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神龍と王

 刻限のかなり前から神殿前広場に大勢の人々が詰めかけていた。


 高位貴族は神殿内で、法王の演説を聞こうとありったけのコネを動員する。

 この状況で上から目線で命令するほど高位貴族も愚かではない。

 しかし民と混じって広場で待つのも品位に関わると思うからだ。


 正直、神殿としては迷惑この上ない客たちなのだ。

 今日はとてつもなく忙しいのだから。

 刻限がどんどん迫ってくる。法王がテラスに現れて、言葉を発した。


「新王レオン・フォン・プロイセン国王陛下

 神龍 蒼天の王ニルヴァ殿が、お出ましになります」


 その声と同時に、蒼い龍に乗った少年が、空から舞い降りた。

 龍は少年の凛々しい姿を見せつけるかのように、神殿の上を三周した。

 人々は本物の龍に乗る少年が王だと知って熱狂する。

 少年王は、民に手を振って応えていた。


「何という事だ!」


「神龍が本当に存在したのか?」


 人々が姦しく騒ぎたてる中、少年王と蒼天の王ニルヴァは

 法王の元に降り立った。

 法王が宣言する。


「王の遺書を読み上げる。

 私、フリードリッヒ11世は、

 我が息子レオン・フォン・プロイセンに王位を譲ることとする。」


 法王が王の遺書を掲げ、それを宰相に手渡した。


「間違いなく。王の筆跡でございます」


 宰相の言葉にどよめきがおきる。

 法王は続けた。


「ここに、レオン陛下の出生証明書がある。

 レオン陛下は、間違いなくフリードリッヒ11世陛下と、

 アーデルハイト・フォン・プロイセン王妃陛下の次男でいらっしゃいます。」


「そんな馬鹿な。王妃陛下は1度しか出産されていない」


 宮廷医が進みでた。


「出生証明書に間違いはございません。王妃陛下は双子を産み落とされました。

 しかし、カール殿下は丸々とした元気なお子でいらっしゃいましたが、

 レオン殿下は、出生時 非常に小さくお生まれになりました。

 王は殿下の出生に不幸があってはならないと、レオン殿下を密かに

 他家にお預けになりました。」


 その後を宰相が補足する


「王はレオン殿下をカール殿下の控えとして、

 王子教育を行うようアルヴィス侯爵家に命じられました。

 それゆえに、アルヴィス侯爵家は常に王家から距離を取って来ました」


「王位を揺るがしてはならない。

 それが王命であり、

 しかも万が一の時には王として立てよ。とも申されました」


「現在アルヴィス侯爵家は一路王都に向かっております。

 王の命令書も到着次第、お見せできるでしょう」


「その必要はないであろう。

 私は王から、王印たる王の指輪をお預かりしている。

 レオン殿下に渡すようにと」


 法王が王の指輪をレオンに嵌めた。


「レオン陛下」


 法王はそう言うと跪いた。

 その場にいた全員が、同じように跪いて頭を下げた」


「皆の者。頭をあげよ。若輩の王だ。皆の支えが必要だ。支えてくれるか?」


「命に変えましてお支え致します。陛下」


 全員が異口同音にそう答えた。

 ひとまずは、答えが出たのだ。誰が逆らおうと思うだろうか?


 黙って聞いていた蒼天の王ニルヴァが口を開いた。


「我もレオンを清廉王として認めよう」


「なんと、清廉王に神龍の加護が!」


 それを聞いた民衆が口々に叫んだ。


「清廉王万歳」


「蒼天の王ニルヴァさま万歳」


 民衆は大興奮だ。

 何しろ神話の中の神龍をその目で見たのだ!

 しかも我らが清廉王は神龍の加護持ちだ。


 この興奮を予測していた宰相は大樽の酒を大量に振舞った。

 勿論、この日は無礼講で、王家から気前よく金がバラまかれたので、

 どの店でも、無料で飲み食いできたのだ。


 その騒ぎをよそにレオンはぐったりしている。

 あの神龍は、レオンを背中に乗せて凄まじいスピードで飛んだのだ。

 あの場こそ気力で持ちこたえたが、

 酒や食べ物は到底無理だ。

 そこでレオンは法王を盾に、部屋に逃げ込んでしまった。


 法王はレオンに霊水を渡してやった。

 少し顔色の戻ったレオンに法王は語りかけた。


「理不尽だと思うかい?」


 レオンは首を振ったが、それは良い兆候ではないと法王は思った。


「少し年寄りの昔話を聞いておくれ」


 法王は語り出した。

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