精霊との契約
夜になった。
外は暗い ランプの光が、なんだか心もとなく感じる。
自分の部屋は、とても狭いからランプの光は部屋を全部照らしてくれる。
けれど
図書館は広い。広すぎてランプの光が届かない。
闇ができる
暗い闇が。
セーラが何か入れてないかな?マジックバックを覗いてみる。
クッキーとホットミルクこれってきっとセーラーの分だ。
自分のおやつを入れてくれた。そっと取り出して机の上へ
おかしいなぁ?悲しくないのに涙がぽとぽと。
「泣いているの?」
「泣いてない」
「だって泣いているじゃない。君」
涙をグイっと拭って言い返す
「泣いてないてば!」
あれ?
ちょっと待って?
私、誰と喋っているの?
目の前に青いモフモフとした塊が、ふよふよと浮いている。
「あなた誰?」
「君こそ誰?」
私は立ち上がり綺麗にカティシーを決めた。
「私はローゼンベルク伯爵家長女 リゼリア・フォン・ローゼンベルクと申します」
「ここの家の子供?」
「そうだけど?」
「フーン。僕が見えるのなら魔力持ちなんだね」
「えっと。魔力がないと見えないの?」
「そうだね、だって僕 神龍様にお仕えする精霊だもの」
「精霊なの? 神龍様って、日照りを起こしている方?」
「なに言っているの。神龍様がそんなことする訳ないだろう?
どうして日照りがおきているか調べるために、神龍様は僕をここに寄越したんだからな!」
「そうなの!凄い。じゃあ私たち目的が同じね。仲良くしましょう」
「なんで精霊のこの僕が、人間と仲良くしなきゃならないのだよ」
「えーと。ほら、クッキー食べない?美味しいよ。ホットミルクもあるの」
青いモフモフは疑わし気に、ふよふよとクッキーの置いてあるテーブルに近づいた。
おそるおそる口に入れて一気に食べるスピードが速くなる。
ホットミルクも飲み干して、ご満足されたようだ。
「食べたよね?」
「飲んだよね?」
「じゃぁ、協力してくれるよね」
「恐ろしい人間だなぁ。精霊を脅すのか?まぁいいか。名前を決めてくれ」
「名前?」
「俺と契約したいのだろう?なら名前が必要じゃないか」
青いモフモフ。どんな名前が似合うかな?
「ニル 青い川って意味 どう?」
「ニル 気に入ったよ。よろしくなリゼ」
「私はリゼリアよ」
「呼びにくい。リゼでいいだろう?」
「わかった。ニル。よろしく」
ニルはモフモフの毛玉から、白い羽の生えたトカゲの形になった。
まぁ神龍様の配下ならトカゲよね。モフモフの方がよかったけど。
「ニル。ニルはどんな力があるの?」
「俺は水ならなんでも操れるぜ」
「なんでも?例えば温泉とかでも?」
「温泉?なんだ、それ?ちょっとイメージ見せてみろ」
ニルは私の中の温泉のイメージを見つけたみたいだった。
「こんなのでいいのか?」
目の前に大浴場が広がった。泳げるくらい広い。
しかもライオンの口からお湯が流れ出ている。
私は自分のイメージの貧困さに少し気恥ずかしかったが、
そんなことは言っていられない。
「温泉だわ。ニルも入りましょう」
ニルは大慌てで逃げ出そうとしたけれど、私がお湯に引きずりこんだ。
水の精霊なのに温泉が苦手だなんて!
温泉は温かいお湯なのだから気持ちがいいのよ。
「動物ってお風呂が嫌いだものね。でも入ってみたら気持ちが良いでしょう?」
私はちょっぴりドヤ顔していたと思う。
前世の影響か、温泉と聞くとわくわくしてしまうのだ。
お風呂より体が温まると思うのよね。
「いや、そういう意味じゃなかったのだけどな。
まぁ、お前が良いなら、いいんだ別に」
「温泉の感想をきいているんだけどなぁ。どうなの?
精霊としては温泉はありだと思う?」
「どっちでもいいけど。洗浄魔法で清潔に保てるしな。
でもお前が好きなら、毎日温泉を用意してやるよ。
別に手間がかかる訳でもないしな」
「ありがとう。ニル」
きゃい!きゃい!言いながらニルとお風呂に入り、ニルとくっついて寝る。
さっきあんなに泣いていたのは、もうすっかり忘れてしまっていた。
すやすやと安心したような寝息を立てるリゼリアを見ながら、ニルはため息をついた。
ここまで無防備って逆に拷問なのだけど。
ニルはしげしげと警戒心の欠片もない娘を眺めて困ったようにもう一度深く息を吐いた。
うーん。なんか明るい。
この部屋日当たり悪い筈なのに。もしかして寝坊した?
慌てて起き上がると、ここは図書館の幼児コーナー
朝日が降り注いでいる。
そうかぁ。監禁されていたっけ。
「おい、起きたなら何か食わせろ」
頭上から声が落ちて来た。
「あっ、ニル。おはよう」
「精霊って、人間と同じものを食べるの?」
「いいや。別に食べる必要はないが。しかし昨日食った奴は旨かったからな」
「クッキーが気に入ったのね。でも、もうないわよ。私だって、めったに食べられないのに」
「お前、貴族の娘だって言っていなかったか?」
「貴族の筈なんだけどね。扱いはメイドより悪いわよ。たぶん」
「どうなっているのさ?」
「うーん、それを調べているところ。かな?」
「それよりニル。朝起きたら顔を洗って身支度しなきゃ」
「冗談だろ。昨日散々洗っただろ! 俺はごめんだからな!」
そう言うとニルは消えてしまった。私はクスクス笑いながら身支度を整える。
セーラは何か用意してくれたかな?マジックバックを覗くとセーラの手紙があった。
「お嬢様。夕食後に侍女長にお嬢様を救出してくださるようにお願いしました。
しかし、逆に叱られてしまい、お嬢様の罰がおわるまで、別館への出入りが禁止。
私は侍女部屋で寝泊まりすることになりました。
本来はそうすべきなので、お嬢様が出てこられても、夜はおそばにいられません。
10歳のお嬢様を、ひとりにしようなんてあんまりです。
執事長に訴えましたが、何もできないようです。
その代わり
焼きたてのアップルパイ。冷たいミルクの入った大きな壺、大きなパンの塊
チーズの塊。燻製肉 ベーコン クッキーやサンドウィッチ、ブドウ、コーンスープなど、
屋敷にある食べ物をたっぷり下さいました。
みんなニヤニヤ笑っていましたよ。どうせ全部取り上げるつもりなんです。
だからマジックバックに入れておきました。
あとで、食べ物が盗まれたと大騒ぎする予定です。
みんな誰か他の人が盗んだと思うはずです。
お嬢様、大丈夫ですか。心配です。セーラ」
私はセーラに返事を書きました。
ニルと契約したから大丈夫。ニルが守ってくれるわ。と。
それから沢山褒めておきました。
美味しそうなご飯がいっぱいニルは喜んでくれるかなぁ。
美味しいものは一人より誰かと一緒の方がもっと美味しくなるのよ。
テーブルに
ミルクティ、サンドウィッチ、コーンスープ、クッキーを用意してニルを呼びます。
「ニル、食事の支度が出来たわよ」
「なんだい、豪勢じゃないか?」
私は黙ってニルにセーラの手紙を渡しました。手紙を読むとニルは不機嫌になり
「よかったら、全員始末してやってもいいが?」
ブリザードみたいに冷たい声に私は震えてしまいました。
「いいのよ、ニル。それより食べましょう。御馳走がいっぱいよ」
サンドウィッチの中身はハムと野菜、クリームチーズと燻製サーモン、
見たことはあっても、食べるのは初めてです。
ぱくりと齧ると、凄い。ジュワーとサーモンの香りが鼻に抜けます。
「うーん。おいしー。」
私は思わず、足をバタバタさせました。ニルは笑いだしました。
「こんなものでそんなに喜ぶなら、精霊界の桃を持ってきてやるよ。
あれはすごく旨いんだぜ」
「本当?絶対よ。ニル」
何てことでしょう。精霊界の食べ物が食べられるなんて!
こんなに幸せでいいのかしら?




