精霊界
プロイセン王国の国王と法王は強制的に精霊界に転移させられた。
しかし二人の王に動揺は見られない。
彼らはこれが誰の仕業かよく知っていた。
「蒼天の王よ。精霊界への呼び出しは30年ぶりではないか」
国王が蒼天の王ニルヴァに声をかけた。
「そうだのう。国王よ。そなたが王位を継ぐことになって以来じゃ。
わしの法王在位中に、またもこのような呼び出しがかかるとは思わなんだ」
「国王陛下。法王猊下。かようなところに呼び出すのは無粋だが、事は急を要しておる」
「蒼天の王よ。ことは水利権を巡る争い。蒼天の王が口を挟むことではないと思うが」
「確かに王よ。私が人間界に口出しできるのは、自然界、精霊界、人間界の理を
乱す輩が現れた時のみと誓約で決められている」
「では蒼天の王よ。何が起きているというのか?」
「自然界 精霊界のことわりを乱すものがいる。
魔道具を使い、雨雲を操る。それゆえ日照りや洪水がおき民が苦しむ。
自然界や精霊界にも異変が起き始めている」
「ただの水利権争いではないと?」
「呑気なものだ。すでに神殿の名前で生贄まで捧げはじめているというのに」
「なんと!一体誰が?」
神龍ニルヴァは大量の書類を投げ落とした。
二人の王はそれを読み進めるうちに顔色がどんどん悪くなっていく。
それほどこの証拠は詳細で疑問の余地なく、黒幕の正体を指し示していた。
それがどれほど信じがたく、有り得ない人物であったとしても。
さすがに国王は躊躇することは無かった。
国王は毅然として尋ねた。
「蒼天の王ニルヴァ殿。かような場合に備えて予備を準備していたはず。
その者は息災か?」
「王よ。誠実王の息子は清廉王となろう。至誠ある若者だ」
「そうか。安心した。ここからは人間界の法によって動く。
その約束は忘れないで頂きたい。」
「無論だ。法王も大事ないか?良ければ力を貸すが?」
「この魔導士、残念ながら私の法力では厳しそうだ。
神殿内の粛清は請け合うが。魔導士の方はお願いできるか?」
「承知した。では魔導士を無力化するシステムを、神殿に送ってやろう」
「ありがたい。お願いする」
「しかし、この年になってこのような騒ぎになるとは」
「確かに。まさかと思っておったが……」
「お互いに、最後にもうひと働きせねばなるまい」
「そうだな。民を守るために今の地位を受けたのだからな」
二人の王はお互いの苦渋を思いやり、そして自分の役割を果たすべく
帰途についた。
「終わったか?さすがに誠実王と法王猊下だ。
あれを見ても、狼狽することなく手を打つとは!」
現れたのはアルヴィス侯爵。
「あぁ、確かにな。信頼できる王だ。
だが王の言う通り私ができるのはここまでだ」
「わかっておる。しかし、あの王で太刀打ちできるものか?」
「わからん。相手が人間とは思えぬ冷酷さを秘めているからな。
王は死を覚悟しているようにみえたが。
もしも王が破れたらその時はその方の出番となるな?」
「あぁ、わかっておる。できれば反逆者の汚名は着たくなかったが。
国を守るのがアルヴィス家の役割だ。
その為に、貴重な王家の姫が三度降嫁されたのだから」
「血脈を守るアルヴィス侯爵家か。
難儀な一族だな」
「その代わり、平時には政に関わることなくのんびり暮らせておるからのう。
血の対価を払わねばなるまい」
「簡単な相手ではないぞ。予言書では、私も敗れたようだからな」
「あぁ、リゼリアの手帳か?」
「リゼリアは気づいていないが、手帳の中のエリーゼの立ち位置にリゼがいる」
「だがリゼはそなたを愛している」
「知っていいるさ。だからこそ、敵は私の弱みを握ったと言えるだろう」
「あの者は底が知れぬ。そのうえ非情だ。厳しい戦いになるだろうな」
「あぁ。多分、誠実王では勝ち抜けまい。あれは乱世向きではないのだ。
ただ、もしかしたら……」
「それでは清廉王は?」
「信じたいものだ。あれはそなたが育てて来たのだから」
「あぁ、信じてもらおう。軟に育ててはおらぬ
経験不足は私が補おう」
「そうか」
蒼天の王ニルヴァは笑みをみせた。
「そうとも」
紅蓮侯もほほ笑んだ。
時に世界は、ごくわずかの人々の手に委ねられることがある。
その僅かの人々が、穏やかな生活しか望んでいないとしても。
彼らは静かに戦いの世界に身を沈めた。




