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守るべき人

 王と王子の死去。

 そして颯爽と現れた龍に乗った若き王。

 物語ならばハッピーエンド。


 しかし、実際にはそんな訳にはいかない。

 とりあえず貴族会議には、王が神殿でひと月喪に服すことを無理やり了承させた。


 文句は山のように出た。王と王子の葬儀。

 国葬ともなれば準備は膨大だ。

 早くスケジュール調整をしなければ、周辺国にも迷惑がかかる。


 なによりも大事な即位式。

 王が即位しなければ新体制の発足もままならない。

 日常の業務はなんとか動かせるだろう。

 宰相に臨時に執権としての機能を与える。

 それだって、本来は王の仕事だ。


 あれやこれやを、とにかく貴族達は飲み込んだ。

 血統はあれど王宮で育たなかった王子。

 一度も両親に会ったことのない王子。

 僅か13歳。

 新年には14歳になるが、それでもまだ子供。

 飲み込んでいるうちに立て直す。

 神殿に王からの密命を受けた大人達が集まった。


「お前、何を考えてわざわざ厄介事を起こしやがった!」


 法王に食って掛かったのは、アドラー・フォン・アドルフ辺境伯だ。


 アドルフ辺境伯はレオンの後見役を任された。

 娘を王妃に。息子を法王に。

 一族揃って、レオンの王位を支える。


 密命を受けた時には、驚愕した。カール王子がいる。

 何故、予備が必要か?

 元々死にかけた王子だ。彼が王になる可能性は限りなく低い。


 それなのに王は

 秘された王子に王国の軍事力を預ける決断をした。

 しかも守役はヴィクトール・フォン・アルヴィス侯爵。

 アルヴィス侯爵家は、本来は公爵家に相当する。


 王家の姫が降嫁した家は、軒並み公爵家に叙せられる。

 そして現存する公爵家に降嫁した姫はどの家も、ひとりのみ。

 だというのに、アルヴィス侯爵家は、三度姫が降嫁している。

 けれど、侯爵家のまま存在し続けている。


 公爵家が潰れたり、新たに興ったりしているというのに。

 これが意味するところは明白だ。

 侯爵家は影の王

 万が一王家の血が途絶えたら、アルヴィス侯爵家の血を使う。


 軍を司るアドルフ辺境伯家

 血を守るアルヴィス侯爵家


 王家を守る2つの力

 それを2つ共に一度も会わない息子に与えた。

 これは王の贖罪と愛であろう。

 それだというのに、事もあろうに

 法王が全てをぶち壊した。


 反抗期の無かった良い子ちゃんは今や反抗期真っ盛りだ。

 反抗期なんて言葉は甘すぎる。レオンはブチ切れだ。

 まるで龍の咆哮のように叫んでいる。


 「王家なんかくそくらえ!王になんてなるものか!」


 あれが清廉王だなんて、誰が思うだろう。

 まるで癇癪をおこした3歳児。誰の言葉も聞こうとしない。

 時間はじりじりと切迫していく。

 これも全て法王が煽ったせいなのだ。


 法王はにこにこしている。笑っている場合か?

 大人がレオンの部屋に入ろうすると部屋中の物が飛んでくる。


「まるでヒステリー女だ!」


 そうこぼしたのはゼノンだ。

 ゼノンはレオンの剣の師匠だ。

 師匠の言うことならば、もしかすると……。

 そんな儚い希望で呼び出された。


 一方、レオンはすっかり疲れ果てていた。

 生まれて初めて大声でわめき一方的に当たり散らした。

 胸に貯まっていたわだかまりも、恨みも全部吐き出した。

 

 俺ってこんなにちっぽけな奴だったのか?

 取りすまして優等生だった時にはいっぱしの大人気取り。

 けっこう優秀なつもりでいたのに。

 つまらない事に拘って。被害者の顔で、恩人を責め立てる。

 なんてちっぽけなんだろう。

 こんな僕に国を任せるなんて……。


 レオンは知っていた。きちんと学び続けていたから。

 アルヴィス侯爵家に預けられた意味も。

 アドルフ辺境伯の娘を娶る意味だって。

 王が、彼らが自分を守ってきたことも。


「あー、もういいかなぁ」


「ようやく 本当に王になる決心ができましたか?」


 法王がにこやかに声をかける。


「なんだよ。こうなるって分かっていたくせにさ。

 わざわざ煽らなくても、俺ちゃんと王をやれたと思うぜ」


「やれたでしょうねぇ。あなたは自分をだますのがお上手だから」


「でも、覚えておいてください。

 自分を騙したら、あなたは心から笑えなくなる。

 笑えない王を持つ民は幸せでしょうか?」


「なんだよ。結局お説教か?」


「どうでしょう? 多分年寄りの繰り言ですよ」


「よい、顔になりましたね。あなたの嫁さんはきっと幸せですよ」


 レオンは真っ赤になった。


「なんだよ!からかうな!」


 法王は大きな声で笑った。

 その声を聞いた大人たちは、やれやれとばかりに

 準備に取り掛かった。

 

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