正当な怒り
法王はレオンの意志に関係なく話を続けた。
レオンとカールは双子。これは間違いではない。
そうして魔力持ちに多いのだが、
体内で片割れの魔力を吸収する場合があるという。
特に王家の場合には……
胎内の子供の魔力に耐え切れずに、命を失う妃も多い。
だから、
双子が共に生きて生まれることは珍しい。
王家では双子は育たない。半ば諦めにも似た言い伝え。
そうして
カールは生き生きとして大声で産声を上げたが
レオンは産声をあげなかった。
カールの半分よりも、もっと小さな赤ん坊は
蘇生の魔法でかろうじて命を繋ぎとめた。
これは長く生きることは出来ないだろう。
王も医師もそう思って
レオンが生きて生まれたことは、王妃には伏せられた。
出産の喜び、王妃にはそれだけで十分だと思ったから。
生き残ることも覚束ない子供の存在を、王妃に伝える必要はない。
だから医師は、もうひとりは息をしなかった。
そう伝えた。
泣かない我が子を心配していた母親の元へ
元気な赤子が運ばれてきた。
王妃はひまわりの花のように笑った
愛しい我が子は、ちゃんとここにいる。
そうしてレオンは母と顔を合わせることなく
乳母と共に王宮を去った。
それでも王は、万一に備えてレオンの出生証明書を作り
秘された王子として育てるようにアルヴィス侯爵に厳命した。
王家の言い伝え。
王家の子供は、ひとりしか育たない。
王にふさわしくない子供は神の身許に返される。
王家では、表立って王位争いがおきることがない。
なぜなら大人になるまで生きるのは、いつもひとりだけ。
これは女児には当てはまらない。
プロイセン王国では女に爵位継承権はない。
だからなのか?
女児はすくすく育って貴族の元に嫁ぐ。
数少ない王家の血が、そうやって流れてきた。
王女が生まれる確率は王子の時より低い。
王子は必ず生まれる。不思議と必ず二人。
大人になる前に王とならない子供は死んでしまう。
不思議と必ず。
そしてふたりの男児のうち、どちらが王なのかは
誰にもわからない。唯一わかるのは立太子の時。
その時、神龍が加護を与える。その王の真名を与えるのだ。
誠実王は弟で、立太子式に臨んだのは兄だった。
兄が選ばれ自分は死ぬのだろう。
誠実王は、そう思っていた。
王の片割れは成人前に死ぬ。それが理だったから。
兄の立太子式
その時
神龍蒼天の王はフリードリッヒに誠実王の真名を与えた。
兄は驚愕し、蒼天の王ニルヴァに魔力攻撃を行い
跳ね返された己の魔力によって死亡した。
誠実王は仰天した。
兄は偉大で大きくて
フリードリッヒは足元にも及ばないと知っていたから。
誠実王の問いに蒼天の王は答えた
今は騒乱の王はいらないと。
兄は、時が時であれば英雄王となった男だった。
幼くとも龍に戦いを挑むほどの覇気ある男。
けれど
騒乱の時代は過ぎ去り太平の世は誠実王がふさわしい。
だから誠実王は、レオンを王として育てさせた。
どちらが王か判らぬゆえに。
誠実王は間違いを犯した。
それは王妃を愛するあまり嘘をついたこと。
レオンを秘したことだ。
この偽りが王妃を徐々に蝕むことになった。
王妃はカールを愛した。
しかし度々、王妃の脳裏に生まれなかった子供が浮かぶ。
そうして考えてしまったのだ。
カールが、我が子を食い殺したのではないか?
自分が生き残るために弟の命を啜り生まれたのではないか?
レオンは確かに、とても小さく儚い赤ん坊だった。
けれども
それはカールの責任ではない。
双子の片割れが胎内で吸収されるのは、ままあることだ。
それは自然の摂理で、生まれて来た子供が背負う罪ではない。
だというのにカールは時々母が自分を憎み恐れていると感じた。
子供は聡い。鋭敏だ。
ことに自分が愛されているかどうか?
それは生存に関わることだから余計に鋭敏になる。
カールは王妃から愛され母親からは恐れられた。
王妃に大切にされながら母親に憎まれた。
アンビバレンスな感情は葛藤を産み苦しみを産んだ。
王妃にも判らない。
なぜ愛する子供を憎いと感じてしまうのか?
そんな気持ちがおきると王妃は自責の念から、余計にカールを甘やかしてしまう。
王も苦しんだ。
自分のせいで愛する王妃と王子が苦しんでいるのだ。
レオンを王宮に戻せば解決するだろうか?
いや、きっとそうはならない。
王妃は愛する子供をレオンだと決めてしまうだろう
カールは憎まれたままになる。
多分レオンの存在を知ればカールはレオンの命を狙う。
そしてそれを知れば王妃はカールを殺すだろう。
そこまで予想できたから王は、ただ見ているしか出来なかった。
そして最後まで王妃とカール王子を守ると決めた。
王国を、自分が見捨てたレオンに預けて。
だからレオンは怒ってもよかったし理不尽だと叫んでも良かった。
良い子のままではレオン。
お前もいつか壊れてしまうよ。
法王はそう言ってもう一度訪ねた。
「レオン。理不尽だと思うかい?」
レオンは黙って聞きながら涙をこぼしていたが、大声で叫んだ。
「勝手なことばかり言いやがって!
なにが王だ!なにが王家だ!
そんなもの犬にでも食わせろよ!」
理不尽だよ。理不尽に決まっているだろう?
勝手に捨てて置いて勝手に罪悪感を感じて
勝手に殺しあう。
なんなんだよ。俺は父親にも母親にも
会ったことも、愛されたことも無いんだぞ!」
魂からの慟哭だった。
レオンの怒りは正当で、我慢するべきではなかったから。
法王は、ずっと黙ってレオンの怒りを受け止め続けた。




