第三話 常識トリオなんよ
外朝の喧騒と内廷の静けさが半分ずつ混ざる長い回廊。
外朝側では役人が石畳を忙しく行き交い、号令が響く。
内廷側では庭の竹が霧の中で静かに揺れ、鳥が一声だけ鳴く。
剛明・太后・牧玄の三人がその境界を歩いていた。
剛明「天華殿下の自然に任せる政治が制度的にどこまで整合するか。今日はその検証ですじゃ」
太后「自然に任せるのはええけど、あの子は任せすぎなんよ」
牧玄「自然は朝はゆっくりしとるんよ」
そこへ天華が廊下の端から勢いよく走ってくる。
天華が止まる前にしゃべり始める。
天華「ほいじゃけぇ! 今日から自然任せの日を始めるんよ!」
蘭花と薄花が必死で追いかけてくる。
蘭花「姫様ぁぁ、自然任せの定義がまだ未確定ですぅぅ!」
薄花「姫様、そんなに急いでは髪が揺れすぎます……!」
剛明「制度はそんなに走りません!」
太后「そんな急に言われたら皆が困るよ!」
牧玄「自然はそんなに走らんのんよ!」
天華「自然任せの日じゃけぇ、まずは自然に決まる順番で物事を進めるんよ!」
剛明「自然に順番はありません! 制度的には順番が自然に決まる制度が必要ですが、その制度を決める順番が自然に決まらんので制度が循環崩壊します!」
太后「そんなことしたら弱い人が後回しになるよ! 順番は人が決めんといけんよ!」
牧玄「自然は順番を決めんのんよ。風は気分で揺れとるだけなんよ」
天華「ほいじゃけぇ! 風が吹いた順に物事をするんよ!」
蘭花が深読みを投げ込む。
蘭花「つまり……風の流れを国家意思とみなし、
第一階層:風の方向!
第二階層:風の強弱!
第三階層:風が触れた対象の意味!
第四階層:風が避けた対象の意味!
第五階層:風が触れようとしてやめた対象の意味……!」
薄花「姫様、第六階層は髪の揺れですよね……?」
蘭花「薄花さん、それは美の階層です!姫様にぴったり!」
ここで常識トリオが当然のように巻き込まれる。
剛明「第七階層は制度の揺れです! 揺れた制度は別制度扱いになります!」
太后「第八階層は人の心の揺れよ! 心が揺れたら皆が困るよ!」
牧玄「第九階層は朝ごはんの揺れじゃ! 揺れたらこぼれるんよ!」
薄花「第十階層はサラサラの髪の揺れの余韻……」
蘭花「薄花さん、髪だけ階層が倍速なんですよ!」
天華「ほいじゃけぇ! 揺れの階層で国を動かすんよ!」
三本柱「そこはズレるんよ!!!」
天華「ほいじゃけぇ! 自然任せの日じゃけぇ、窓を全部外すんよ! 自然が入りたい気分を尊重するんよ!」
剛明「自然は気分を持ちません! 制度的には自然感情局が必要ですが、自然は絶対に出勤しません!」
太后「そんなことしたら皆が風邪ひくよ! 空気は責任取らんよ!」
牧玄「自然は朝はゆっくりしたいんよ! 急に入れられても困るんよ!」
蘭花「自然の感情階層……
第一階層:風の気分!
第二階層:光の気分!
第三階層:空気の気分!
第四階層:空間の気分!
第五階層:境界の気分……!」
薄花「第六階層は髪の気分……」
蘭花「薄花さん、髪は気分を持ちませんよ!」
剛明「第七階層は制度の気分です! 気分が揺れたら法案が読めません!」
太后「第八階層は人の気分よ! 気分が沈んだら皆が困るよ!」
牧玄「第九階層は朝ごはんの気分じゃ! 朝ごはんは気分で味が変わるんよ!」
薄花「第十階層はサラサラの髪の気分の余韻……」
蘭花「薄花さん、髪の階層だけ桁が違うんですね!」
天華「ほいじゃけぇ! 気分の階層で国を動かすんよ!」
三本柱「そこはズレるんよ!!!」
そこへ琴雪が静かに歩いてきて、一言。
琴雪「……窓を外したら、書類が全部飛ぶ」
全員、ぴたりと止まる。
剛明「……制度は、人が困らんように積み重ねてきた仕組みです」
太后「倫理は、人が傷つかんように守ってきた道理なんよ」
牧玄「生活の知恵は、自然と人が一緒に暮らすための日常なんよ」
天華「ほいじゃけぇ、常識って自然の気分が人を困らせんようにする仕組みなんじゃな?」
三本柱「そこはズレるんよ!!!」
蘭花が前に出る。
蘭花「姫様……自然は気分ではなく揺れを持っています。その揺れを読むことができれば、姫様の自然任せはもっと深くなります……!」
薄花「揺れは美にもあります。髪も揺れたときが一番綺麗で……揺れようとして揺れなかった瞬間も綺麗で……揺れた後の余韻も綺麗で……」
蘭花「薄花さん、髪の揺れの三段活用は、やめてください!」
天華「ほい! じゃったら自然にお米が湧くんよ!」
剛明「湧かんのんよ! 田んぼで作るんよ!」
理策「補足致します。米の自然発生は農学的に不可能です」
蘭花「……“自然湧米”……姫様の御心が、蔵の中に米を実らせる……なんと尊い……」
太后「実らんよ……蔵は暗いから育たんのよ……」
牧玄「米が自然に湧いたら、農家はどうするんじゃ……」
兵卒「話、ズレとるんよ……」
剛明「話し、ズレとるんよ……!」
こうして常識トリオも天華ワールドに自然に馴染んでしまうのだった。これこそが笑天宮の日常なのだ。




