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国王と法王

 国王が密やかに法王を訪ねた。公式訪問の形はとらない。


「ようこそおいで下さいました。国王陛下」


 法王は、にこやかに自ら国王を出迎えた。


 国王の方も、気さくな笑顔で法王に礼をする。


「この度はお招きいただいて、楽しみにしておりましたぞ。法王猊下」


「久方ぶりですのう。わしこそ楽しみじゃ。

 お互い旧友にあうのも面倒な身分になってしまったからのう」


 いかにも、親友同士らしい気さくな語らいに、従者たちも穏やかな顔になる。


「さぁさぁ、お供の方々にもお食事を用意しておりますぞ。

 案内して差し上げなさい」



 王と法王は愉快そうに法王のプライベートルームに向かう。

 従者たちも、今日は無礼講。

 王と法王の仲はよく知っている。

 そのうえ、今日は非公式とはいえ、王が謝罪する予定なのは公然の秘密だ。


 そんな場面に余人が立ち会うことなど出来ない。

 だから王と法王という最重要人物の二人きりの会談に誰も疑問をもたなかった。


 食事の支度の整ったテーブルにつくと、人払いがされる。

 給仕も不在の昼食会。


 王は少し安心した顔で法王を見た。幼いころは、共に学んだ友人同士。

 身分は違ったが気が合ったのだろう。いつの間にか親友になっていた。


「すまない。これを清廉王となるレオンに渡してくれ」


 王の証となる指輪を外すと、法王へと託した。


「なぜだ。王太子の認証を預かる筈ではなかったか?」


「あれを持ち出せば、すぐにカールに伝わる。

 立太子に執念を燃やしておるからな」


「しかし、王がその証を持たぬなど」


「ダミーがある」王はダミーの指輪を嵌めてから書状を取り出した。


「遺言書だ。

 次代の王としてレオンを指名している。

 出生証明書はお主が持っているな」


「ああ、だがこあれを使う日がこようとは」


「カールから弾劾状が届いた。王妃の悪行が証拠つきでな」


「既に、ヴァレンティノ公爵家の者たちは全員死亡が確認されておる。

 火事であの広大な城が焼け落ちたとの知らせじゃ。

 馬鹿馬鹿しい。戦争でもなければ落ちぬ城だぞ」


「つまり生き証人は誰も?」


「あぁ、クレイ商会は破産。商会長のオズワルドは行方不明じゃ」


「王妃は?」


「毒酒を用意させた。せめて苦しめたくはないからな。

 20年を共に暮らしたのだ。

 軟禁して余生を送らせたかったが、カールはそれを許さぬだろう。

 ならば、安らかに逝かせるのが慈悲だろう」


「王命でカールを捉えることは?」


「多分、それをすれば反乱がおきる

 なぜ、この時期に。王都に人々を集めていると思う?」


「まさか、人質か?」


「そのつもりだろう。わしが余計な手を打たぬように民を人質に取りおった」

 念の為じゃ。そなたの後継は?」


 その時、壁が静かに開き、聡明そうな青年がでてきた。


 法王は預かった全てを青年に託し、王に紹介した。


「年は若いが、既に大司教の地位にある。ダンテスだ。

 アドルフ辺境伯の次男坊。知っているだろう?」


「あぁ、そなたがダンテスか?魔力が膨大ゆえに神殿入りとなったと聞いたが」


「その通りじゃ。私の倍の神聖力を持つ。歴代法王の中でも最大だろう」


「なるほど、神はいらっしゃるのかもしれませんね」


 ダンテスは軽く礼をすると、すぐに消えた。


「良き若者だな」


「無口なのが問題だな」



「喋りすぎるほうが問題さ」



 ふたりの王は共に後継に後を託して肩の荷が幾分軽くなったのを感じた。


「さて、我らで解決できればよいのだが」


「確かに。切り崩しにかかってはいるが」


「表立っては動けんからのう」


 二人は窓辺にたった。神殿からでも王都の賑わいが伝わってくる

 立太子式のころにはこの倍ほどの人々が詰めかける。


 しかも、そのころには有力貴族の姫たちが人質としカールの側に置かれる。

 貴族たちも逆らえなくなる。


 二人の王に残された時間は短い。


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