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ニルの真実

 どういう訳か、あの王子来襲と嵐の一件は、

 人々の記憶から消えているようだった。


 私は問題なくお披露目を終え、誕生日を祝ってもらったが、

 それよりは一刻も早く、ニルに会いたかった。

 早くニルに会わなければ大変なことになる。

 何か大切なことを忘れている

 そんな焦燥感が、私を突き動かしていた。


 その頃ニルはアル、お父様と向かい合っていた。


「リゼの父親として頼む。その馬鹿馬鹿しい擬態を今すぐやめろ。

 王家がリゼを狙う以上、のんびりしている時間はない。

 今すぐリゼに求婚するんだ!」


「しかし、今まで騙してきたと思われるだろう。リゼは許すだろうか?」


「面倒な奴だな、長く生きているくせに、

 恋の駆け引きは苦手とか言い出すなよ。

 ここは、お父様、娘さんを下さい。と言う場面だろうが」


「お前、それでもリゼの父親か。龍なんかに娘を嫁がせるのかよ」


「はっ!じゃぁいいよ。レオンに貰ってもらう」


「はぁ?犬、猫じゃあるまいし、勝手に決めるなよ」


「王家にやるよりましさ。あそこじゃリゼは幸せになれない」


「そんなに王家が嫌いか?」


「エリーゼは、俺の娘でもあるんだ。あんな娘でもな 

 ベアトリーチェは、俺の心を蝕んだ。それもじわじわと浸食して来た。

 俺はあのままなら廃人になったろう」


「無垢な赤子のエリーゼが、俺の魂を揺るがした。

 リゼリアとエレノーラを思い出したのは、エリーゼのおかげだ」


「お前……」


「ベアトリーチェは絶対に許せない。ノクス伯爵家もな。

 気づけさえすれば魔力は私の方が多い。

 だから回復できた。だがその時には手遅れだった。

 エリーゼはすっかり母親に染まっていた。

 屋敷の人間があそこまでリゼリアを嫌ったのは、エリーゼの力だ」


「まさか!それじゃぁ」


「そうだ。エリーゼもベアトリーチェと同じ力を持っていた。

 そしてエリーゼはリゼリアを憎んでいたんだ」


「確かにローゼンベルグ伯爵家は、奇妙だった。

 エリーゼの意向がすべてに優先されていたな」


「あぁ、俺は選ぶしかなかった。そしてエリーゼを切り捨てた。

 それでも思っていた。ベアトリーチェはエリーゼを愛していた。

 だからエリーゼの罪を被るだろうとな。」


「まさか本当に、あんな幼子にムチを振るうとは思わなかった。

 私の失敗は王家の冷酷さを過小評価したことだよ」


「王子をみたろ あれは化け物だよ。王妃もな」


「凄いよなぁ。神龍を手玉に取りやがる。それで12歳だ

 お前は俺と同じ失敗はするな!

 おれはもう二度と娘を失いたくはないんだ!」


 ニルヴァは驚愕した。

 アルフレッドは淡々としていたから、

 まさかこれほどの激情を隠していたとは思わなかったのだ。


「よし。覚悟を決めた。お父さん、お嬢さんを俺に下さい」


「嫌だね」


「お前!」


「嫌なものは嫌だ。リゼは誰にもやるもんか!」


「絶対、嫁に貰うからな」


「誰がやるか!バーカ」


「お前、ガキだろ」



 それを見ていたゼノンがアルヴィス侯爵に尋ねた。


「ほっといていいんですかい?あれ?」


 アルヴィス侯爵はゆっくりと首を振った。


「まぁ、あれでも蒼天の王と、氷河の騎士だ」


 放置しろとばかりに後も見ずに館に戻ってしまった。

 ゼノンも後を追ったからその後二人がどうしたかは知らない。


 ただ、ニルが真剣な顔をしてリゼに話があると言ったから、

 侍女たちは部屋に二人を残して出て行った。


 ニルは真剣な顔でリゼリアをみていたが、黙って擬態を解いた。


 たちまち青い髪の流麗な青年の姿になる。

「ニル、あなた……」

「私の名前は蒼天の王ニルヴァ。神龍なんだ。リゼリア」


「神龍、あなたが……」


「あなたを娶りたい。リゼ」


「ニル、何を言っているの?」


「そなたは、私の番。既に私の逆鱗はそなたの中にある」


 リゼは何が心配だったかようやくわかった。


「何やってんのよ。神龍様は逆鱗を失って王子に殺されたのよ。

 逆鱗ってどこ?どこにあるの?返さなきゃ。ニルが死んじゃう」


 ニルヴァはリゼリアを抱きしめた。


「落ち着いて、リゼ。逆鱗はもうない。君を守る守護結界になっている。

 魔力を使えば見える筈だよ」


 リゼリアは急いで鏡の前に立つと、目に魔力を込めた。

 リゼリアの心臓のあたりから、柔かな青い光が身体を包んでいる。


「いつ?いつなの?」


「君をひとりにした時」


「うなじに?」


「君にバレたくなかったから」


「なぜ?」


「愛してるから、失いたくなくて」


「私、神龍は逆鱗を失くして死ぬって言ったよね」


「違うよ。そこが弱点だって言ったんだ」


「バレないようにしなくちゃ」


「王子なら、もう知っている」


「ニル。私ニルに死んでほしくない」


「なぜ?」


「好きだから」


「僕たち、両想いだ」


「うん」


「結婚してくれる?」


「もっと大きくなったらね」


「いつまで待てばいい?」


「15歳になったら」


「じゃあ、15歳の誕生日に結婚しよう」


「約束」


「約束」


「誓いのキスをしてもいい?」


「ニルのバカ」


「いいんだ」


「ばか」


 ニルヴァはリゼリアを抱き上げてキスをした。


「約束」


「うん」


 それから何度もキスしていたら

 セーラとノーラに叱られた。


 私たち結婚するの。


 そう言ったら


「おめでとうございます」

 と、言ったのにキスはダメ。


 ニルと一緒に寝るのもダメになった。


 ニルは部屋を出る時。

「こっそりキスしようねえ」

 と言ったから

 私は小さく頷いた。






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