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法王の死去

 王子たちが生まれて3年。

 赤ん坊もいつの間にか子供になった。

 こうして世は事もなく過ぎていくと思われた。


 しかし……。


 王国はまたしても激震が走った。

 法王逝去


 法王がかなりの高齢であることは、みんな知っていた。

 しかし穏かに日々を送る法王が弱っている様子はなかった。

 いつものような穏やかな朝

 従者が法王をおこしに行くと、法王は安らかな永久の眠りについていた。


 これほど穏やかな死を見たことが無い。

 国王をはじめ民は深く悲しみにくれた。


 しかし

 王都を覆ったのは、悲しみだけではなかった。

 不安、理由のない恐れ。

 王都を、国を支えていた根幹、それが崩れたような不安。


 王がいる。新たな法王も立った。

 神龍までこの国を守っている。

 けれども国民は、寄る辺を失った子供のような顔をしている。

 何かえたいの知れないものが、ひたひたと忍び寄る。

 そんな予感に震えていた。


「どうしたものだろうか?」


 知らせを受けたアドラー・フォン・アドルフ辺境伯は独り言ちた。

 アドルフ辺境伯も、アルヴィス侯爵も、

 子供達が生まれてすぐに領地に帰っている。


 親族が王のそばにいつまでもいるのはよろしくない。

 それでなくとも若い王だ。操られていると誤解されれば王権が揺らぐ。

 彼らが安心して王都を離れたのも法王がいたからだ。


「あの吾人が、かくも偉大だったとはな」


「そうは言っても、あの吾人の代わりはおるまい」


 アルヴィス侯爵も打つ手はなさそうだ。


「何が起こる?」


「俗人どもが動きだすだろうなぁ」


「しかし我等は表立って動けん」


 あの王位継承の一幕がまずかった。

 想定よりひと月以上早まったせいで、辺境伯家と侯爵家が表舞台に立たされた。

 本来、両家は裏でこそ力を発揮する。

 そのせいで動けない。貴族どもの視線が両家に集中している。


 彼らが望むのは両家の失脚。

 龍の姫がいれば、血は続く控の侯爵家は、もう意味を持たない。

 そして王妃と法王

 2つの権力をひとり占めした辺境伯家は、貴族たちの妬みの的。

 動けるわけがない。


 王子たちが幼い。どうにでも操れる。

 二人を敵対させることも、たやすいだろう。

 とりあえずアルフレッドを護衛騎士

 シオンを侍従としてそれぞれの王子の元に送り込む。

 平民の彼ら。人相も変わったから、気づくものはいないだろう。


 シオンは10歳 父であるアルフレッドからみっちり仕込まれている。

 きちんと情報を送ってくるだろう。

 アルフレッドも伯爵位から離れ平民の騎士として8年。

 貴族の面影は何所にもない。

 彼の顔をみても誰も元貴族とは思うまい。


「誰をどちらにつける?」


「長男のテオドールにアルフレッドを次男のラインハルトにシオンを送る」


「理由は?」


「ラインハルトはレオンに似ている。

 控えとして己を律している。ため込み過ぎる

 シオンの無邪気さが役に立つだろう」


「テオドールは?」


「あれは自信家だ。シオンでは歯が立たぬ。

 アルフレッドならば、気を許すだろう」


「なるほど。それで行くか?あまり蠢くようなら間引くしかないが」


「いや、どうも皇国がきな臭い。

 動いてくれる方がやりやすい。好きにさせて置こう」


「お主がそう言うならな」



 リリアーヌはいつものように王子宮に遊びに行った。

 いつもならみんな温かい目でリリーを案内してくれる。

 でも、今日は違った。


「これはこれは、龍の姫君 王子宮に何の御用ですかな」


 気取った貴族がリリーの行くてを遮ったのだ。

 付き従っていたノーラがすっと前にでる。


「龍の姫君は、王子殿下の遊び相手。

 王子宮に行くのになんのさわりがありましょう」


「残念ながら、王子殿下も3歳になられた。

 幼児では御座らん。王子教育を受けておられます」


 ノーラの目が光った。


「あなたは、誰の命でこのような真似を?」


「シュタイン公爵家に姫君が誕生しております。

 龍の娘より、よほど王妃にふさわしい龍など側室か愛妾で十分だ」


 ぼんやりとした瞳でそう呟いた。


「リリー姫。王子殿下はお勉強中です。蒼天宮に戻りましょう」


「ええ、ノーラ。それじゃぁ私お父様に遊んでもらうわ」


 リリアーヌは屈託なくそう言って笑った。

 リリーたちが帰った後、貴族の男は不思議そうに頭を振った。


「おかしいな?誰かに会った気がするのだが?」

 

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