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静かなる神殿

 法王は、ルシアン大司教とエグゼキエル魔導士を破門したと発表した。

 理由は二つ、邪法を使って水を操り、日照りや洪水の被害を与えた事。

 神龍を貶め、無意味な生贄を捧げた事。


 法王は神龍とは自然界の(コトワリ)を守るものであり、

 精霊界の守護者であると宣言した。

 この布告を行った後、神殿は沈黙を貫いた。

 人々は様々な噂を流した。


 神龍が魔導士と大司教を食らったというもの。

 神龍など元々いない。大司祭らが作り上げた幻想というもの。

 これはただの勢力争いで、大司教が法王になろうとして失脚したというもの。


 人の数だけ噂の種があるのではないか?

 そう考えてしまう程多くの噂が飛び交ったが、

 神殿はただ最初の主張を繰り返すだけだった。

 そしてこの一件は見事なほど王家に無視されている。


 カール王子は王妃宮に足を運んだ。

 どうにも気にかかることがあるのだ。

 王妃宮に手がかりがあるとは思えないが、それでも贄にはなるかもしれない。

 

 「静かすぎますね」


 カール王子が呟いた。


 「気になるのかしら?王は立太子の準備をお命じになった。

  なにも問題はないでしょう?カール」


 王妃は問題があるとは思ってはいないようだ。


 「ええ、問題がなさすぎるのがね。

  ルシアンとエグゼキエルの情報は王宮にも届いておりましょう」


 「調べてみたけれど、神殿の主張が報告されただけよ。

  誰も疑問を持たないわ」


 「カール。いつも冷静なあなたらしくないわね?」


 「そうでしょうか? 水面が静かだとすると、水深が深いのかもしれませんよ。

  奥深くで、何かが進行しているのかも……」


 「困った息子だこと。それならば母が心配の根を取り除いて差し上げましょう」


 「いいえ、母上。静かな盤面に余計なものを投げ込んではなりません」


 「動かない方がいいというの?」


 「ええ、敵が動いたら痕跡をたどることにいたしましょう」


 「ヴァレンティノ公爵家を少し突いてみては?」


 「神殿の意図が分かればよいのですが」


 「そういえば、王が神殿に行く予定があるわ」


 「父上が?」


 「法王にお詫びするらしいわ。

  王は今回の件貴族の水利権争いだと黙認していたから」


 「えぇ、確かに王は愚かでしたが……この盤面で詫びる?」


 「影は付けているでしょう。誠実王は、今回も誠実を貫くおつもりなのよ」


 「気に入りませんね」


 「カール、あなたのやり方が煮詰まるなら、少し母のやり方を御覧なさい」


 「母上。なるほど。逆もありかも知れませんね。

  元々、惜しい駒でもありませんし」


 母は子飼いに神殿を探らせるつもりだろう。

 ここまで静かだと、それはかえって危険な策かもしれないが。

 しかしどうにも気にかかる。


 それに失敗したとしても、それは母のしたこと。

 こちらに火の粉が降りかかることもない。

 それならば構わないではないか。


 「可愛い子ね。あなたは立太子の準備でもなさい」


 「ええ、母上

  水が濁れば浮き上がるものがいるかもしれませんね」


 カール王子は独り言のように小さく呟いた。



 翌日、セレナ・フォン・ノクス伯爵夫人は神殿を訪れた。

 自分の娘と孫娘の遺体をノクス家の礼拝堂に安置する許可を得るためである。


 「ノクス伯爵夫人。それは認められません。

  お二人は平民として罰を受けております。」


 「何を言うの。あの二人はローゼンベルク伯爵家の者として罪を償ったのよ」


 「ローゼンベルク伯爵家の貴婦人は、ムチを受ける前に爵位を返上しました。」


 「だとしても、娘は貴族の血統。ノクス家は彼女を受け入れるわ。」


 「いいえ、ノクス伯爵夫人。

  平民として亡くなった方を貴族の墓にいれることはできません。

  遺体が残っただけでも恩寵と言えるのです。」


 「ですからお二人の遺体は平民の罪人として、神殿の地下にあります。

  引き取るならご案内しましょう。」


 そう答えながら神官は不思議でならなかった。

 こんなことは、貴族ならだれでも知っていいること。

 普通なら使用人に引き取らせ。

 どこか美しい場所に墓をつくるものだ。


 一体この貴婦人は何を求めてここまで来たのか?

 まさか本当に地下に入る訳でもないだろうに。


 「ええ、ぜひ案内していただきたいわ。地下神殿にね」


 信じられないことに、貴婦人はきっぱりとそう言ったのである。


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