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古龍と神龍

 黒龍さまから家族そろって遊びにおいでとの連絡が来た。

 アストラル皇国の黒龍さまは、随分気さくな方のようだ。


 アストラル皇国に行く方法は3つ

 峻厳な山々を越えていく方法。

 山裾をぐるりと回りこむ方法。この場合広大な砂漠を歩くことになる。

 海路をとる方法。かなり遠回りになるけれど普通は海路を使う。


 でもこちらは龍だ。

 ニルは大きな籠に、私たち家族を詰め込んだ。

 今回は侍女も付き人も無し

 王子もお留守番。本当に龍の家族だけの旅だ。


 赤ん坊だけれどステラも連れていく。

 ステラは籠の中にすっぽり収まってすやすや眠っているし

 リリーは外を見るのに忙しい。

 ニルはきちんと結界を張ってくれているから、揺れもしないので快適だ。

 景色だけが飛ぶように過ぎていく。


 程なくしてそびえたつ山々が見えた。

 黒龍さまは、この山に住んでいるらしい。

 ゆっくりと籠を下しニルが人化する。

 ニルはリリアーヌを、私がステラを抱っこするのと

 山の一部がゆっくりと開き、美しい通路が現れるのは同時だった。


 私たちはゆっくりとトンネルを歩いていく。

 「綺麗ねぇ~」

 最近ようやく赤ちゃん言葉を卒業したリリーが呟く。


 トンネルは美しい水晶が、柔らかい光を放っている。

 空気も緩やかに流れていて気持ちがいい。

 そう歩くこともなく重厚な扉があらわれた。

 そして扉は静かに開く。

 中は分厚い絨毯が敷かれた大広間。

 ここなら龍体になってもくつろげそうだ。


「ようこそ、ニルヴァ殿」


 声をかけたのは、ゆったりとしたローブを纏ったご老人。

 堂々とした風格はまさに古龍にふさわしい。


「あっ!僕の番!やっと会えた」


 甲高い声と共に現れたのは、猫ほどの大きさの小さな龍だ。

 ふよふよと飛んでくるとステラに飛びついた。

 ステラは目をあけると、小さな龍を見る

 そしてニコニコと龍に手を伸ばした。

 そのまま、ステラはふよふよと浮かび上がり、小さな龍と並んで飛んでいる。


 「番ですか?」


 そういうニルの声は少しあきれている。

 龍の番にたいする執着はよく知っているから、邪魔はしないが、

 なにしろ小さすぎる。


「息子が失礼したな。ニルヴァ殿。

 クラウス、挨拶もしないで何をしておる」


 小さな黒龍は上手に人化した。

 5歳くらいの黒髪に金目 龍はみんな美しいがこの少年も実に可愛らしかった。


「僕はクラウス。古龍シュヴァルツの息子です

 どうぞよろしく、義父上。義母上」


 実に堂々としたものだ。

 しかも礼をするなり、ふよふよ浮いていたステラをしっかり抱きしめている。

 リゼは頭が痛くなってきたが龍は番については抑えがきかないことは

 身に染みて知っている。


「クラウスさま。ステラはまだ赤ん坊です。15歳になるまでは手出し禁止ですよ」


「義母さまが結婚なさったのは、13歳ですよね。

 大丈夫です。結婚式はステラが13歳になるまで待ちます」


 何という事だろう。情報網が凄すぎる。

 こちらは何もわかっていないというのに。

 ニルはしばらくクラウスを睨んでいたが、やがて諦めたようだ。


「大切な娘だ。大事にしてくれ」

 とだけ言った。


「勿論ですとも義父上、義母上もご心配は無用ですよ」


 私たちが毒気を抜かれたのを見て取って、シュヴァルツさまはティールームに案内してくれた。

 リリーは嬉しそうに声をあげる。


 「なんて可愛らしいケーキなの!」


 確かにケーキやパイがとても美しく盛られている。

 しかも4歳児でも一口で食べられる大きさだ。

 残念ながらステラは食べることが出来ない。

 ところがクラウスは一枚上手だった。

 いつの間にか哺乳瓶を取り出し、ステラに飲ませている。

 乳母よりも上手かもしれない。


 こういう所は龍は手を抜かないのだ。

 私はステラお世話をクラウスに任せることにした。

 誰が龍から番を引き離せるだろう。

 リリーはケーキに夢中だから、ある意味ゆっくりと古龍と話ができる。


「なるほど、こちらを放置したのは、魔法使いに対する偏見がなかったからですか?

 ではどうして今になって?」


「クラウスの番がそちらの娘ごということもあるが、最近は少しきな臭い」


「どういう意味ですか」


「そなた達が原因だろうが、魔力持ちは龍の血を引く

 人間擬きの爬虫類だと蔑む貴族が出始めている。

 上が腐れば下も追従する。

 そうして迫害がおきるのを、我らは幾たびも経験してきた。

 だから、魔力検査と魔力持ちの保護を始めたい。

 大きな騒動になる前にな」


 私たちは言葉に詰まった。そんな悪口は聞いたことがある。

 だけどそのせいで民の間に差別や偏見が生まれるなんて考えもしなかった。


「では、王族は? どこの国でも王族が魔力を持つのが普通の筈。

 国王はその魔力で国を守ることは民も知っているではありませんか!」


「権力を持つ者にはおもねるものさ。

 その分弱いものがはけ口になる。

 弱い立場で魔力なぞもてば、どうなることか?

 わかるであろう?」


「確かに、シュヴァルツ殿の仰る通りでしょう。

 しかし、その検査が余計な差別を生む可能性もあるのでは?」


 ニルのことばに古龍さまは深く頷いた。


「新しい事を始める時には反発は必至だ。

 だから皇国が悪者になる。

 皇国の圧力に屈した。それで理由ができる。

 わしらは魔力持ちが、迫害され、火あぶりにされたり、

 殺された歴史を繰り返したくないのだ」


 私たちは息を飲んだ。

 皇国はここまで民を想うのか。


 知らずに私たちは深い礼を黒龍さまにしていた。

 いつの間にか リリーまで並んで礼をしている。

 私たちは深い感動に包まれていた。


 

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