第5話 拾ったんよ
ここは外朝庭園・柳庭。
光と風をふんだんに取り込むために設計された庭園区画である。
この区画も一般開放されているエリアと隣接しているが、皇族たる天華様の身を守るため、重厚な囲障で明確に区切られ、鋭い眼光の警護兵たちがズラリと立ち並んで警戒に当たっている。
天華はふと足元を見つめ、コロコロとした小さな石を拾い上げた。
天華「この石、ちぃと丸いな」
蘭花「ふふふ、流石は姫様! 石の持つ見事な丸みの真髄まで一瞬で見抜かれるとは、さすがでございますね!」
薄花「……そうでございます……姫様……この丸さ……まるで朝の清らかな光が姫様の尊き御心にそっと触れているのでございます……美しゅうございます……」
天華は誇らしげにふんすと胸を張って笑った。
その様子をすぐ近くで見守っていた理策、剛明、牧玄、そして琴雪が語り出した。
理策「恐れながら申し上げます。丸い石は、流体浸食や風化などの形状要因によって単に丸い形状をしているだけです」
剛明「天華、そうやって丸い石ばっか面白がって拾っとると、自分の家が丸石だらけになるぞ」
牧玄「姫様、どれほど丸くて可愛らしくとも石は食えんぞ。石には丸いものから角張ったものまで色んな形をしておりますよ」
琴雪「丸い石……それは優しく包み込む……姫様の心の輪郭……」
囲障の向こう側の一般区域から、このやり取りを見ていた商人たちが一斉にざわめき立った。
商人①「見たか! 姫様が丸い石を選んでお褒めになられたぞ! これは絶対に売れる!」
商人②「河原へ走れ! 川底から丸石を大量に拾い集めるんじゃ!」
商人③「“姫様愛用モデル至高の丸石”として商品化するんじゃ!」
商人④「早く! 早く販売網に乗せないと儲けの機会を逃してしまうぞ……!」
商人⑤「おい、うちが先だぞ!マネするな!」
太后の所へもすぐさま、官吏から報告が入った。
太后「……おぃ! 天華はただ丸いと言っただけじゃぞ!」
ここは外朝庭園・梅林。
光と風をふんだんに取り込むために設計された開放的な庭園区画である。
天華はふと足元を見つめ、小さな小石をちょこんと手に取った。
天華「この小石、ちぃと軽いな」
蘭花「ふふふ、流石は姫様! 手に取られただけで小石の繊細な軽さまで感じ取られるとは、さすがでございますね!」
薄花「……そのようでございます……この軽さ……まるで優しく吹く風が姫様の御心をそっと撫でているのでございます……」
天華は誇らしげにふんすと胸を張って笑った。
理策「恐れながら申し上げます。小石が軽いのは、体積が小さく質量が小さいため軽いだけです」
剛明「天華、そんな小石をポケットに入れすぎとると、走った拍子に落ちて無くなるぞ」
牧玄「姫様、どれほど軽い小石であっても、ラムネのように食えんぞ。ラムネならここにあるぞ」
琴雪「軽い石……それはふわりと舞い上がる……姫様の心の羽……」
囲障の向こう側に集まっていた子供たちが、警護兵の手前で身を乗り出して口々に大騒ぎし始める!
警護兵「これ! 押し寄せるな! 囲障から下がるのだ! 姫様の安全を守れ!」
子供①「姫様ー! その石軽いん!? 空飛ぶん!?」
子供②「飛ぶん!? 飛ぶならワシも遠くへ飛ばす!」
子供③「みんなー! 姫様が持っとる石、空飛ぶらしいぞーーーっ!」
子供④「わしも空翔びたいーーーっ!」
子供⑤「僕もその空飛ぶ石欲しいー!」
子供⑥「私にもちょうだいー!」
太后の所へもすぐさま、官吏から報告が入った。
太后「……天華はただ軽いと言っただけじゃ……」
ここは外朝庭園・柳庭。
天華はいつものようにふわふわと散策しながら、ふと足元を見つめ、少し角の立った石を手に取った。
天華「この石、ちぃと尖っとるな」
蘭花「ふふふ、流石は姫様! 尖りの持つ鋭さと深さまで一瞬で見抜かれるとは、さすがでございますね!」
薄花「……そうなんよ……この尖り……まるで揺らめく陽炎が姫様の御心を熱く照らしているのでございます……」
天華は誇らしげにふんすと胸を張って笑った。
理策「恐れながら申し上げます。尖った石は結晶構造や破壊面などの物理的形状によって単に尖っているだけです」
剛明「天華、そんな尖った石をいじくり回しとると指を切って危ないけぇ、気ぃつけや」
牧玄「姫様、どれほど尖とうても石は硬くて食えんぞ」
琴雪「尖った石……それは鋭く光を放つ……姫様の心の切っ先……」
ーーしばらくして、この「尖った石」という発言が市中に爆発的に伝播し、宮廷学者たちが色めき立った。
学者①「聞いたか! 姫様が尖った石を深く観察されたぞ……! これは我が国の地学に大革命をもたらす新たな地質分類の発見じゃ!」
学者②「すぐさま石の尖りの度合いを『姫様角度スケール』に全面改訂すべきじゃ!」
学者③「至急、姫様の鋭い観察記録を論文にまとめて天華国学会に提出するんじゃ!」
学者④「わしも参加するぞ!学会はいつあるのじゃ!」
学者⑤「姫様に急いで教えを請わねば」
太后の所へもすぐさま、学者の異常な騒ぎを官吏が報告した。
太后「宮廷学者殿……騒がんのんよ! 天華はただ尖っとると言っただけじゃ!」
昼を過ぎると長い中外回廊はまばゆい黄金色の陽光に満たされ、まるで光で作られた幻想的なトンネルのようになった。
天華はふと足元を見つめ、小さな小石をちょこんと手に取った。
天華「んー……これ、ちょっと平たいな」
蘭花「ふふふ、流石は姫様! 手に取られただけで石の持つ平たさを理解されるとは……それこそが王者の余裕、至高の優雅さでございますね!」
薄花「……そうでございます……姫様……この平たさ……まるで静かな水面が姫様の御心に寄り添っているのでございます……美しゅうございます……」
天華は誇らしげにふんすと胸を張って笑った。
その様子をすぐ近くで見守っていた理策、剛明、牧玄、そして琴雪が語り出した。
理策「恐れながら申し上げます。石が平たいのは、堆積時の圧力や特定の層状解離現象による物理的形状です」
剛明「天華、そんな平たい石ばっか持っとると、池で水切りしたくなって投げ始めるぞ」
牧玄「姫様、どれほど平たくとも石はせんべいのように食えんぞ」
琴雪「平たい石……それは平穏に広がる……姫様の心の平原……」
ーーなぜかしら、この呟きが市中の石工職人や市中の学者たちに伝わり、大暴走が始まる!
職人①「聞いたか! 姫様が平たい石を選び取られたぞ!」
職人②「宮殿中の石畳をすべて超・平坦に削り直すんじゃ!」
職人③「笑天宮の中庭は俺が平らに削ったんだ。もう平たいぞ!」
学者①「平たさこそが国の安定を示す概念じゃ!姫様平坦理論を提出せねば!」
学者②「天華国学会は昨日終わったぞ。来年まで時間があるからゆっくりで良いぞ!」
学者③「わかった。ゆっくりやろう!良い理論ができたそうだぞ!」
それらの大暴走の噂は、当然のように太后の耳にも入るのだった。
太后「……おぃ! 天華はただ平たい石を持っただけじゃぞ!どうして、そうなるのじゃ」




