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笑天宮御政録 ―自然に暴走する女帝と常識トリオ―  作者: 鑫鑫
第三章 白風の天華国なんよ

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第七話 揺務なんよ ―静が押すんよ―

パチパチと薪が爆ぜる音と共に、巨大な大釜からもうもうと白い湯気が立ち上り、冷え切った空気を容赦なく湿らせていきます。

朝の厨房は仕込みで慌ただしかった。

その中で、複数の賄い料理人が一斉に異変を訴え始める。


賄いA「味が……気配だけなんです!」

賄いB「塩を入れた記憶はあるのに、入れた実感がないんです!」

賄いC「煮込んだはずなのに、煮込んだ気がしません!」

賄いD「鍋の重さの実感が薄いです!」

賄いE「洗い物が見当たりません!?」


兵卒「厨房が……実感の薄まりでパニックです!」


料理長が深刻な声で兵卒を呼ぶ。


料理長「これはただの味の問題ではない。

    料理そのものの存在感が薄まっておる。

    政務殿へ急ぎ報告せよ。」


兵卒「存在感が……!? 了解しました!」


慌てて兵卒は政務殿へ走り出し、政務殿へ駆け込む。


兵卒「厨房で…… 料理そのものの存在感が薄まっています。さらに味の実感が消えています!」


官吏A「味の……実感?」

官吏B「筆を持っている気がしないのです……」

官吏C「歩いてきた気がしません……」

官吏D「政務殿の空気が……少し沈んでいるような……」

官吏E「朝ごはんは食べましたよ。」


兵卒「政務殿でも……実感の薄まりが出ています!」


官吏が震えながら琴雪を見る。


官吏A「静殿様の圧の……影響では……?」

官吏B「空気が沈んだのは……静殿様の……?」


突然現れた琴雪は誰にも向けず、場に静を落とす。


琴雪「……わたしではない」


空気が沈む。


官吏D「ひっ……!」

官吏E「“わたしではない”の圧が強い……!」


天華は深刻さを理解していない。


天華「ほいじゃけぇ、味が薄いなら、皿を濃くすればよいのじゃ!」


官吏「皿……!?」


兵卒「政務殿が……混乱しています!」


政務殿の空気が沈んだ直後、玲音が慌てて入室する。


玲音「し、失礼しますっ! 本日の生活記録を──」


官吏A「書類の実感が薄いんです!」

官吏B「筆の重さが曖昧で!」

官吏C「歩いた気がしません!」

兵卒「厨房では料理の存在感が薄まっています!」

官吏D「静殿様の圧が濃いのか薄いのか分かりません!」


玲音「……えっ……えっ……えっ……」


混乱の中でも礼儀に戻る。


玲音「……失礼しました。生活記録を開始します」


しかし記録欄の存在感が薄い。


玲音「……記録欄の……存在感が……ありません……」


官吏「記録欄まで薄まってるんですか!?」


天華「記録欄が薄いなら、欄を増やせばよいのじゃ!」


官吏「増やす……!?」


玲音「……欄を……増やす、ですか……?」

(礼儀のため強く否定できない)


官吏A「記録係殿が困っておられる!」

官吏B「欄を増やすのは無理なのでは!?」

官吏C「剛明様がおられません。」


見かねた琴雪が静を落とす。


琴雪「……欄を増やしても……戻らない」


空気が沈む。


兵卒「政務殿の空気が……また沈みました!」


政務殿の空気がさらに沈む。


官吏A「空気が……また沈んだ気が……」

官吏B「声が……少し遠い……?」

官吏C「自分の影の実感が……薄い……」


兵卒「静の気配が……政務殿に触れています!」


さらに琴雪が場に静を落とす。


琴雪「……静の領域が……かすめている」


官吏「ひっ……!」


天華「かすめているなら、かすめ返せばよいのじゃ!」


官吏「かすめ返す……!?」


玲音「……かすめ返す、とは……どういう……」

(礼儀のため強く否定できない)


官吏A「記録係殿が困っておられる!」

官吏B「かすめ返すのは無理なのでは!?」


琴雪「姫様。……かすめ返しても……戻らない」


空気が沈む。


兵卒「政務殿の空気が……また沈みました!」


官吏A「書類を書いた気がしません!」

官吏B「筆の重さが分かりません!」

官吏C「歩いた実感が完全に薄いです!」

兵卒「厨房の味は……気配だけです!」

官吏D「剛明様の存在感……薄いままです……」


玲音「……記録欄の存在感も……薄いままです……」


天華が突然、勅令を発する。


天華「よいか!実感が薄いなら──

   実感を増やす係を置くと、勅令するのじゃ!」


官吏A「勅令……!?」

官吏B「制度上、そのような係は存在しません!」

官吏C「勅令なら従いますが……制度文書が作れません!」官吏D「剛明様の制度文書……まだ薄いままです……」

官吏E「職務内容が……定義できません!」


兵卒「政務殿が……制度と勅令の板挟みです!」


天華「なんか言っておるのじゃ──

   聞こえないよ? 勅令じゃからのう!」


官吏「聞こえないって言われた……!」

官吏「勅令の前では……制度が無力……!」


玲音「……制度文書の記録欄が……薄いままでは……」


官吏「記録係殿が困っておられる!」


またしても琴雪が静を落とす。


琴雪「……勅令なら……置かれる……

   ……しかし……置かれても……実感は……戻らない」


空気が沈む。


天華「戻らぬなら──

   うちが勅令でもう一度、戻るように命じればよいのじゃ!」


官吏A「陛下!勅令で“戻る”ことはできません!」

官吏B「制度上、戻る項目がありません!」

官吏C「戻る文書が作れません!」


玲音「……戻るように命じる……記録欄が……ありません……」


琴雪が最後の静を落とす。


琴雪「……命じても……戻らない」


官吏・兵卒・玲音「戻らないんかい!」


政務殿の空気は静かに沈んだままだった。

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