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カール王子の計略

 アルヴィス侯爵を訪問したカールは、

 ローゼンベルクの長女に興味こそ持ったものの、

 それほど期待はしていなかった。

 アルヴィス侯爵にどんな遺恨があったにせよ、

 王家を使われた返礼ぐらいはしてやろうと思っただけだ。


 カールを前にすると娘たちは媚びを含んだ目で見つめ、

 恥じらうように誘うのが普通だ。


 ところがアルヴィス侯爵に紹介された娘は礼儀正しさだけを気にかけ

 カールを見てはいなかった。

 だからカールはわざと厳しい言葉を浴びせ続けた。

 緊張しているだけなら、失神してしまうだろう。


 ところが最初こそ怯えていた娘は、すぐに自分を取り戻した。

 そして平静に家を守る覚悟を見せつけてくる。


 カールは生まれて初めて興味を惹かれた。

 立ち上がった娘は、美しい銀髪と甘さを含んだ紫色の瞳をしている。

 すぐに祖父の影に隠れようとするのを、引き寄せれば

 男慣れしていないのだろう。かすかに震えている。


 欲しいと思った。ダンスに誘うと侯爵が丁寧に断りを入れてくる。

 そして嵐。

 神龍の怒りで雷雨が降った。

 成る程。気づかなかったが神龍の気配が濃厚な今なら明白だ。

 この娘は神龍の愛し子だ。


 それなら我が妻にするに相応しい。

 荒れ狂う蒼天の王を言葉で縛るのは快感だった。

 好きなだけ愛し子を守ると良い。わが王妃を守り続けろ!

 カールは想定外の獲物を得て意気揚々と王宮に帰っていった。


 翌日、カール王子は珍しく自分から王妃の部屋を訪ねた。


「何かおねだりしたいことでも?カール」


 王妃は探るように息子を見た。

 息子が昨日、アルヴィス侯爵の養女のお披露目

 に出席した話は既に報告をうけている。

 どうやら蒼天の王ニルヴァが現れたらしいという話も。


「たまにはお母さまとお茶でもと思っただけですのに、

 そのように思われるとは、私は親不孝者ですね」


 息子はどうやら白をきるつもりのようだ。


「あら、相変わらずですね。聞いておりましてよ。

 秘蔵の姫にお会いになったとか?」

 

 チラリと顔をみれば、表情が柔らかい。息子にこのような顏をさせるとは!

 排除した方がよいのだろうか?


「随分大切にされている姫君でしてね。

 何しろ蒼天の王が抱え込んでおられる」


「まぁ、どのような姫君ですの?神龍の番さまは?」


「まだ、幼くていらしゃる。色々お教えしたくなりますね。

 きっとお母さまも気に入ると思いますよ」


「それは貴重な姫ですこと。お遊びが過ぎて壊しては、なりませんよ。」


 どうせ遊び相手なのだろうが、

 神龍の番に手をだせば被害を受けるのはこちらだ。

 適当なところで飽きてくれると良いのだが。


「まさか。それはそれは大切にいたしますとも。

 必要なら、神龍を排除しても良いでしょうねぇ」


「そこまでとは!少し嫉妬してしまいそうですわ」


 信じられない。本気で欲しがるなんて!

 母である私よりも大切な女なんかいらない。

 欲しいのは孫を産む大人しい女。

 びくびくと私の機嫌を取る女なのに。


「フフフ。まさか、お母さまにかなう姫などおりませんよ。

 けれど、あれは私のもの。手出しされたら……ねぇ?」


 ぞくりとした。確かに一瞬殺気を放たれた。

 もしも手を出せば殺す。

 明白な意思表示。そしてこの子は必ずそれを実行する。

 王妃は知っていた。

 我が子が時々、王妃をまだ生かして置くべきか考え込む瞬間があることを。


「まぁ、恐ろしいこと。それで?茶会を開けばよろしいの?」


「えぇ、前回はつまらぬ邪魔が入りましたからね。

 今回は侯爵家以上。10歳から13歳の姫は全員お呼びしましょう。

 粗忽者が紛れ込まぬようにね」」


「それだと、対象者は10名もおりますまい。

 貴族たちが反発するかもしれませんよ。何しろ未来の王妃ですから」


「今、反発されるのは困りますね。色々と。

 それでは、私もそろそろ王太子にふさわしいと思うのですが」


「ホホホ、では王に進言いたしましょう。立太子ともなれば貴族は全員参加。

 王都も賑やかになりますね」


「ええ、お母さま。実に楽しみだ」


 カール王子がうっとりとほほ笑んだので、王妃は知らずに怯えた。

 この息子に囲われるとは……。

 それは幸運なのか、それとも不運と呼ぶべきか。

 どちらにしろ、姫の運命は決定したのだ。


 そしてカールは愛しい姫君に相応しい鳥かごを

 どのようにしつらえるべきかを考え始めた。


 鳥かごだとバレてはいけない。自由だと錯覚させなければね。

 だってあの娘は気がつよそうだったもの。

 鳥かごの中だと知ったら、暴れて自分を傷つけてしまう。


 わからないように。

 ゆっくりと

 ゆっくりと。


 どのように遊んであげようか?

 伸びやかな野鳥のような娘。

 空に飛び立たないように。

 

 僕の手のひらの上からだけ餌を食べるように。

 優しく歌わせみよう。

 壊したりするものか。

 早く僕の手の中に落ちておいで。


 愛しい僕の姫。

 僕だけの姫


 やっぱり神龍はいらないな。

 姫を愛するのは僕だけでいい。

 邪魔な龍は殺してしまおう。

 本当に馬鹿だったな。

 あの青い龍は……。


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