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笑天宮御政録 ―自然に暴走する女帝と常識トリオ―  作者: 鑫鑫
第四章 白風の外交なんよ

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第七話 蒼嶺歓迎会(午前)なんよ

朝の光が天鏡殿の黒い柱を照らし、長い影が床に伸びていた。

午前の光は鋭く、影は濃く、揺れやすい。

蒼嶺の七名──霜律、澄牙、幽澄、影導公、影記官、蒼騎士、蒼僧──は静かに並び、影の揺れを読みながら天華を待っていた。


天華が歩み出る。袖の影が床に落ち、光に揺れた。


影導公「……揺れた……! 姫様の影が……加護を示された……!」

影記官「角度三度……昨日より伸びております……!」

蒼騎士「影の進路を確保する……誰も踏み込むな……!」

蒼僧「影が柱影と……重なりかけております……これは……天意……!」

霜律「……静……深い……」

澄牙「国の静と……同質……」

幽澄「影の息が……揺れております……」


天華「ほいじゃけぇ。今日は蒼嶺のみなさんを歓迎するんよ。自然に、静かに、楽しく過ごしてほしいんよ」


影導公「“自然に静かに”……蒼嶺の礼……!」

影記官「古来の蒼静礼と一致……!」

蒼騎士「静の進軍……了解……!」

蒼僧「静の天意……降りております……!」

霜律「……深い……」

澄牙「静の……極み……」

幽澄「気配が……澄んでおります……」


琴雪は静かに息を整えた。その静が蒼嶺側へ伝わる。

澄牙「……琴雪殿の静……姫様の静と重なる……」


琴璃が袖を押さえると影が揺れた。

琴璃「静の……影……揺れ……?」

影導公「揺れた……! 影が応じておられる……!」


礼珠は影に合わせて礼を整えた。

礼珠「影礼……整っております……」

影記官「影礼……記録します……!」


文靖は影の角度を淡々と記録した。

文靖「影の揺れ……角度四度……記録します……」

蒼僧「記録と祈りが……重なりました……兆し……!」


剛明は影僧の祈りに顔を引きつらせた。

剛明「まだ……始まってないんよ……影で始まらんのんよ……」

蒼僧「“始まらない”……未兆……!」

影記官「未兆……新たな影語……!」


蒼騎士が影の進路を開け、兵卒が困惑する。

兵卒「影の進路は開けんでええんよ!! 人が歩くんよ!!」

蒼騎士「影が歩むのです……!」


将軍が無言で一歩下がると影が伸びた。

影導公「将軍殿の影が……姫様の影と並びました……友好……!」

蒼僧「影の並び……神託……!」


蘭花は影の並びを見て微笑む。

蘭花「ふふふ……影が並ぶたび、未来がひとつ形を成すのでございます……

姫様の御影は蒼嶺の理を自然に導いておられます……美しゅうございます……」


薄花は影の重なりを見つめ、静かに語る。

薄花「……影が寄り添うたび……山の物語が小さく芽吹いておるようでございます……

この重なり……美しゅうございます……」


影導公「山の物語……加護……!」

影記官「“山影礼”として新規記録……!」

蒼騎士「山の進軍……了解……!」

蒼僧「山の息……神託……!」

霜律「……深い……」

澄牙「静の……極み……」

幽澄「気配が……息を……」


午前の光はさらに高く昇り、影は少し短くなりながら、揺れを増していく。

天華の前に、蒼い布を掛けた卓が並べられ、蒸し魚や野菜、薄い酒が静かに置かれた。


天華「ほい、今日は蒼嶺のみなさんの好みに合わせて、自然に薄い味にしとるんよ。静かに食べて、楽しくしてほしいんよ」


影導公「“自然に薄い”……! これは……山の静味……!」

影記官「静味……新たな影礼の一部として記録……!」

蒼僧「薄さ……これは……謙遜の天意……!」


霜律は蒸し魚の皿の影を見つめた。

霜律「……魚の影……静……」


澄牙は器の配置を目でなぞる。

澄牙「蒼の布……器の線……姫様の静と……揃っております……」


幽澄は湯気の揺れと影の揺れを同時に見ていた。

幽澄「湯気の息と……影の息が……重なっております……」


文靖「魚の影……皿の縁から一寸……湯気の揺れと同期……記録します……」

影記官「“静味影礼”……項目追加……!」


蒸し魚が一皿、天華の前に置かれる。

白い身に薄い蒼い影が落ちていた。


影導公「……蒼い……! 魚の影が……姫様の影と……同じ色合い……!」

蒼僧「蒼の影……これは……山と姫様の縁……!」


天華は箸を取り、自然に一口食べた。


天華「ほい、自然に薄いだけなんよ。蒼嶺のみなさん、濃いと疲れるって言うとったけえね」


影導公「“疲れる”……! 姫様は我らの山を……労ってくださる……!」

影記官「“疲れ”の語……影礼における休息の概念として記録……!」

蒼僧「休息……これは……影の止まり……天意の小休止……!」


蘭花「ふふふ……姫様の御心は、山の息すらも休ませておられるのでございます……

静味の一口ごとに、蒼嶺の影が少しずつほどけていく……美しゅうございます……」


薄花「……魚の影が……静かにほどけるたび……

山の物語が、ひとつ息をついておるようでございます……

この薄さ……優しゅうございます……」


霜律「……優しい……静……」

澄牙「静の礼に……柔らかさが……」

幽澄「気配が……ほどけております……」


琴雪は黙って一口、同じ蒸し魚を食べた。

琴雪の静が、蒼嶺側へ再び伝わる。


澄牙「……琴雪殿の静味……姫様の静味と……揃っております……」

影記官「“静味双影”……記録……!」


琴璃は、魚の影を見て小さく首をかしげた。

琴璃「……蒼い影……薄い……?」


影導公「薄い蒼……! これは……山の朝影……!」

蒼僧「朝影……新たな神託の兆し……!」


剛明は、影語が増えていくのを見て、頭を抱えた。

剛明「影で……外交の語彙を増やさんでええんよ……制度に影の項目はないんよ……」


影記官「“制度にない影”……! これは……未記録領域……!」

蒼僧「未記録……未知の天意……!」


兵卒は、蒼騎士が魚の影の周りを守り始めたのを見て、ため息をついた。

兵卒「魚の影は守らんでええんよ!! 食べるんよ!!」


蒼騎士「影が食されるのです……!」


将軍は黙って酒を一口飲んだ。

その影が、魚の影と重なった。


影導公「酒影と魚影が……重なりました……! これは……友好の盃……!」

蒼僧「影の重なり……神託の盃……!」


蘭花「ふふふ……影の盃が重なるたび、山と都の物語がひとつ結ばれていくのでございます……

姫様の御影は、静かに蒼嶺の縁を編んでおられます……」


薄花「……酒の影と魚の影が……静かに寄り添うて……

ひとつの宴の物語が、生まれておるようでございます……

この重なり……美しゅうございます……」


天華は、そんな影の騒ぎを横目に、淡々と食べ進めていた。


天華「ほい、自然に食べてくれたらええんよ。影は勝手に揺れとるだけなんよ」


影導公「“勝手に揺れる”……! 姫様は影の自由を……認めておられる……!」

影記官「影の自由……新たな概念として記録……!」

蒼僧「自由なる影……これは……天意の遊び……!」


霜律「……自由な……静……」

澄牙「静の中に……揺れが……」

幽澄「気配が……遊んでおります……」


文靖「影の揺れ……先ほどよりも柔らかく……角度二度……記録します……」


剛明「記録せんでええんよ……影の角度で外交は決まらんのんよ……」


兵卒「影も魚も酒も……全部、勝手に意味つけんでええんよ!!」


天華は箸を置き、静かに息をついた。


天華「ほい、今日はよう来てくれたんよ。蒼嶺のみなさんが、自然に静かに笑うてくれたら、それでええんよ」


影導公「“笑う”……! 姫様は我らの影に……笑みを許された……!」

影記官「笑影……新たな項目として……」

蒼僧「笑いの影……これは……祝詞……!」


霜律「……静の中に……笑み……」

澄牙「礼の中に……柔らかさ……」

幽澄「気配が……ほどけております……」


蘭花「ふふふ……姫様の御前では、影すらも笑みを覚えるのでございます……

蒼嶺の静が、少しだけ息をしておる……美しゅうございます……」


薄花「……山の影が……小さく笑うておるようでございます……

今日の静は……やさしゅうございます……」


天華は、蒼嶺の七名の顔を順に見た。

誰もが、影の意味を勝手に増やしながらも、どこか満足そうに息をしている。


天華「ほいじゃけぇ。今日は、これでええんよ。静かにしてくれて、ありがとうね」


影導公「……姫様の“わかったわ”……! これは……影礼の締め……!」

影記官「影礼の締め……本日の記録をここに終える……!」

蒼僧「影の締め……祈りの終わり……!」


霜律「……静の……終わり……」

澄牙「礼の……終わり……」

幽澄「気配の……終わり……」


兵卒「影も礼も祈りも……全部、勝手に終わらんでええんよ!! 終わるんは宴なんよ!!」


将軍は小さく息を吐き、黙って立ち上がった。

その影が、天華の影と並び、ゆっくりと離れていく。


影導公「影が並び……離れていく……これは……友好の余韻……!」

蒼僧「余韻……天意の名残……!」


天鏡殿の影は、午前の光の中で少しずつ薄くなりながら、静かに揺れ続けていた。

蒼嶺の七名は、それぞれに新しい影語を胸に抱え、満足そうに席を下がっていく。


天華は、最後に一度だけ振り返った。


天華「ほいじゃほい、自然に静かで、よう笑うてくれたんよ。蒼嶺のみなさん、また来てね」


影導公「……必ず……影を連れて参ります……!」


こうして、影で始まり、影で誤解し、影で満足した蒼嶺歓迎会は、

不思議と壊れないまま、静かに幕を閉じた。

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