父と子 そして永久へ
深い悲しみに包まれた一日であった。
民は思い思いに小さな花を手に 王妃を悼んだ。
貴族や騎士そして民の代表者たちは、神殿での追悼式に参列し
法王の元で、王妃の魂の安らかならんことを祈る。
追悼と祈りの日
王は、王妃へのはなむけとして、貧民に食料と暖かな衣類を贈った。
貧民だけではなく民達にも惜しげなく配ったから、
王都に住む人々は、数か月は飢える心配は全くなくなった。
不思議なことに、今日食べるものを心配する必要がなくなると
穏やかな民が増えた。
今日も、明日も、飢えない。
それがほんの少しのゆとりとなって、民は明日を夢見るようになった。
そんなささやかな変化を希望にして、王は我が子に会いにいった。
たった二晩。
されど、一夜で人は変わることもあるのだ。
祈りの間で ひとり過ごした二晩
王子は何を思っただろう。
祈祷室に足を踏み入れた王のすぐ傍をグラスが飛んでいき
王が閉めた扉に当たって砕け散った。
待っていたカールの瞳には、怒りは無かった。
カールは静かに話始めた。
「ようやくお見えですか?
待ちかねましたよ。
父上は私を見限った。
母上を見限ったのだから、
息子など、簡単に捨てられるのでしょう?
父上は、何かといえば民のためと言う。
では私は?
私は父上の民ではないのですよね。
ええ、知っていますとも。
私は駒だ。王家を存続させる為のね。
私に与えられたのは
民への奉仕と責任という名の足かせだけ。
そして、私がほんの少し
自由を得ようとしただけで切り捨てる
さすがに誠実王だ!
誠実に息子を捨てる。素晴らしいですね」
王は少し戸惑うような顔をして息子に尋ねた。
「カール。そなたは私の息子だ。
王の子であることが、そなたを、ここまで歪めたのか?
それなら…… 民として生きる。そんな生き方もある。
自由を求めるか?カール?」
それを聞くとカールは馬鹿げた間違いを見つけたように、嘲笑った。
「あははは!ハハハ あははは」
「滑稽だ。滑稽だよ。父上。
貴方は本当に愚かだ。
私の求めるものはたった一つ。王位ですよ。
父上。
甘ちゃんの父上には王位はふさわしくない。
王位はねぇ、父上。
僕のような、孤高の天才にこそ相応しい。
さようなら。
父上。
愛する母上の元へ送ってあげましょう。
息子である、僕の手でね。」
魔法が発動しない筈の祈祷の間。
しかし
膨大な魔力が巨大な剣となって王に迫る。
王はその一瞬 閉めた筈の扉が 小さなガラスの欠片によって
隙間ができているのを、見た。
あぁ、そうか。
私が扉を閉めたあの時、
カールの投げたグラスは、魔力の通り道を作ったのだ。
カールの氷の剣は真っすぐに王の心臓を狙っていた。
王は僅かに身体をねじり避けようとした。
しかし即死は免れたものの、剣は王を刺し貫いた。
王はよろよろとカールの元に足を運ぶ。
一歩、二歩、三歩。
王の身体はぐらりと揺れそのまま倒れた。
倒れる時王はカールに何かを求めるように手を伸ばした。
「カール。私の愛する息子」
確かに王はそう言って、ゴボリと血を吐き息絶えた。
カールは、不思議そうな顔になった。
父上は、なんと言ったのだ?
しかし……
カールに考える時間は残されていなかった。
カールの胸に、父王と同じ傷ができ血が滴り落ちる。
カールは不思議そうな顔をする。
どうして血が……?
そうして頼りない子供の顔で父親の遺体を振り返った。
まさか……
まさか、そんな……。
反魂の魔法。
自分の命と引き換えに発動する魔法。
自分が死んだ時、殺した相手も同じように死ぬ
そんな魔法。
馬鹿げた魔法だ。
その魔法を知った時、カールはそう思った。
復讐は出来るかもしれないが、自分は結局殺されるのだ。
カールなら殺される前に殺す。
わざわざ殺されてやるなんて。
死ぬ気なら大人しく死ねばよい。
殺す勇気もなく、殺されるのを待つ。
父上は本物のバカだ。
そして俺は、そんな馬鹿に殺される。
その時、ようやくカールは思い出した。
自分が何を欲しがっていたのかを……。
愛。
無償の愛。
カールが焦がれてやまなかったもの。
それを思い出してカールは安心したような顔をした。
カールの口から血がゴボリと零れ落ちた。
そのままカールの時は止まった。
けれどカールの倒れた場所の隣には父がいた。
カールの手は父王の身体を抱いていた。
そして死んだカールの顔は少しほほ笑んでいるように見えた。
冷酷非情な王子
その面影はどこにもなかった。
あったのは幼子のような死に顔。
そして王の顔には慈愛が溢れていた。
いつの間にか法王がふたりの横に佇んでいた。
「最後の最後に間に合ったのか?王よ。」
そして二人に静かに祈りを捧げた。
法王の仕事はここからだから、
法王はそのまま、去った。
やるべき事をなすために。




