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王都

 ローゼンベルク伯爵一家が王都の屋敷に引っ越して既に2か月半。

 王子との茶会は、あと2週間。エリーゼは準備に余念がない。


「どうしましょう。お母さま。3着のドレスのうちどれにすれば?」


「そうねぇ 可愛らしい路線で攻めてもいいけれど」


「それだと幼くなりすぎませんか?」


「でも、このピンクシフォンのドレスを着ると、あなたは花の妖精のように可憐でしょう?」


「一番年下だもの。なめられたくないわ」


「このブルーのドレスは、とても清楚に見えるわよ」


「それだと、おとなしすぎませんか」


「いっそ。こちらの赤にする?」


「うーん。なんかピンとこないわ」


「そう言っても、あと一週間よ。新しいドレスなんて仕立てられないでしょう?」


 3着ともエリーゼが欲しいと言って仕立てたドレスだ。

 だというのに、エリーゼは納得しない。


 それだけこの茶会に賭けているのだろうけど。

 ベアトリーチェは少し疲れている。

 自分の娘ではあるが、エリーゼは、我が儘すぎないだろうか?

 それとも5歳ならこんなものか?


 そこに伝令が来た。

 ノクス伯爵家から贈り物が届いたというのだ。



「まぁ。お母さまからだわ。エリーゼ、あなたのお祖母さまからドレスが届いたわよ」


「見せて!」


 開けてみると、どうだろう。

 銀糸とスパンコールをたっぷりと使ったドレスは、まるで月の妖精のようだ。


「素晴らしいわ!なんて素敵なドレスなの」


 エリーゼも大喜びだ。


「凄いわ。靴も共布で作ってくれているわ。それにほら。これはダイヤモンドよね」


 エリーゼの小さい首に合わせてダイヤモンドのネックレスまで贈ってきたのだ。

 なんて豪勢なのでしょう。お母さまも大儲けしているのね。


「凄いわ。ノクス伯爵家って大金持ちなのね。」


「ええ、そうよ。エリーゼ。そしてあなたが王太子妃になれば、

 そのノクス伯爵家が後見についてくれるわ」


「うーん。お金持ちなのは良いけれど、伯爵家では私の後見は任せられないわ」


 なんという事だろう。エリーゼは感謝するどころか祖母を見下している。


 やっぱりこのままではまずい気がする。

 ベアトリーチェは胸に不安がよぎるのを感じた。


「大丈夫よ。ノクス伯爵家はヴァレンティノ公爵家の依子だから、

 そうなったらヴァレンティノ公爵家が後見してくれるでしょう」


「そうなの?ヴァレンティノ公爵家からは候補は出ていないの?」


「直系ではないけれど姪の姫君が来ているはずよ。仲良くしていただきなさい」


「ふーん。直系じゃないなら大丈夫ね。引き立て役になってもらおうかしら」


「エリーゼ。身分は皆さまの方が上なのよ。謙虚にね。」


「バカなお母さま。王太子妃になれば私の方が身分は上でしょう?

 何を遠慮しているのかしら?

 この素敵なドレスを着れば王子なんて簡単に落とせるわ」


 エリーゼの自信は、とどまるところを知らない。

 王子妃になるためには、教養も品格もマナーも必要だ。


 エリーゼは5歳だから、少しぐらいは大目に見てもらえるだろう、

 と考えてきたけれど。

 本当にこの娘を王宮に出しても大丈夫なのだろうか?


 生まれて初めてベアトリーチェは恐怖を感じていた。

 王宮での失敗は下手をすれば命をかけることもあるのだ。

 けれども、エリーゼに何を言っても無駄だろう。


 ベアトリーチェは領地に残してきた義娘を思った。

 あんな風にムチを使うのじゃなかった。

 そうすれば、もっと使いどころがあったかも知れない。

 今更どうしようもないことだと思いながら、ベアトリーチェは後悔していた。


 そして茶会の日が訪れた。


 我が息子の婚約者候補を集めての茶会。

 アーデルハイト・フォン・プロセイン王妃は静かな期待をもって迎えていた。


「カールはどのような姫を気に入るのかしら?」


「お母さまのような方がいらっしゃれば嬉しいのですが」


 息子の完璧な返しに、王妃はほほ笑んで言った。


「そのように社交辞令ばかりお上手になられて。

 殿下がお心を預けることのできる令嬢がいるといいのですが。」


「お叱りを受けてしまいましたね。母上が私のために開いて頂いた茶会です。

 感謝しているのですよ。これでもね。」


「カール、叱っているわけではないのよ。ただね……」


「わかっておりますとも母上。

 しかし、母上も、私が身分を忘れて恋に溺れることを

 望んではいらっしゃらないでしょう」


「ええ、ただ貴方はあまりにも早く大人になりすぎた。

 そう思うだけよ。楽しんでらっしゃい。カール」


 アーデルハイト王妃は、自分が最も気に入っているバラの園で、茶会を開催した。

 ここは花々が美しいだけではなく、小道が多くの分かれ道を作り、東屋も多い。


 そのすべてに完璧な茶会ができるように準備していた。

 どこにいっても、お茶を楽しみ、花を愛でることが出来る。


 静かな音楽が奏でられるが、小道をめぐると音は遠のき、

 また新たな音楽が客を迎える。


 これほどの贅沢な茶会は初めてだ。

 アーデルハイト王妃のこの茶会にかける意気込みが、わかるだろう。


 そうしてこの茶会のいやらしいところは、曲がりくねった小道が人目を遮ることだ。

 どこでも楽しめる。しかし自然と少人数に分かれるように設計されている。


 もしも王子が意中の人を見染めたら苦も無くふたりの時間が取れるだろう。

 そして、もしも何かたくらむ者がいても企みは容易に達成できるだろう。


 そう。これは王家の罠。

 レディたちは知らずに自分の素をさらすことになる。


 そしてカール王子は、母が緻密な計算で罠を張り巡らせることが

 大好きなのを、よく知っているのだ。

 カールは側近とバラの園に向かいながら

 今回はどの貴族家が没落することになるのだろうと考えていた。


 そういえば、とカールは思う。

 有力貴族でありながら、アルヴィス侯爵家からは候補が出ていない。

 まぁ、元々あの家は中央に関わることを避けてきたが。


 ただ、この時期になって、孫娘を養女としている。

 慌ただしい申請で、

 すぐに許可をもぎ取るためにアルヴィス侯爵が自ら登城したぐらいだ。


 もしかしたら、私の婚約者候補とするためか?

 だとしたら、珍しいことだと思ったのだが、

 アルヴィス侯爵は養女縁組が認められると。すぐに領地に帰ってしまった。


 全く王家に欠片も関心を持たないようだ。だからカールは少し興味を持った。

 確かローゼンベルク伯爵の長女だったはず。

 ローゼンベルク伯爵家は長女ではなく、僅か5歳の二女を候補として立ててきた。


 単に後妻が望んだことか?それにしてはアルヴィス侯爵の動きが早すぎる。

 まるで、この茶会でローゼンベルク伯爵家に何か起きるとでもいうように。


 成る程なぁ。一つ言えることは、この茶会、無事には済みそうもない。

 面白くなりそうじゃないか。カールは楽しそうに笑った。


 側近は普段冷静な殿下が楽しそうだ。

 やはり、婚約者候補を選ぶのだから、殿下といえども

 嬉しいのだろうと呑気に考えている。

 

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