第八話 揺務なんよ ―行が旅に出るんよ―
朝の政務殿。
官吏が制定前の制度文書を開いた瞬間、異常が走った。
官吏A「文字が……逃げています!」
官吏B「規定の一行が……紙の端に走りました!」
官吏C「条文の文字が……隅で震えています!」
官吏D「余白の走り書きが……端から落ちました!」
兵卒「制度文書の文字が……逃走しています!」
天華は深刻さを理解していない。
天華「ほいじゃけぇ、逃げるなら、捕まえればよいのじゃ!」
官吏「捕まえる……!?」
玲音は礼儀を保ったまま困惑する。
玲音「……本日の記録欄も……逃げています……」
官吏A「記録係殿が追いかけておられる!」
官吏B「記録欄が……紙の裏に隠れました!」
政務殿では、官吏たちが通常どおり執務していた──はずだった。
しかし。
官吏A「竹筒や勅令布告筒が……回っています!」
官吏B「筒の中の勅令布が……勝手に巻き戻っています!」
官吏C「布告の文字が……筒の外へ逃げています!」
兵卒「政務殿の勅令布告筒が……自律しています!」
天華はまったく動じない。
天華「自律しておるなら、自然に働くのじゃ!」
官吏「働く……!? 筒が……!?」
さらに、政務殿全体で異常が連鎖する。
• 記録係の机の上で、記録欄が紙から降りて床を散歩
• 官吏の筆が勝手に走り回り、別の官吏の袖に文字を書く
• 制度文書の行が、別の文書に“引っ越し”
• 勅令布告筒が、官吏の足元をコロコロ転がりながら勅令を配布
• 兵卒の実況が追いつかない
兵卒「政務殿全体が……動いています!
文字が……移動しています!
勅令布が……転職しています!」
玲音は礼儀を保ったまま、限界の温度差で困惑する。
玲音「……本日の記録欄が……別の机へ移動しました……」
心配した琴雪が場に静を落とす。
琴雪「……静の領域が……文字を押している」
空気が沈む。
官吏A「ひっ……!」
官吏B「文字が……押されています!」
官吏C「条文が……端に追いやられています!」
兵卒「政務殿の文字が……静に押されています!」
天華「ほいじゃけぇ、押されておるなら、押し返せばよいのじゃ!」
官吏「押し返す……!?」
玲音「……文字が……押し返す、とは……」
(礼儀のため強く否定できない)
官吏A「記録係殿が困っておられる!」
官吏B「文字が押し返す項目はありません!」
官吏が制度文書をめくる。
官吏A「条文の行が……どこかへ行きました!」
官吏B「規定の文字が……旅立っています!」
官吏C「根拠の行が……紙から出ていきました!」
官吏D「余白の走り書きは……とっくに落ちています!」
兵卒「制度文書の行が……旅に出ています!」
玲音「……記録欄も……旅立ちが増えています……」
天華「行が旅に出たなら、呼び戻せばよいのじゃ!」
官吏「呼び戻す……!?」
琴雪が静を落とす。
琴雪「……呼んでも……戻らない」
空気が沈む。
兵卒「政務殿の文書の……旅先がわかりません。
……呼んでも戻りません!」
官吏が勅令文書を持ってくる。
官吏A「陛下の勅令文書の……効力行が寝ています!」
官吏B「効力の文字が……横になっています!」
官吏C「勅令の重さが……眠っています!」
官吏D「余白の走り書きが……寝落ちしました!」
天華「ほい、眠っておるなら、起こせばよいのじゃ!」
官吏「起こす……!?」
玲音「……二重勅令の……記録欄が……寝ています……」
琴雪「……起こしても……起きない」
兵卒「勅令の効力行が……熟睡してしまいました!」
官吏が制度文書を再確認する。
官吏A「制度文書が……読めません!」
官吏B「規定の行が……旅先から帰りません!」
官吏C「文字が……寝たままです!」
官吏D「余白の走り書きは……落ちてます!」
天華「読めぬなら、自然に勅令すればよいのじゃ!」
官吏「読めるように……!?」
玲音「……読めるように命じる……記録欄が……逃げています……」
琴雪が最後の静で、落とす。
琴雪「……命じても……読めない」
官吏・兵卒・玲音「読めないんかい!」
政務殿の空気は、静かに沈んだままだった。




