娘と散歩
蒼天宮に戻ると、ノーラはニルヴァにリリアーヌを押し付けた。
ノーラの様子で何かあったと察したニルは娘と遊ぶことにする。
「リリー。今日はお父様と遊ぼう。何がしたい?」
「お父ちゃま、リリーはおちょらが飛びたいの」
「よしよし。じゃぁ行こうか」
ニルは器用に娘を背中に乗せると空の散歩に出かけていく。
「今日は、テオやライと遊ばないのかい?」
空をゆったりと飛びながら、ニルは娘に尋ねる。
ノーラはかなり怒っていたから、王子宮で何かあったに違いない。
「あのねー。おーじはお勉強ちゅるからあちょべないのよ」
「それは大変だねー。誰に教えて貰ったの?」
「ちらない人よ。ダメにゃんだって!」
「知らない人なの? 王子宮の人?」
「ちあうよ。おちょとにいた人よ」
「ふーん、じゃあリリーは今日は王子宮に入れなかったんだね」
「だかやー。おーじはおべんきょうよ」
「うん、お勉強するのは偉いねー」
「リリーもえらいよ」
「勿論リリーも偉いねー。お父様のお仕事のお手伝いしているものね」
「そう、リリーはおちごとしてるからえらいねー」
成る程。
法王の死後、嫌な目つきの者が増えたが、それが娘にまで無礼を働くとは!
気に食わない。何もこんなところに住む必要すらないのに。
戻ったらリゼと相談しなくては。
ニルがぷりぷりしているのに、リリーはご機嫌だ。
「おとうちゃま、リリーも自分でとぶのー」
「うーん。リリーは飛べないなぁー」
「とべにゃい!」
リリアーヌはガーンとショックを受けたようだ。
「お父様がいつでも一緒に飛ぶんだから、
リリーは飛べなくても大丈夫でしょう?」
「うーん」
このお返事はリリーが納得していない証拠。
けっこう頑固なのだ。この娘は。
ニルは何とかして娘の気をそらそうとした。
「リリー。鳥さん見たくない?」
「見たい」
「じゃぁ、鳥さん見にいこうねぇ」
蒼天宮に戻った時はリリアーヌはぐっすり眠っていたが、
ニルヴァはへとへとだ。
リリーはずっとお喋りを続けるし、ひっきりなしに質問するのだ。
そのうえ、説明している途中で飽きるらしく、
すぐにまた違うことを聞いてくる。
世の中の子供が全部こんな風なら、大人達はどうやって
あれ何攻撃や、なぜなぜ攻撃をかわしているのだろう。
リリアーヌを侍女に任せて、ニルヴァはやっとひと息ついた。
愛しいリゼに癒してもらおう。
リゼはサロンでゆっくりとお茶を飲んでいる。
「リゼ、お茶はあまりよくないんじゃないのか?」
実はリゼのお腹には二人目の子供がいる。
もういつ出産してもおかしくないから、ノーラもセーラも
細心の注意を払っている。
「大丈夫よ。薬茶だもの。身体を温めてくれるのですって」
「ニル、ご苦労さま。今日はお姫さまのお守りをしてくれたんだって?」
「うちのお姫様は学者になるつもりだよ。質問ばかりしてくる」
それを聞いてリゼはクスクス笑う。きっとリゼも苦労しているのだろう。
「少し昼寝をしておいで。
リリーと眠るとよい。もうすぐ出産だろう。無理をするな」
最近はよく昼寝をするリゼは、いそいそと娘の元に向かった。
セーラが付き添ったがノーラは残る。
リゼが部屋を出たのを確認して、ノーラを見る。
「本日、シュタイン公爵家の依子ヴァルト男爵が
傲慢にもリリアーヌ姫を阻みました。
力を使い確認したところ、
シュタイン公爵家に娘が生まれ、王妃を狙っているようです」
「なるほどね。ノーラよくやってくれた。
しばらくは外を探ってくれ。リゼはセーラに任せてよい。」
「畏まりました。アルヴィス侯爵からアルフレッドさまとシオンさまが
王子宮に入られるとの連絡を受けております。」
「アルヴィス家がねぇ
言いたくはないが、神龍は人間界に関わらない。誓約があるからなぁ。
しかしリゼやリリアーヌを害するとなると話は変わるぞ」
「承知いたしております。
お心のままに。蒼天の王ニルヴァ様」
ノーラが深く礼をしたので、ニルは頷いた。
ただの政争ならアルヴィス侯爵は動くまい。裏に何があるのか?
一度辺境に行ってみるか?だが、リゼの出産が近い。今は動けない。




