二人目の娘
それから程なくしてリゼリアは二人目の娘を出産した。
ニルとリゼ そして蒼天宮の人々にとっては、とても嬉しい出来事。
しかしリリアーヌを産んだ時のような騒ぎにはならなかった。
既に二人の王子と龍の娘を得た王都の人々にとっては
ただのおめでたい出来事に過ぎなかった。
レオンとマリーはとても喜んでお見舞いにも来てくれたし
リリアーヌと同じように姫として遇してはくれたのだが。
「さあ、蒼天の王ニルヴァさま、
あなたの娘に名前を授けてくださいませ」
リゼがからかうように言う。
前回のリリアーヌの時に、悩んだのを知っているからだ。
「この子はステラ。星という意味だよ。青い髪に金の瞳
まるで夜空に浮かぶ星みたいだろう?」
「ステラ。素敵な名前ですね。
それにしても、この子はすっかりあなたと同じ色ですね。
髪も瞳も。それでも龍化はしないのですか?」
「前にも言ったけれど、龍の娘は魔力の多い人間なのだよ。
龍ではないのだから龍化するわけがない」
「そうでしたわね。ごめんなさい。
でも、この娘を見ていると、
この子が人間の世界で生きていくように思えないの。
不思議に思うでしょう?でもそう感じるの」
「君は妙なところで鋭いからなぁ。
だとしたら、この子は龍の番かもしれないが……。
いや、ありえないだろう。
俺の知る限り、この世界に残っているのは老いた黒龍だけだ。
人間界にまで来るほど好奇心が旺盛な龍は俺と黒龍だけだった。」
「まぁ、他の龍は精霊界に住んでいるのですか?」
「その通りさ。俺や黒龍は変わり者なのさ。」
「でも、あなたは龍の番は人間だと言っていましたよ」
「うん、番を見つけた龍が、わざわざ人間界までくるものか。
そのまま精霊界に召喚するだけさ」
「それは惨い話ですわ。両親はきっと心を痛めたでしょうに」
「人間についてよく知らないんだよ。龍という生き物は」
なるほど。
リリアーヌは元々マリー達のためにこの宮殿で産んだ娘。
でも、ステラは?
ステラの運命は違うかもしれないとリゼは思った。
もしかすると、リリアーヌの時ほど歓迎されていないと感じたからかも知れない。
「それで、どうだろう。俺たちも精霊界で暮らさないか?
なんだかきなくさい。ここにいたくないんだ。
龍は人間界と関与しない約束なのに、長く人間界に居着きすぎた。」
「でも、それではテオドールとラインハルトはどうなるのでしょう?
人間が精霊界に行くことは出来ないでしょう?」
彼らが成人するまで12年。あと12年だけ人間界で暮らせませんか?
どのみち娘たちの生きる世界は人間界なのですから」
「わかった。君の望むままに。私のリゼリア」
リゼリアはにっこりと笑って言った。
「もし、ここが嫌なら王都を離れてアルヴィス領に帰りましょう。
田舎の方がのんびりと暮らせるでしょうから。
それに私もおじい様やおばあさまに会いたいですわ」
ということで、リゼリアたちのお引越しが決まった。
レオンとマリーはとても驚いて引き留めたが
決意が固いと知ると諦めた。
「私たちはそちらに行くことが出来ないけれど、
毎年夏には子供達を避暑に行かせるわ。
子供達も田舎の夏はきっと楽しいでしょう」
それを聞いていたラインハルトが尋ねた。
「もうすぐ夏だから、僕たちも一緒に行っても良いでしょう?
僕も田舎に行ってみたい」
「僕は嫌だな。田舎なんて。僕は跡取りだから王城に残りたい」
テオドールはそう言った。
「そうだな。双子だからといつも一緒に行動する必要はないだろう。
それなら交代で田舎に遊びに行けば良い。
テオもリリアーヌは王妃候補なのだから交流は必要だろう?」
「はい、父上」
テオはそう言っていたが、ちっともリリーが好きじゃないのを
リリーは感じていた。
「べちゅにテオがこなくてもいいでちゅよ」
「なんだ!生意気だな。同じ年なのに、まだまともに喋れないくせに」
「ちゃべれまちゅよー」
「喋れてないだろ、それ!」
「まぁ、まぁ、それぐらいにしなさい」
「テオとリリーは喧嘩ばかりだな」
「仲が良い証拠ですよ」
「そうだな」
こうしてニルヴァ一家と第二王子はアルヴィス侯爵領へと旅立った。
それを見送ってレオンは言った。
「マリーすまない。君の大切な癒しの君を引き離して」
「必要な事ですわ。もう二度とこの国を揺るがすことはしたくない。
そのためにニルヴァ様には辺境にいていただかないと」
「しかし皇国の守護龍黒龍さまは、お年のはず
なぜ今になって我が国に興味を持ったのか?」
「わかりません。
しかし皇国と結びつこうという勢力が力をつけ始めていますもの。
注意するに越したことはございませんわ」
「では、ノーラ。主から引き離して申し訳ないがマリーを頼むぞ」
ノーラは深々と礼をすることで、了承の意を示した。
我が王とは言いたくないのだ。この忠実な娘は。
しかし忠実であるからこそ主の命令は絶対だ。
マリーの力になるだろう。




