公開処刑
美しいバラの園
そこに至る前の広場。
そこは白い大理石でうめつくされた空間だ。
王宮にある白い石造りの庭園 広い回廊が何層もあり
回廊にはベンチや椅子がおかれ野外コンサートをすることも多い。
すり鉢状になった底には噴水の装置が埋め込まれている。
しかし噴水の装置は地下に隠されていて、いつもはここで音楽を奏でたり
曲芸が披露される。
今は中央から、静かに水が湧き出している。足首も浸からない程度。
僅かに数センチの小さな池が出現している
知らないものが見れば、涼を楽しむ場所に見えるだろう。
少し汗ばむ季節に、水を渡る風が涼しい。
だがここは幾人もの血を啜ってきた紅薔薇の祭壇。
広場に入りきらない人々も、広場を巡る回廊からじっとその瞬間を待っている。
ベアトリーチェは、その中心に引き据えられた。
ベアトリーチェの美しいドレスが、水をたたえた池に広がる。
目の前には女王陛下。
そして女王陛下のすぐ脇に我が子がいる。
女王陛下はこう言った。
「エリーゼよ。そなたの母がそなたの罪を贖う。
ただし、もしもそなたの母が気を失ったら、
その後は自分で罪を償うことになる。
よく見ているがよい」
エリーゼは混乱していた。たかがお茶をこぼしたぐらいで。
そんな事でムチを使うなんて。
そしてエリーゼは思い出した。
ムチで打たれて泣き叫んでいたリゼリアの姿を。
リゼリアに罪はなかった。
けれどもエリーゼはリゼリアをムチ打つことを願った。
同じ……
私もお姉さまと同じなの?
エリーゼは周りを見渡した。みんな楽しそうな顔をしている。
知っている。これはあの時の私の顔。
エリーゼは腰を抜かして座り込んだ。
エリーゼの目の前に母がいる。
そして母の横には、筋骨隆々とした大男が、今まさにムチを振り上げようとしているのだ。
「お母さま!」
エリーゼの悲鳴のような声。
それが合図でもあるかのように大きなムチがうなりをあげてベアトリーチェに襲い掛かる
「1回!」
その1回でベアトリーチェの肌は引き裂かれ、血が飛び散った。
飛び散る血が、ゆっくりと池の水を赤く染めていく。
「意識はあるか?」
処刑人が聞く
「あります」
目の前には愛しい我が子。
ふり絞るようにベアトリーチェは叫んだ。
「骨があるな。女なら1度で気を失うものだが」
そう言うなり2回目のムチがうなる。
「2回」
2回目でベアトリーチェの肉は飛び散り骨がむき出しになった。
「意識は?」
かすかな声に処刑人がベアトリーチェの口元に自分の耳を持っていった
「ございます」
かすかな息と共に応えがあった。
その声は、かすかに娘の名前を呟いていたが、
もはや処刑人は聞いてはいなかった。
「ふむ」
満足そうに処刑人が頷く。
ムチを死体に打ち下ろすより、こうして反応がある方が面白い。
しかし処刑人は、手加減するつもりはない。
獲物はもう一人いるのだ。
女王陛下を満足させられなけば、次に処刑場に据えられるのは自分だと、よく承知している。
「3回」
大きくムチがうなる。ベアトリーチェの身体がバウンドした。
満足そうに処刑人が頷いた。 既に息絶えている。
「死にましてございます」
処刑人が王妃に誇らかに告げた。
そのとたんエリーゼは血に染まる池に突き落とされた。
あっと言う間に処刑人の足もとに。
母親の身体は、もう既に片付けられていた。
観衆の興味は次の獲物に向かっている。
何も考えられないエリーゼにムチは容赦なく襲い掛かる。
「4回」
エリーゼの意識は途絶えた。
「5回」
最後のムチがエリーゼの命の炎を絶った。
そして遺体はすぐさま片づけられた。処刑人が素早く姿を消す。
貴人たちのお楽しみの邪魔をしてはいけない。
噴水が美しい赤い水を吐き出した。
そこに夕日が映える。
噴水の水が段々と薄い赤となりピンクとなる。
そして夕日が美しく輝く。
「やはり絶景ですなぁ」
「なかなか見られるものでは、ございませんもの」
「なんと美しい」
貴族たちは自分たちの幸運を喜んでいる。
確かに紅薔薇の祭壇の噴水はめったに見られないのだから。
それが王子の婚約者選定の茶会で見ることになるとは。
『紅薔薇の祭壇を見た!』
それは一種のステータスでもあった。
「あそこは、もう一人娘がいたのでは?」
「それが、既に籍を離れているそうですわ」
「どちらへ?」
「母方のアルヴィス侯爵家が引き取ったとか」
「まぁ、なんと幸運なこと」
「弟は?」
「2歳だそうよ」
「平民落ちでしょう?」
「引き取り手なんてねぇ」
「伯爵は廃人だとの噂」
「まぁ、その方が楽かも……」
噂雀は姦しい。
「それで?」
「被害者のヴァレンティノ公爵家の姫は?」
「無理ですわね」
「ええ、これだけケチが付けば」
「火傷をされたそうでしてよ」
「まぁ、怖いこと」
おほほ、うふふと声が飛び交う。
「なるほどなぁ。これを予測して孫娘を守ったか」
カールは面白そうに笑った。
予測できると言うことは仕組んだと言うのも同意だ。
しかも、それをアルヴィス侯爵は、堂々と王家を巻き込んでやってのけた。
「カール、それで気に入った姫はいたかしら?」
王妃が尋ねる。
「いいえ、お母さま。やはりお母さまが最高ですから」
「まぁ」
王妃はにっこりとほほ笑んだ。
「アルヴィス侯爵家は、どんな姫を秘匿しているのかしら?」
「それは私も知りたいと思っています。母上」
カールの瞳が楽しそうに光る。
これは獲物を見定めた瞳だ。
面白いことになりそうだ。
息子の顔を見て王妃は満足そうに頷いた。
「なかなか、良い茶会でしたわね」




