を指しているけれど。
どう見まわしても何もない空間。
一層目には外へと続くガラスの掃き出し窓が続いている。
とても明るい。
二層目と三層目は本を守るために、窓はほとんどない。
ここからは吹き抜けの天窓だけが明り取りになっている。
二層目が示すのは、そんな場所だった。
判らないなら先に三層目を調べようということになった。
ここは専門書のコーナーだ。
珍しい魔術書のたぐいや、外国語で書かれている本ばかりだ。
読めない本が多いから、私もここに来るのは初めて。
そして印は……。
判りやすい場所だった。記されていた書棚の所定の場所にあったのは魔法書。
凄く大きくて重かったけど、一冊ずつ調べていくと、やっぱり鍵が本に埋め込まれていた。
お母さまは、どんな思いでこれをかくしたのだろう?
『お母さま。お母さまが命掛けで守った秘密。
必ず解き明かしますからね。見ていて下さいね』
私は、あらためてそう誓った。
あとは二つの鍵で開けられる扉か箱を見つけるだけだ。
私たちは、もう一度二層目に戻る。どこにも箱とかはないみたいだけど。
ぐるぐると中心部を見て回る。おかしいなぁ。
ふっと上を見る。
埃に光があたりキラキラしている。
上部は吹き抜けで、天窓から光が降っている。
キラキラとひかる天窓に小さな影。
天窓のところに何かあるみたい。
でも、どうやって行けばいいの?階段も梯子もない。
あっても届かないだろう。
そうか!
ようやくわかった。これは魔法使い宛てなんだ。
私は浮遊魔法をイメージした。ゆっくりと天窓まで浮き上がる
天窓には鍵穴が2つ。一つ一つ丁寧に鍵を差し込む。
ゆっくりと天窓の一部が開き中から箱が降りて来た。
鍵をもう一度 きちんと閉めてから私はセーラの元に戻った。
セーラは目をきらきらさせている。魔法は神秘的なものだから。
浮遊魔法なんて奇跡に見えるのだろう。
出てきたのは、なんだか経理書類みたいなもの。
それから、誓約書の写し。そして薬瓶
調べてみないとわからないけれど、犯罪の匂いがする。
私は入っていたものと、それから天蓋のレースを箱にいれ、出て来た書類などと一緒にまとめてもう一度天窓に戻しておいた。
多分そこが一番安全だから。だってお母さまが選んだ隠し場所だもの。
鍵は、私の日記帳と一緒に、日記帳の入っていた箱にいれる。
そして元あった幼児コーナーへ。
この証拠は、そのままお祖父様に渡したほうがいい。
私では調べられないもの。
すべてはお祖父様に会ってからだ。
私は、早くお祖父様に会いたくてたまらなくなった。
侯爵家が来るとなると立派な馬車や騎士を思い浮かべるだろう。
だが実際には、僅か数人の供廻りだけを連れてやって来た。
しかも夜半にこっそりと。
アルバート執事長に起こされたのは真夜中。
寝室に入って来た人は、いきなり私を抱き上げた。
もし執事長がいなければ悲鳴をあげているところだ。
「お前がリゼリアか。エレノーラそっくりだな」
そう言って抱きしめるものだから、息が苦しい。
「侯爵閣下。それではリゼリアさまが窒息なさいます」
アルバート執事長に言われて、慌ててちからを緩める。
どうやらお祖父様は、うっかり屋さんのようだ。
「お祖父様ですか」
「そうだよ、リゼリア」
「今、真夜中ですよね」
「連絡を貰って飛び出してきたからな。なにそのうち供のものたちも追いつく」
もしかして、お祖父さまは執事長からの連絡を聞いて飛び出してきたのかしら?
私のために?
「閣下。お顔をご覧になったのですから、ひとまずお休みになられては?」
アルバート執事長はお祖父さまを部屋から出そうと必死だ。
お祖父さまにも休息は必要だろう。
けれど。
「アルバート。私目が覚めてしまったの。
寝るのはいつでもできるわ。おじい様とお話したい。
それと、真夜中に申し訳ないけれど、図書館に明かりを入れて頂戴。
あとで、そちらに行きます。お願い」
アルバート執事長は、かしこまりました。と去っていった。
「リゼリア。その様子だと話したいことがあるようだな?」
「はい、お祖父さま。来ていただいて助かりました。
実はお母さまの遺品を見つけました。
私には、分からないものなので、お祖父さまにご確認頂きたいのです」
お祖父さまの目がギラっと光った。
「かなり重要なことのようだ。それが図書館にあるのだな」
「はい。申し訳ありませんが、すぐにでも確認していただきたいのです」
「良かろう。ガウンを着て暖かくするのだよ」
いつの間にかセーラが、私のガウンを持って控えていた。
「いつもありがとう。セーラ」
図書館に着くとアルバート執事長が、完璧に準備を整えてくれていた。
私はおじいさまと図書館に入ると、幼児コーナーに隠していた箱を取り出す。
鍵を持ってすぐに浮遊魔法を使い浮き上がる。
「ほほう」
お祖父さまの愉快そうな声が聞こえるが、私は構わず天窓へ。
天窓からお目当ての箱を取り出し、お祖父様に渡す。
アルバートが喫茶ルームにお茶を準備してくれていた。
お祖父様は興味深い様子で一つ一つ丁寧に取り出した。
先ずは天蓋のレース編み。
「これはエレノーラが編んだものだな」
「判るのですか?」
「あぁ、エレノーラはレース編みが得意で、意匠を考えるのが好きな子でな。
これはエレノーラの特徴が良くでている。これは地図かな?」
「凄いですおじい様。私はなかなか気がつかなかったのに」
「アルヴィスの符丁が使われているだけのことじゃ。
知っていればすぐに判る。」
「やはり、おじい様にあてた物なんですね。中を見ても分からなくて」
「ふむ。」
お祖父さまは、それから書類を熱心に読み込み始めた。
私は、黙ってお茶をすする。
しばらくして顔をあげたお祖父さまは
「これはわしが預かる。リゼリア。そなたの身柄もじゃ」
「おじい様。理由を教えて下さい。私だっていろいろ調べて来たのですから」
「しかし、ここではまずい。安全確保が先だ。
優先順位を間違える訳にはいくまい。リゼリアは馬に乗れるのか?」
「いいえ、ほとんど軟禁状態で育ったので、
馬に乗るどころか館から出たこともありません。」
「しかし、魔法は見事に使いこなしていたが。師匠は誰だ」
「師匠なんていません。
セーラが自分の知っていることを教えてくれたのと、
あとは本を読んで自分で勉強していました。」
「魔法は最近セーラが、お母さまは魔法が使えたと教えてくれたので、
適当にイメージしたらできただけです」
「なんだと!」
お祖父さまが大声をあげたので、びっくりしました。
「すまない。しかし魔法は危険だ。よく無事だったものだ。
やはりここには置いておけぬ」
「でもですね。それでは運命が変わりすぎます。
なにが起こるかわかりませんよ!」
「お前は一体何を言っている?運命とは何のことだ」
そこで私は、自分の運命について話ました。
とりあえずは予知夢だということにして。
お祖父さまの助けを借りて、生贄として海に投げ込まれたところを救って欲しいと!
「くだらん。なぜわざわざ生贄にならねばならぬ。
ここを出れば関係なかろう?」
「でも、私がいなければ誰かが生贄になるかも……」
「ここに、今回の水不足が意図的に作られていたという証拠がある。
このままでは使えんがな。なにしろ全部覚書や、控で原本ではない。
相手は大物なうえに、どこまで繋がっているかも分からん。
だが、あと一年はあるのだろう?それまでに敵を追い詰めればよい」
「それなら精霊が協力してくれます。今調べに行っているの」
そう言うとお祖父さまは、唖然とし、その後ぐったりとしてしまった。
「常識外れすぎるだろう。
その話は後できっちり教えてもらおう。きっちりと」
なんだかお祖父さまの顔が怖かったので。私は必死で頷いた。
アルバートやセーラまで、当然だろうという態度なので、
私は少しへこんでしまった。




