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エグゼキエル魔導士

 エグゼキエルは魔導士として自分以上の者はいないと、知っていた。

 だから法王からの招聘を受けた時も、それは当たり前のことだと思った。


 何しろ王妃陛下お抱えの魔導士である。

 しかも最近は王子殿下からも相談を持ち掛けられている。


 しかもその相談内容も、実に愉快だった。

 何しろ龍を捕獲または殺す仕組みを作ろうというのだ。

 龍を殺せれば、魔導士が龍を上回るわけなのだから。


 ルシアン大司教から、何の接点も持たない魔導士を、

 急に招聘するのは奇妙だ。

 注意した方が良いと言われた時も、気にも留めなかった。


「ルシアン大司教。法王と私。どちらの力がより強大なのか?

 そんな事も分からずに、大司教が務まるとは、

 神殿とは随分と甘いところだな。」


「力のことを言っている訳ではない。

 急な呼び出しが怪しいと言っておるのだ。」


「もしも法王が何か企んだとして、私を拘束できる者がいるのか?」


「それは……」


「では、何が心配だと言うのだ」


「他でもない、法王が動いたという事実が問題だと言っているのだ。

 わからないのかエグゼキエル。法王は、本来お飾りのようなものだ。

 お飾りが動くときは、誰かが糸を引いているものだ。

 だから注意しろと言っているのだ」


「面倒な事を言うな。ルシアン大司教。

 そなたは、自分が策ばかり弄するせいで、

 あの能天気な法王まで疑りたくなっているだけだ」


 エグゼキエルが、全く歯牙にもかけないので、

 ルシアン大司教も黙ってしまった。

 そこに、法王からの案内のための使者がやってきた。


「エグゼキエル魔導士閣下。法王の間にご案内致します。

 ルシアン大司教殿。こんなところにどのような御用で?」


「いや、高名な魔導士殿に挨拶したくてな。

 こうして伺ったのだ。もう辞去するところだ」


「さようですか。

 実は法王さまも、エグゼキエル魔導士閣下の高名をお耳に挟んで、

 ぜひその力を見てみたいと仰せで。困ったものですね。法王さまも。」


「そうだったのですか。

 いや、法王さまも、たまには息抜きも必要でしょう」


「そうは言いましても。

 ご自分が興味があると言うだけで人を呼びつけるのは、いかがなものか」


「ルシアン大司教殿、よろしければご一緒されませんか?

 今回は、単なる私用。ルシアン大司教殿からも、一度ご注意下さい。

 最近、法王さまは子供のようなことばかりおっしゃるようになってしまって」


 ルシアン大司教の目が、キラリと光った。

 ことによると、法王は少しお年を召しすぎたかも知れない。


 年よりが子供返りしたり、我が儘を言い出す場面を

 ルシアン大司教は何度も見てきた。

 もしそうなら、これは絶好の機会だ。法王の様子を探らなければ。


「さようでございますか?きっと、退屈されたのでございましょう。

 そういうことであれば、私もご一緒いたします。」


 こうして彼らは法王の間に向かっていった。


「ご使者殿、法王の間はそちらではございません。

 どちらに向かわれるので」


「ルシアン大司教殿

 法王さまは魔法を見たくてエグゼキエル魔導士閣下を呼ばれたのですよ。

 魔法を限界まで使える場所があるではありませんか」


「まさか、そんな!」


「ええ、そのまさかでございます。

 そうでなければ、いくら相手がルシアン大司教殿でも、

 私がここまで愚痴る訳ございませんでしょう」


 やれやれと言わんばかりの使者の様子に

 ルシアン大司教はますます嬉しくなった。

 間違いない。法王は老いすぎたのだ。


「さっきから何を言っているのだ。どこに向かっている」


「いけばわかるさ。法王の様子もな」

 気軽な様子でルシアン大司教が楽し気に言う。


 行き着いた先でエグゼキエル魔導士は納得した。


「なるほどなぁ。この中で私が魔法を使うのか?」


 そこは神殿の最下層。罪人を閉じ込める魔力結界の間である。

 魔力は、瞬く間に結界内の吸収されてしまうから、

 この中では魔法が使えないのだ。

 通常の魔導士では、魔力を込めることもできないだろう。


「ルシアン大司教殿は上の観覧席に。」


「エグゼキエル魔導士閣下は中に入っていただけますか?

 法王は魔導士閣下が結界の中でも

 魔法が使えるか見たくてたまらないのです。

 合鍵をお渡ししておきます。

 それを使えば中からも扉を開けられますから」


 使者が持ってきた、御大層な魔力結界解除の鍵を、

 エグゼキエルは受け取りもしなかった。


「法王に見せてやろう。私の実力をな。鍵はしっかりかけて置け」


 ふてぶてしくエグゼキエルはそう言い放った。

 しかし。エグゼキエルはその部屋から二度と出ることは、叶わなかった。


 そしてやがて無人となったその部屋にあったのは、小さな青い魔石がひとつ。

 その魔石は、何かを訴えるように、時々小さな光を放っていた。


 やがて観覧席から法王猊下が下りて来た。

 傍らにはルシアン大司教が、拘束されて連れて来られている。


 普段は好々爺の顔しか見せない法王が、静かに結界の間に入って行った。

 そうして青い魔石を手に取ると、頷いた。


「神龍様の封呪陣は、凄まじいものだな。人間を魔石に変えてしまうとはな。

 ルシアン大司教。そなたもそうは思わないか?」


 ルシアン大司教は必死で命乞いを始めたが、法王は無表情のまま、もう一度尋ねた。


「ルシアン。そなたの命で生贄に捧げられた少女は十名を超える。

 私が愚かなせいで、罪なき命を失わせてしまった。

 ルシアン。少女を生贄にするような悪党には、どのような罰が相応しいと思う?

 教えて貰えるかな?」


 ルシアン大司教はずるずると座り込んでしまった。

 すでに封呪陣がその仕事を始めたのだ。

 法王は静かに結界の間を閉じた。

 かちりと小さな音をたてて鍵が閉まった。


 御大層な結界の間に似合わぬ、小さな鍵を法王はしばらく眺めていたが、

 やがて悲しそうに鍵を懐に閉まった。

 そして小さく呟いた。

「面倒な事だ。もう一度、魔石を取りに戻らねばならぬ」と。


 封呪陣を置いているから、法王の持つ法力が無ければ、無事に結界の間から出ることが出来ないのだ。

 つまりこの封呪陣が使えるのは法王しかいないということになる。

 法王はため息をついた。

 この厄介な代物を、早く神龍に返してしまいたいと思いながら。

 

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