新しい命の誕生
それは夕方のことだった。
王妃さまが産気づいた。
王宮は、大騒ぎになって医師たちも駆け付ける。
勿論レオンも公務そっちのけで駆け付けたけれど、
侍女たちに追い払われて、意味もなくウロウロしている。
ソフィア・フォン・アドルフ辺境伯夫妻もやって来て
レオンを落ち着かせようと躍起になった。
「レオン。
初産は時間がかかるものです。
出産は真夜中から明け方にかけてでしょう
いいから、食事でもして落ち着きなさい」
「そんな!
だってとても苦しそうでしたよ。側にいて励ましてあげたいのに。
食事なんて!欲しければお母さま方で食べればよいでしょう。」
ソフィア夫人はほほ笑んだ。
出産で男ができる事は少ない。
侍女が小さな籠を持ってきた。
ソフィア夫人が頼んでいたものだ。
「レオン、いらっしゃい」
「どこへ?」
「勿論マリーのところよ」
「さっき放り出されたのに」
「なにも出来ない邪魔者は放り出されて当然よ。
お産は体力がいるの。食べないと持たないわ。
食べさせてあげないと」
レオンはさっと籠を奪い取ると、走り去ってしまった。
「余裕というものを知らないのか?若いなぁ」
そういう辺境伯に夫人はそっと呟いた。
「テオを産んだ時も、ダンテスやマリーを産んだ時も
貴方は青い顔をして、あんなふうに籠を抱えていらしたわよ。」
「そうだったかな?」
辺境伯はすこしばかり照れた顔をする。
「さぁ、私たちも食事にしましょう。今日は長い一日になるわ」
そう。
お産となると、女たちは訳知り顔で男を憐れむ。
だが仕方ない。
男ができるのは励ますことぐらい。
どうしたって、産むのは女なのだ。
そのころ、蒼天宮でもお産が始まった。
それを聞いて医師団も大慌てだ。
知らせを聞いてアルヴィス侯爵夫妻と
アルフレッドそれにシオンも付き添い名目で駆け付けた。
ニルヴァが心配のあまり魔力を漏らしはじめたので
ベアトリーチェ侯爵夫人が叱りつけた。
「何をやっているのです。あなたがそんな風に魔力を漏らすと
医師や侍女が仕事が出来なくなります」
叱られうなだれるニルに、ベアトリーチェは仕事を与えた。
「精霊界の桃を取って来て下さるかしら?
王宮でも出産が始まったみたいだから少し多めにね」
ニルはそれを聞くなり姿を消した。
「やれやれだなぁ」
そういうクラウスも決して落ち着いている訳ではない。
何しろひ孫の誕生だ。それにリゼリアは、まだ14歳。
大丈夫なのだろうか?
夫の考えていることなどお見通し。
侯爵夫人は夫に食事をさせるように言いつけると
リゼリアの側に行く。
「おばあ様。」
「痛みはどれくらいの頻度かしら」
「まだ8分おきでございます」
侍女が報告する。
陣痛が来たのだろう。
苦しみ始めた孫の汗をそっと拭ってやる。
「大丈夫よ。あなたは若い。神龍の加護もある」
そうして陣痛の波が過ぎると
「少しでも食べておきなさい。欲しくなくてもね
出産は体力勝負なのよ」
「おばあさま。これはどれくらい続くものなのですか?」
「多分あと10時間ぐらいかしら?
生まれるのは、真夜中から明け方になると思うわ」
絶望的な顔をするリゼリアにおばあさまは
「あなたは若いからね。出産に2日かかる人もいるから
それよりはずっと早く産むことになるはずよ」
それはとても慰めにならないとリゼリアは思ったが
実際きちんと痛みがくるのは良いことなのだ。
途中で陣痛が弱まってしまっていつまで経っても生まれない
その方が、赤ちゃんも妊婦も苦しいのだから。
「もうすぐニルが桃を持ってきてくれるからね。
でも、食べすぎないでね。眠ってしまっては困るから」
「わかりました、おばあ様
桃はありがたいわ。きっと痛みが引いてくれるわね」
そこにニルが大量の桃を持って現れた。
「ニル、食べさせすぎると寝てしまう。
量に気を付けて、少しづつ。
体力を温存させてね。出産に備えさせないと」
ニルはとても素直に頷いた。
リゼリアの側にいられるだけで落ち着くのだ。
侯爵夫人は、桃を宮殿に届けるように。
そしてやはり食べさせ過ぎないように指示を出すと
夫の元に戻っていった。
最初に生まれたのはリゼリアの方だった。
「女の子です。髪は銀色 瞳は金
お父様とお母さまに似て可愛らしい赤ちゃんです」
そう報告を受けて 侯爵夫妻が孫娘の元を訪れると
そこには一服の絵画のような風景があった。
ベッドで赤ん坊を抱く若い母親、
母親の肩を抱き、娘を見守る自信に満ちた父親。
侯爵夫妻の姿を見るとリゼリアは誇らしそうに叫んだ。
「見てください、こんなに愛らしい赤ちゃんが生まれたのよ」
赤ん坊はしわくちゃで、とても小さかった。
それでもぽやぽやとした銀色の髪が少しだけ生えていた
そっと、覗くと驚いたように目をあける
確かに金色、龍の瞳だ。
龍の娘がうまれたのだ。
やがて王宮からも連絡が来た。
男の子の双子が生まれた。
揃って金髪で青い瞳
王家の血を引く男児。
片方は丸々として大きく
片方は小さいけれど、ちゃんと産声を上げたという。
子供も母親も無事。何よりの快挙だ。
朝日が昇る頃には国中がお祭り騒ぎになるだろう。
双子の王子と龍の娘が生まれたのだ!




