第十六話 紅蓮に行ったんよ
天華国は、友好条約を更新するため、天華を団長とする使節団として、不戦と対話を示す翡翠色の旗を高く掲げ、西の紅蓮へと向かっていた。
紅蓮は光の国──だが、道中ではまだその猛々しい文化の気配は薄い。
天華「ほい、紅蓮ってどんな国なんよ?」
兵卒「光が一瞬チラッと走っただけで『勝利した!!』とか叫び出す、熱血すぎてヤバい国なんよ……」
牧玄「勝利……? 光が走って……何に勝利するのだ……?」
剛明「制度的には何ひとつとして勝利していません。」
理策「彼らは光の反射と輝きを古来の最高勝礼として体系化しております。」
蘭花「ふふふ……光とは……燃え盛る心の勢いでございます……」
薄花「……そうでございます……光の影が……静かに熱く息をするのでございます……」
牧玄「(頭を抱えて)影が……光る……? 光が……影になる……? どこに勝敗の要素があるんだ……!?」
兵卒「牧玄殿! 紅蓮の熱血理論も、蘭花様たちのポエムも、真面目に深く考えたら脳みそが沸騰して負けなんよ……!!」
天華「ほい、光ったら楽しいんよ!」
牧玄はまったく理解できない顔のまま、ギラギラと眩しく輝く紅蓮の光殿へと足を踏み入れた。
紅蓮の光殿は、天井の隙間から差し込む鋭い日差しが壁一面に反射し、
兵たちの磨き抜かれた鎧の輝きがバチバチと跳ね返り、床の影すらも熱を帯びて揺らめいていた。
光戦団長「うおおおっ! よくぞ来られた! 天華国は紅蓮の“戦勝外交”を完全に理解された! 光が一瞬走った瞬間、我が勝利と絶対の友好は確定したのだ!!」
光記官「(眩しそうに目を細め)姫君の髪に反射した光の筋、角度まさしく四十五度……! か、完成されている……! 古来の至高なる勝礼と完璧に一致……!!」
光衛士「(大剣を掲げ)光の乱れを即刻排除せよ!! 勝利の輝かしき道を開けよ!! 光を遮る者は敵である!!」
光僧「(熱く天を仰ぎ)感涙……! 姫君の放つ光が柱の影と完璧に重なった……! これぞ天意の示せし絶対勝利……!!」
紅蓮歓迎員一同「光が走ったーーーっ! 勝利は極まったーーーっ!!」
天華は堂々とえっへんと胸を張り、お日様を仰いだ。
天華「ほい、自然に光っとるだけなんよ!」
蘭花「ふふふ……姫様の放たれる神聖なる光は……紅蓮の勇士たちに不敗の安心と勝利の栄光を授けるのでございます……」
薄花「……そうでございます……光の影が……静かに帰路を照らすたび……誇り高き物語が熱く息をする……美しゅうございます……」
牧玄「……こ、これは……一体どんな種類の戦勝儀式なんだ……?」
剛明「(即答)儀式ではありません。ただの集団的誤認です。」
理策「補足致します。紅蓮文化の概念体系では“光が走る=友好成立”となります。」
兵卒「ただの光が一瞬チラッとしただけなんよーーーっ!!」
紅蓮の者たちは鎧に反射する光の角度を寸分狂わず揃え、熱き勝利の呼吸で天華国一行をド派手に歓迎したのだった。友好条約も何もしていないのに何故だか自然に更新されたようだ。
──天華国・政務殿へ帰還。
玉座には、天華の祖母である太后が、威厳に満ちた静かな疑問をたたえて座していた。
太后「……天華。紅蓮では、どのような歓迎を受けたのじゃ?」
天華は誇らしげに胸を張った。
天華「ほい、おばあちゃん、光っただけなんよ!」
太后「……光ったら……盛大な国家式典が始まるの?」
兵卒「違うんよ!! 式典なんか1ミリも始まらんのんよ!!」
天華「そうなんよ、光が走ったら『我が国の勝利なんよ!』って、紅蓮の団長が勝手に大歓喜したんよ!」
太后「……光が走ると……国家間の勝利と友好が成立するの?」
剛明「制度的には何ひとつ成立しておりません。」
天華「おばあちゃん、髪の光の角度を細かく測られたんよ! 四十五度とか言われて木札にメモられたんよ!」
太后「……髪の光の角度で……我が国の外交方針が決まってしまうの?」
理策「紅蓮文化の判定基準では決まります。」
兵卒「決まらんのんよ!! 髪の艶で外交を決められたら困るんよ!!」
天華「ほいじゃけぇ、光の乱れを排除されそうになったんよ!」
太后「……光の乱れ……? それは相手に対する明確な戦意とみなされるの?」
牧玄「(真顔で)紅蓮では即座に挑発行為と誤認されます。」
兵卒「盛大すぎる誤認なんよ!! 影に入っただけで開戦しかけるんよ!!」
天華「おばあちゃん、光が柱の影と重なったら、お坊さんたちが天を仰いで祈り始めたんよ!」
太后「祈る……? 光が重なると、それは勝利になるの?」
剛明「(胃を押さえながら)勝利ではありません。ただの物理現象です。」
兵卒「光って影と重なった!! それだけなんよ!!」
太后「……つまり、本当にただ『光っただけ』なのね?」
天華「ほい、おばあちゃん、光っただけなんよ!」
兵卒「ほんまにそれだけなんよ!!」
太后は静かに深く目を閉じた。
光の国の外交は、聡明な太后にとっても、理解するにはあまりにも眩しすぎたのだった。




