王子の一手
カールは今朝早くから王妃宮に来ている。
王妃から呼ばれたのだ。
「どうしました。お母さま。思わしくない結果のようですね」
「楽しそうね、カール。何がそんなに面白いのかしら。
池に石を投げたのに波紋すら広がらないのよ」
「ええ。ですから申し上げたでしょう。母上。静かすぎる。とね」
カールにとって、この結果は想定されていたものだ。
だが波紋が広がらないというのなら、小石を投げてやれば良いだけ。
弱点は何所だかわかっているのだ。
それなら最初からそれを狙えばよいだけだ。
「それでね、少し騒ぎをおこして差し上げようと思うのです。
神龍の弱みを、ついてやりましょう。きっと面白くなるでしょうね」
「まぁ。では稚い姫をいたぶるのかしら?」
全く、あれほどしっかりと念を押しておいたと言うのに。
この母親は、リゼリアをいたぶるのを諦めていないらしい。
カールはリゼリアを誰とも分かち合うつもりはない。
あれは私のものなのだから。
「お母さま、そのように嬉しそうな顔されては、
私も考えてしまうかもしれませんよ
あれは、私のものだと、念を押しておきましたのに」
カールから、ちらちらと蛇のような邪気が漏れると、
王妃は小さく悲鳴をあげた。
「カール。私の大事な息子。
私はカールの大切な姫に、近づきませんよ。
そうでしょう。カール。姫はカールのものですから」
相変わらずだな。とカールは思う。どうせ今回も口先だけだ。
カールの気に入った玩具には手を出さずにはいられない。
今までならば許せた。
どうせ最後には壊すつもりの玩具。壊されても気にならない。
しかし、今回はそうではない。
壊れないように大事にするつもりなのだ。邪魔をするようなら本当に……。
「ええ、そうですとも、母上。よくお判りですね。
さすがは、王国一番の貴婦人でいらっしゃる」
息子からの許しを確認して、王妃はほっと息をはいた。
稚い姫君は神龍だけだは無く、カールにとっても弱みとなるのではないか?
カールの弱みなど、本当なら処分している。
けれど、それは自分を死地に追いやることと同じ。
カールは自分より大切なものが出来た。
王妃はその事実に打ちのめされたが、白旗をあげる気はさらさら無かった。
王妃はチャンスを辛抱強く待つことにしたのだ。
そして
アルヴィス侯爵家に一通の書状が届いた。
王家からの正式な招聘状。
「馬鹿げた話だ。無視しろ!」
蒼天の王ニルヴァは、怒りをあらわにしている。
王宮から届いた招聘状。その内容は。
王太子妃にふさわしい姫を選ぶため古式にのっとり
宮中にて7色姫を召喚する。
菖蒲姫 若葉姫 藤姫 杏姫 珊瑚姫 桜姫 瑠璃姫
七色姫は、年内中に宮中に参内すること
今回リゼリア姫には瑠璃姫の称号を与える。
この書状以降、瑠璃姫以外の称号を名乗ることは禁ずる。
七色姫の所属は王宮となった。
公爵家は王家の姫の格式を持って瑠璃姫を王都までお連れしろ。
なお、7色姫の迎えの馬車は出立している。
王都入りは王家の馬車にて行うように。
侍女の帯同は2人までとする。
思いっきり上から目線。有無を言わせぬ命令だ。
しかも命令者は、フリードリッヒ11世。
王命である。
「確かに誠実王にしては、らしくないが……」
「印章、署名、共に間違いなく誠実王のものだ」
アルフレッドとアルヴィス侯爵は署名を確認して黙り込んだ。
悩んだところで王命なら従う以外ないじゃありませんか!
と正論をぶち上げるゼノン。
リゼリアの父と祖父は嫌な顔でゼノンを見る
見られたところで気にするゼノンではない。
「ともかく、候補者の名前ぐらいは確認しておけ。
我が家の眷属が選ばれていれば、リゼを守らせる」
アルヴィス侯爵の命にすぐさまでていくゼノン。
「ニル、そんなに苦い顔をするな。お前の保護があるのだからな、
リゼリアには」
そんな風に励まされても、嫌なものは嫌なのだ。
元々、束縛を嫌う龍が番を囲われて平気なわけがない。
難しい顔をするニルにリゼリアがそっと近寄ると、その頬にキスを落とす。
ニルが驚いて顔をあげると、ニルの額に指を押し付けて
「眉間にしわが寄っている。ニル、おじいちゃんになってしまうわよ」
おじいちゃんと言われてニルは目を見開いた。
もともと年齢差がありすぎる二人なのだ。
「もしかしてリゼは僕が嫌いになったの?僕がおじいちゃんだから?」
衝撃のあまり、子供みたいに言い募るニルにリゼはもう一度キスをした。
「約束したでしょう。結婚するって!
約束信じられないの?」
「そうだ。約束だぜ。結婚しような」
「約束」
「約束」
そう言いながらキスを繰り返す二人に周りはニヤニヤし始めた。
「これはかかあ天下になりそうだな」
「あんなに怒ってたのにデレデレだぜ」
「甘いよなぁ」
「甘いなぁ」
「くっそー、俺は絶対に彼女を作るぞー」
「ひとりで彼女がつくれるといいよな」
「そうだなぁ」
「問題は、相手がいるかどうかなんだよなぁ」
「段々悲しくなってこないか?」
「誰が悪いんだ?」
「あいつらだよな?」
「だな?」
「くっそー。お前らいちゃつくんじゃねえぞ」
「お天気ばかりだと思うなよ」
結局こうなるんだよなぁ。アルヴィス家だもんなぁ。
なんだかんだで落ち着くところに落ち着いたみたいである
実際は何も解決していないが。




