レオニス皇子とルーナ姫
ルーナはお母さまをひとり占めした上に、たくさんのケーキに囲まれてご機嫌だった。
「ルーナ」
「ルーナはさっき会った男の子のことを、どう思う」
「レオニスは私の夫でしょう?」
ルーナはきょとんとした顔で返事をすると、プティフール・フレを選ぶ作業に没頭し始める。
いくつか選んで機嫌よく食べ始めた娘を前にリゼリアは困惑した。
運命は決まっている訳ではない。
自分の運命を切り開いてきたリゼは、そう言い切れる。
けれどルーナにとっては運命は変えられないものなのだ。
「ルーナ。お母さまの顔を見てくれる?」
ルーナは素直に食べるのを止めて母を見る。
「お母さまもね。自分の運命を見たの。
お母さまは12歳で死ぬ運命だった。
でもね。お母さまは必死に運命にあがらってこうして生きている。
だからルーナ。これだけは覚えておいて。運命は変えられるのよ」
「お母さま。自分の運命は見えないわ。」
「でも、ルーナは自分は死んでると言っていたでしょう?」
「人間は100年生きないし、お母さまが龍を産むのは100年後だもの」
なるほど、予言者というものは、自分の運命は見えないものらしい。
「わかったわ。じゃあ言い直すね。もし惨い運命が見えたら、
それを覆す方法を考えてみて欲しいの」
ルーナは小さい頭でじっと考えていたが、やがて得心したらしい。
「わかった!」
とにっこり笑った。
「レオニスが嫌だったら結婚するのを止めるわ」
いきなり結婚しません宣言が飛び出すとは思わなかった。
「そうしなさい。ルーナ。半年考える時間をやろう。
半年経ったら、迎えにくる。その時お父様と暮らすか、
レオニスと暮らすか選びなさい」
「半年? ルーナはお父様がいい」
娘の言葉にニルヴァはご機嫌でにっこりした。
「そうだね。でも、もしかしたら気持ちが変わるかもしれない。
だから半年だけ、レオニスにチャンスをあげて欲しいんだ」
ニルヴァの横でレオニスが唖然としている。この僕が、まさかの選ばれる側!
ルーナはちらりとレオニスをみるとしぶしぶ頷いた。
「わかった。待っているからお迎えにきてね」
「もちろんだとも、ルーナ。良い子にしているんだよ。
学院にお姉さまや義お兄さまがいる。
レオニスにいじめられたら言いなさい。
きっと義お兄さまたちがやっつけてくれるからな」
今、何を吹き込んでいるの。
僕に、王太子や公子達3人相手に戦えと言っているの?
レオニスはどんどん追い詰められていく。
おかしいでしょう?本来僕は妃を選ぶ筈でしょう。
なんで、僕のお試し期間になっているわけ?
レオニスの気持ちは放置のまま、事態はすすみヴァレンティノ公爵夫妻は帰り
ルーナがぽつんとレオニスの前に佇んでいる。
レオニスは侍女たちを振り向いた。
「姫を部屋に案内して。決して目をはなさないで。でも好きに行動させて。
奥宮の中からは、絶対に出しては駄目。
奥宮はどこでも案内していいからね。
食事と睡眠はしっかり管理して。体調もチェックするんだよ」
怒涛の指示に侍女たちは、レオニスがルーナにべたぼれなのだと思った。
そしてうやうやしく礼をした。
「ここが姫様のお部屋ですよ。レオニス様のお部屋は、前の廊下の突き当りですからね。
いつでも訪問できますから、お申しつけください」
「図書館は何所にあるの?」
「図書館は奥宮ではなく前宮ですね
図書館は民に解放されているのです。
姫様は奥院にある図書室をお使い下さい。蔵書は図書館と同じですよ」
「同じものがあるの?」
「はい、奥院の図書室は皇族や、許可を得た者しか入れないのでご安心ください」
ルーナは頷いて図書室に入ると、そのまま読書に没頭してしまった。
そうして夕食になった時レオニスは気がついた。
ルーナが食堂に来ていない。
「ルーナは何をしている?」
「図書館で読書をしています。」
「なぜ連れてこない」
「邪魔するなと言われております」
なるほど、侍女は命令にはそむけない。レオニスは急いで図書室にむかった。
隅のソファーでルーナが本を読んでいる。
「ルーナ」
声をかけても聞こえていない。肩を揺すると、ようやく本から目を離した。
ぼんやりとレオニスを見る。
「あなた……だれ…?」
そう言うとぐったりと倒れてしまった。額に手を当てると、発熱している。
「侍医を呼べ」
侍医は脱水症状だと言った。
小さい子供は注意しないと、水を飲むのを忘れることがある。
こまめな水分補給を忘れないように。
侍医の注意を聞きながら、レオニスはため息をついた。
侍女たちは蒼白だ。
まさかこんなことになるとは思わないだろう。
理解できない。喉が渇いていることすら気づけない。
信じられない。
初日から体調を崩させてしまった。
二度と侍女任せには出来ないレオニスはそう覚悟を決めた。




