第六話 合同歓迎会なんよ
重厚な黒と金で彩られた天鏡殿。
床には鮮やかな赤い絨毯が敷かれ、左右に蒼嶺国、白嶺国、紅蓮国の使節が、それぞれ銘々皿の置かれた低い机の前に座している。
本日は外交公式行事なので、上座中央──太后が静かに座していた。
中央には、張り詰めた空気を和らげるために宮廷舞踊の踊り子たちが華やかに舞っているが、誰も料理に手を付けない。視線だけが鋭く交差する。
太后がゆっくりと手を挙げると、音楽がピタリと止まった。給仕が全員の青銅の杯に、なみなみと白酒を注ぐ。
しかし、天華は太后の前でいつものように自然論を口にした。
天華「ほい、自然に光っとるだけなんよ」
その一言が、広間の空気を一気に割った。
礼珠「光の礼……整っております……!」
礼霞「礼の線が……太后の影と重なっております……!」
琴璃「静の光……? 静の……光……?」
琴雪(静の圧が広間を満たす)
白露(冬の静が空気を冷やす)
薄花「……光の余白が……物語を揺らすんよ……」
牧玄「生活線が……光で散り始めます……!」
暮雨「散り……散り……散り……」
文綺「光の筆跡……太后の御前にて整えます……!」
文靖「光の揺れ……記録します……」
蘭花「ふふふ、姫様。天意の光では……! あぁ、これこそ天意でございます……!」
将軍・玄岳「……」
兵卒「光で天意は出せんのんよ!!」
剛明「制度的に光を上げるかもしれない!」
理策「解説致します。制度は今回関係ありません。」
太后は静かに見ているだけだった。
影導公「……天華国……深い……」
揺間導師「……揺れの間……太后の影……」
光戦団長「……勝利の静……太后の天意……」
三国代表は一気に酒を飲み干す。
緊張が最高潮に達した瞬間、大皿の料理が運ばれてきた。丸ごと一匹の魚の蒸し物──宴席における縁起物だ。
天華「ほい、この料理、自然に味が薄いだけなんよ」
兵卒「薄いんがいいんよ!! 濃ゆいと胃が地獄なんよ!!」
礼珠「味の礼……整っております……!」
琴璃「静の味……?」
薄花「……味の影が……物語を揺らすんよ……」
蘭花「ふふふ……姫様、流石です……この味……姫様の御心を……自然に映しております……」
文靖「……記録します……味の揺れ……」
牧玄「生活では……味が必要なんですが……」
将軍・玄岳「……(無言)」
剛明「味は、制度では……理解できません……」
太后は静かに杯を置いた。
その「コツン」という音だけで、広間の空気がさらに乱れる。
太后は盃からそっと手を離し、長い爪(護甲)のついた指先を美しく揃え、膝の上に戻す。その顔には怒りも笑みもない。ただ冷徹な虚無があるだけだった。
しかし、その動きの意味が広間の天華を除いて全員へ過剰に伝わってしまう。
礼霞「……太后様の指先……礼の線が……深い……!」
琴璃「静の……指先……?」
薄花「……指先の余白が……物語を揺らすんよ……」
暮雨「生活線が……指先で散り……散り……」
文靖「指先の揺れ……記録します……」
蘭花「天意の指先……!」
剛明「制度的に……指先の意味を……整合……できません……!」
理策「指先の揺れ……増幅中……」
兵卒「指先で増幅せんのんよ!!」
静寂が限界に達しようとしたその時、天華が小さく笑い声を漏らした。その声は、張り詰めた空気をガラスのようにパリンと割る。
天華「ほい、自然に指が動いただけなんよ」
礼珠「自然の指……礼の起点……!」
琴雪(静の圧がさらに強まる)
白露(冬の静が広間を冷やす)
薄花「……指の影が……余白を揺らすんよ……」
牧玄「生活線が……指で崩れます……!」
暮雨「散り……散り……散り……」
文綺「指の筆跡……太后の御前にて整えます……!」
文靖「指の揺れ……記録します……」
蘭花「天意の指……!」
兵卒「指で軍礼せんのんよ!!」
剛明「制度的に指を上げる!」
理策「指の揺れ……増幅中……」
天華「ほい、自然に味が薄いだけなんよ。自然に指も動くんよ。」
兵卒「指も味も自然に動かんのんよ!! 胃が地獄なんよ!!」
礼珠「味の礼……指の礼……整っております……!」
琴璃「静の味……静の指……?」
薄花「……味の影と指の影が……物語を揺らすんよ……」
蘭花「天意の味……天意の指……!」
文靖「……記録します……味と指の揺れ……」
牧玄「生活では……味と指は別なんですが……」
将軍・玄岳「この料理……軍務に耐えられん……指も……」
剛明「制度では……味と指の整合は……不可能です……」
上座の帳の奥、鳳凰の刺繍が施された豪奢な衣装をまとった太后が、ゆっくりと動いた。太后は、それまで口元に運ぼうとしていた翡翠の盃を、ピタリと止める。
ただ正面を見据えたまま、手元の一辺の狂いもない動作で――――
トォン。
静まり返った天鏡殿、翡翠が漆塗りの机にぶつかる小さな、しかし硬い音が響いた。その瞬間、世界から音が消えた。
兵卒「宴会とは……何だったんよ……味も指も……自然に動かんのんよ……」
太后は、広間の中心で静かに息をしていた。




