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静かな夜

 ようやく晩餐会が終わった。

 やれやれだ。リゼリアたちが待っているだろう。

 レオンは重い礼服を脱ぎ捨てると、簡易な服に着替えた。

 今頃マリーも夜会服を着替え終わっているだろう。


 迎えに行こうとすると、ドアが開いた。

 おずおずとした足取りで息子が歩いてくる。

 ノックもしないで、しかも夜半忍んでくるとは。

 一体何があったのだろう。レオンは静かにテオドールを抱き寄せた。

 抱え上げて膝に乗せる。

 いつもは王子らしく自信ありげな彼が、今日は年相応に見える。

 そっと黙って頭を撫でてやる。


「父上は怒らないのですか?」


 レオンは何を言われているか分からない。不思議そうな顔で息子を見つめた。


「だって、僕マナー違反をしたんですよ」


 レオンは笑った。


「ねぇ、テオ。子供が夜 父親に会いに来るのにマナーが必要かな?」


「えっ?」


「ここは公式の場所じゃない。

 父親と父親の愛する息子がいる。それだけの場所だよ。

 悲しいなテオ。

 僕はいつからテオのお父さんではなくなったのかな?」


 テオは泣かないように必死でこらえていた涙をぽろぽろと零し始めた。


「テオ、丁度良かった。今から大切な会議がある。

 君を呼びにいくところだったんだ。

 そこで見たり聞いたりすることが君の悩みの答えになると思うよ」


「テオ、ここにいたのね。良かったわ。

 お部屋にいないから心配したのよ。あなた。もう行かなければ」


 レオンはマリーの手を取りレオンを抱いて静かに頭を下げて合図した。


「黒龍さま。よろしくお願いいたします。」


 レオン一家は黒龍の大広間に呼ばれていた。

 真ん中に大きな丸いテーブルと椅子があり既に皆が椅子に座っていた。

 中央に座る老人が静かに言葉を発した。


「解放!」


 ただ一言。それだけで膨大な魔力が広間に広がり人々を包み込む。

 テオは自分の中から大きな魔力が膨れ上がるのを感じた。

 だめだ!体が爆発してしまう。そう思った時魔力は収束した。


「ありがとうございます。黒龍殿」


 レオンが代表してお礼を述べる。


「これで皆の固有魔法が開放されたはずだ。各自固有魔法を述べるがよい」


 レオンが口火を切る「私は精神支配」

 マリーは「読心と遠見・遠耳」みんな技名だけを簡潔に述べていく。

 ラインハルト「結界」

 テオドール「威圧と咆哮」

 リリアーヌ「浄化と治癒」


「十分です。これで計画を実行に移せます。

 黒龍殿 クラウス。今少しお力添えをお願いいたします」


 ニルヴァが頭を下げた。

 テオがたまりかねて口を挟む


「これは何事ですか?計画とは?」


 レオンが優しい顔でテオドールを見る。

 今からプロセイン王国の基盤を築く。古龍である黒龍さま、

 神龍である蒼天の王ニルヴァ殿、その番であるリゼリアさま、

 黒龍さまご子息クラウス殿の力を借りて。


「基盤とは?」


「プロセイン王国では、王子の死で王国を存続させてきた。

 魔力不足がその原因だった。

 ところがアストラル皇国は、魔力を皇室に取り込むシステムを確立させている。

 同じものをプロセイン王国にもつくる」


「それは?」


「まず龍の存在を秘匿する。

 魔力は龍や精霊などの精霊界の力を人間が取り込むことで使えるようになる。

 その仕組みを秘匿する。王家の秘宝として」


「そして龍の娘を受け入れる公爵家を興す。

 龍の娘は公爵家の娘として王妃となり、龍の血を王家に繋ぐ役割を果たす」


 あまりの秘密にテオドールは喉がカラカラになった。


「この仕組みはそなた、プロセイン王を守る礎になる。

 なにしろ初代公爵はそなたの弟ラインハルトだからな」


「ライが?」


「そうだ。公爵家からは王妃を立てる。しかし決して王家の血をいれぬ。

 公爵家はあくまでも王家を守ることに徹する。

 それが盟約となる」


「龍の盟約は破れない。破れば即絶命するから」


 テオドールは自分が何を恐れていたか理解した。

 弟に王位を奪われること。

 それなのに弟は未来永劫王位に関わらないという。


「ラインハルト、どうしてそこまで?」


 テオドールは叫んだ。


「兄上、私は王国を守りたいだけ。王位に興味はございません」


「じゃぁ、僕はひとり相撲をしていたんだね」


「テオも魔力をこの円卓の中央に置かれた玉に注ぎなさい。

 今から王国の国民の記憶を操作する。」


 テオは黙って魔力を注ぐ。

 全員の魔力が玉に集まり、凄まじい光が集まってくる。

 それを黒龍さまたち龍が国内に広げているようだ。

 集まった光がみるみる弱くなる。


「まだだ。もっと魔力を注げ!」


 テオは何も考えられない。

 横を見るとライの顔にも汗がびっしょり浮いている。

 僕のために!テオは更に魔力を集めていく。


 やがて玉は静かに光を失った。

 どうなったのだろう?成功か?それとも?

 人々の心を見ていたらしいマリー王妃が、にこりと笑った。


「成功です。人々は龍のことを忘れました。伝説や神話は残りますけれど。

 ローゼンベルク家の没落は無かったことになり、

 アルフレッド・フォン・ローゼンベルク伯爵と

 シオン・フォン・ローゼンベルク子息は健在です。

 あの者たちを平民としてアストラル皇国に取り込まれたくございませんからね」


「リゼリア・フォン・ローゼンベルクは

 祖父ヴィクトール・フォン・アルヴィス侯爵の養女として

 ニルヴァ・フォン・ヴァレンティノ公爵に嫁ぎました。


 ふたりの娘リリアーヌ・フォン・ヴァレンティノ公爵令嬢と

 王家次男ラインハルト・フォン・プロイセンが婚約し

 ラインハルトはヴァレンティノ公爵家の婿になります。


 王家との約束でラインハルトが15歳になると、

 ニルヴァ公爵は引退。ラインハルトが公爵となります」


「どうかしら? こんなもので?」


「完璧だな」


「お父様が嫌がるかも。せっかく平民になったのに」


「でも平民の魔力持ちはアストラル皇国民になるという契約だから」


「しかたないよね」


 レオンがはっと気がついたように立ち上がり、

 黒龍シュヴァルツさまに深く頭を下げた。

 習って全員が深く礼をする。

 シュヴァルツさま笑って手をふると全員を館に戻した。


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