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埋葬の時

「止めた方がいい。

 地下神殿はとても貴族女性が耐えられるものではありません。

 娘さんたちの遺体はきちんと管理しています。

 ここでお待ち頂ければ運ばせましょう」


 神官は丁寧に説明した。

 彼女が何を知りたいか知らないが、

 罪を負って死んだ者には、引き取り手が現れることは少ない。


 彼女のように罪人を引き取りにくるものは稀だ。

 大抵はそのまま処分され灰となる。

 地下には焼却施設もあるのだ。


 勿論

 引き取り手が現れる可能性を考慮して

 ひと月は遺体は保管される。

 地下は凍るぐらい寒いから

 遺体はきれいに保管されている。


「いいえ、私が自分で確認します。

 娘たちがどのように扱われているのか。

 娘たちは罪を贖った。

 だから、丁寧に扱われている筈よね」


 成る程と神官は納得した。

 彼女は死者の尊厳が守られているか知りたいだけなのだ。


 それなら何の問題もない。

 神は全てをいつくしむ

 それが罪人であっても


 神官はセレナ・フォン・ノクス伯爵夫人を地下へと案内した。


 遺体の安置場所はとても広い。

 王都で処罰された罪人の遺体は

 引き取り手がいない場合

 必ず一度ここに安置される。


 傷は修復され

 化粧もほどこされる。

 丁寧に安置していても、訪れるものはほとんどいない。


「こちらでございます。

 お探ししますから、しばらくお待ちください」


「いいえ、自分で探すわ。

 呼ぶまで入ってこないで!」


 貴婦人は神官にずしりとした金袋を渡した。

 神官は勿論うやうやしく受け取る。

 これは神から自分への御褒美だ。


 ノクス伯爵夫人は遺体を丁寧に見て歩いた。

 娘たちの遺体は、特に綺麗に安置されていた。

 彼女は、しばらくその場に佇んでいた。


 遺体は清らかに保たれ、傷は見えなかった。

 顔は生前のままで

 苦しんだ気配はなかった。

 娘は痛みよりも、娘だけを見つめていたのだろ。


 そして孫娘は、なにも分らないままに意識をうしなったのだ。

 恐怖をその顔に浮かべてはいなかったから。

 ただ、不思議そうな顔をしていた。

 びっくりしたような顔を。


 彼女は静かにその場を後にした

 今は埋葬の時ではない。

 目的を果たさねばならない

 主が探している人物はここにいるのだろうか?


 ひとつ ひとつ

 彼女は丁寧に確認していく。

 ルシアン大司教とエグゼキエル魔導士が

 こんな場所に放置されているとは考えづらい。


 しかし逆にかんがえれば

 こんな場所だからこそ

 あの方以外に探そうとは考えないだろう。


 無い。

 遺体は無かった。

 彼女は満足した。

 それなら彼らはまだ生きている。


 生かしているなら

 利用価値があると考えているということだ。

 神殿はこの件を終わりにする気が無い

 つまりはそういうことだ。


 彼女はとても満足している

 あの方は喜んでくれるだろうか?

 念のために

 もう一つの場所を確認しておこう。


 あるはずなのだ。

 この場所に

 魔力結界で覆われている場所が


 そして彼女はたどりついた

 囚われ人として

 その場所へ


「出しなさい。こんな事あの方は許さないわ」


 貴婦人は叫び声をあげたが

 やがて奇妙なことに気がついた。


 違う。

 ここは魔力結界で覆われているのではない

 これは、魔力を吸い取る何かだ!


 魔力持ちにとって

 魔力は生きる力と同じ意味をもつ

 このまま、魔力を吸い取られ続けたら?


 彼女は探していた人物たちがどうなったか

 知ることができた。

 なぜなら自分も同じ末路をたどることになるからだ。


「出しなさい。出して!情報をあげるわ

 欲しいんでしょう。凄い情報を持っているのよ!」


 それに応えるものは誰もいない。

 部屋はやがて沈黙に包まれた。

 小さな魔石がひとつ、もの言いたげに点滅している。


 神官はなぜか金袋をくれた貴婦人のことを忘れていた。

 しかしローゼンベルク伯爵家の人々

 美しい花園に丁寧に埋葬された二人の貴婦人のことは

 よく覚えていた。


 死者とは思えぬ美しい姿で、銀の棺に入れられて

 埋葬された。


 迎えにきたのは、騎士が一人だけ。

 神官はローゼンベルグ伯爵家の騎士だろうと思った。

 旧主に最後の忠誠を尽くす気なのだろう。

 埋葬した騎士は、随分長い間、墓の前で佇んでいた。


 いつまでも帰ろうとしないので、神官はそっとその場を離れた。

 ただ気になった。お布施も沢山貰っていた。

 だから念のため夜にあの場所に使いをやった。


 ランタンと毛布

 ワインと幾何かの食べ物が入った籠を持たせて。


 使いのものは騎士が丁寧に礼を言ってそれを受け取ったと報告した。

 多分、あの場で一夜を過ごすつもりだとの言葉も添えて。

 あの美しい貴婦人と幼い娘は

 最後に誰かに埋葬されたのだ。

 神官はその夜、貴婦人たちの冥福と

 騎士の平穏を祈った。


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