アストラル皇帝との謁見
ようやく漕ぎ付けた謁見の場。
アストラル皇帝に謁見希望を出して3か月。
レオンとマリーそしてテオドールは幾分か小さな謁見のための
応接室に通されている。
仰々しい謁見をするとばかり思っていたから、初めての顔合わせに
威風を誇ることのない皇帝の態度にレオンは好感を覚えていた。
若い!お互いに最初の感想はその一言だった。
レオンもマリーもまだ21歳。15歳で結婚して6年たった。
立太子したテオドールは5歳。若い国、若い君主。
しかし皇帝もやはり若かった。
黒髪なのはやはり、黒龍の血だろうか?
「他の国の国王は僕からみれば祖父母みたいな年なんだ。
同年代の王は君だけだよ。どうだい、ぼくら兄弟の契りを交わさないか?」
最初の言葉が、それなんだ。こいつの守役は苦労してそうだな。
周囲に臣下の気配はないが……。レオンは愉快になった。
「はい、勿論です兄上。」
「やはりね。話の分かる奴だと思ってたんだ。二人で話そう。
マリー王妃のお相手は僕の妻が。
テオドール王子、君を待っている姫がいるよ。同い年だ。話してごらん」
その言葉が終わると同時に、レオンたちの背後に侍女たちが現れた。
マリーは淑やかに皇帝に礼をすると下がっていく。
テオドールは、既にほんのり顔を赤らめている。
龍の姫君が息子を気に入ってくれると良いのだが。
「心配しないでも多分あの姫はテオドールを気に入ると思うよ。
良い息子を持ったね。」
「少し抱え込む癖があるので心配なのですがね。」
「それは僕の息子も同じかもしれないな。
まだ8歳なんだが、とても頑固で手を焼かされる」
「手を焼かしてきたのは、兄上の方だと思えるのは気のせいですか?」
「多分、気のせいではないだろうね」
本来なら今回の件のお礼を言うべき場面で、レオンはいつの間にか
友達のように楽に話している自分に驚いた。
まさか、皇帝の異能なのか?一瞬警戒したところで皇帝は言う
「僕の異能は支配だけれどね、身体に触れないと発動しない。
フレデリックだ。フレディと呼んでくれ」
「僕もレオンと呼んでください。警戒して申し訳ない。習性でね」
「いや、警戒心がなければ、さすがに僕も君を弟には出来なかったよレオン」
「恐れ入ります。フレディ。僕の異能は精神支配です。一国は覆えますよ。」
「了解した。レオンと兄弟になりたいと言ったのは本心さ。
皇帝なんかやっているとね。色々ありすぎる。
それに、まぁ僕の国と君の国の魔法は龍をもとにしているからね」
「他の国は違うと?」
「どちらかと言うと古代魔法が起原だろうね。精霊である事には違いないけれど」
「古代魔法はついえたのでは」
「そう言われて久しいけれどね。
でも、セレスティア王国にも、ルーンフェル王国にも龍の伝説は残っていない。
その代わりに精霊のお伽話が多いんだ。
それでね。魔法の起原が少し違うのかなと思っている」
「それならば、両国は兄弟国になりますね。龍というのは不思議な生き物です。
どうして人間の番にあれほど執着するのか?」
「僕らも、その血を引いているけれどね。
もし龍の執着がなかったら龍だって困るのじゃないか?
長い間生きるのにさ。」
「確かにそうですね。人生が虚無に覆われてしまいそうだ」
二人はいつの間にか、お互いをすっかり信頼していた。
一方。
テオドールが案内された部屋では、
ビスクドールのような硬質な顔をした美しい少女がいた。
龍の娘と言っても、リリアーヌやステラとは全く違う。
リリアーヌもステラも、どちらかと言えば愛くるしい。
美しいのには違いないが。
テオドールは、なぜ自分がリリアーヌに惹かれないのか分かった。
僕の番がここにいたからだ。
「僕はテオドール。テオと呼んで。
君はなんというの?」
「ソフィア、ソフィーと呼んでもいいわよ」
なんて素敵な声だろう。
「ソフィア。素敵な名前だね。
僕の妃になってプロイセン王国に来ていただけませんか?ソフィー」
テオドールはいつの間のか片膝をつき、正式に求婚していた。
「いいわよ。」
ソフィアは短く答える。
この瞬間、プロイセン王国王太子妃が決定した。
侍女がすぐさまこの吉事を皇帝に報告すべく部屋を出ていく。
「隣に座ってもいい?僕のソフィー」
「いいわよ。」
ソフィアが少しほほ笑んだ。
それだけでテオドールは天にも昇る心地がする。
そっと隣に腰かける。横からみてもソフィーは人形のように美しい。
すべらかな黒い髪。テオは我知らずその髪を救い取り、口づけていた。
「美しいね、僕の姫君は」
顔を覗くとその金色の瞳が面白そうに輝いている。
「反則だ」
テオは彼女の額にキスを落とす。ソフィーが瞳を閉じたので、その瞼にも。
次の瞬間 テオドールは引き離されていた。
温かくて柔らかいものが無くなってテオの心が冷える。
「王子殿下。その先はまだいけません」
侍女が厳しく告げた。
そっとソフィアを見ると、ソフィーは唇だけで告げた。
「あ・と・で・ね」
テオは頷くと、王子の顔を取り戻す。
「失礼した。姫君があまりにも美しく我を忘れてしまった。
正式に求婚したいのだが」
5歳児が真面目な顔で言うので、侍女は少し柔らかい声になった。
「既に皇帝陛下と国王陛下には報告済みです」
さすがに皇国。仕事が早い。




