第二十一話 天華の自然なんよ
太后が突然思いついた自然の哲学会議は崩壊し、
ついに天華本人に“自然の正体”を問う時が来た。
大広間には、午後の光がゆっくりと傾きながら差し込んでいた。
黒檀の床は夕刻前の光を受けて淡く金色に染まり、
影は長く伸びて、柱の彫刻が床にゆらぐように映っている。
天井の梁には龍の彫り物が絡みつき、
その影がゆっくりと揺れるたびに、
空間全体が呼吸しているように見えた。
空気は昼の熱を少し残しつつも、
会議後の静けさが重く沈んでいて、
誰も声を出していないのに、
大広間だけが“終わりの気配”を放っていた。
中央には天華が座り、傾いた光が輪のように彼女を照らしている。
剛明と牧玄は、膝の上で“おたま”のように常識を抱え込み、 その影が床に二重に落ちて震えていた。
補佐四名は後列に影のように立ち、
昼の光が彼らの輪郭を細く切り取っている。
兵卒は、昼の静けさと夕刻の気配が混ざる空間に飲まれ、
肩を小刻みに震わせていた。
大広間そのものが、
“自然の正体を問う場”として張り詰めていたのかも。
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太后「天華、自然の正体を……今日こそ聞くんよ。」
天華「おばあちゃん、自然に分かるんよ!」
蘭花「自然理解……“天理悟の理”でございますね……」
薄花
「……理解の瞬間、
まるで心が小さく開くようでございます……
静の中に、ひとつの光が生まれるんよ……
……美しゅうございます……」
兵卒
「出んのんよ!!
自然は勝手に開かんのんよ!!
分かるんは人のほうなんよ!!」
剛明は深呼吸した。
剛明
「天華……
自然とは何なんじゃ……
ほんまに教えてくれ……
国が自然に滅びかけとるんよ……」
天華「ほい、自然に滅ばんのんよ!」
兵卒「滅ぶんよ!!」
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文官は震える手で巻物を開いた。
文官
「自然とは……
“天地の理”であり……
“無為自然”であり……
“天の動き”であり……
“地の流れ”であり……」
蘭花
「天地の理……“天愛の法”……
無為自然……“心無の境地”……
天の動き……“天動の舞”……
地の流れ……“地流の理”……」
薄花
「……天地が揺れるたびに、
まるで世界が小さく息をしておるようでございます……
静の中に、ひとつの祈りが生まれるんよ……
……美しゅうございます……」
天華「ほい、自然が、うちのこと好きなんよ!」
兵卒
「好きとかあるかい!!
地面は勝手に恋せんのんよ!!
揺れとるんは姫様のほうなんよ!!」
文官は泣き崩れた。
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蘭花は止まらない。
蘭花
「自然とは……
“天華様の御心のままに”でございますね……
つまり“天理合”……
天華様と自然が一体となる儀式……
“天和の舞”……
“心通の法”……
“天華美の理”……
“風名の儀”……
“飛石の理”……
“影走の儀”……
“雲降の理”……」
薄花
「……儀が重なるたびに、
まるで空気が小さく震えるようでございます……
静の中に、ひとつの物語が生まれるんよ……
……美しゅうございます……」
兵卒
「出んのんよ!!
そんな儀式全部ないんよ!!
増えとるんは蘭花殿のほうなんよ!!」
蘭花「自然に生まれたんですよ……」
兵卒「生まれんのんよ!!」
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琴雪が静かに言った。
琴雪「……ふふ……自然は……静かですよ……」
薄花
「……静が深まるたびに、
まるで世界が小さく息をしておるようでございます……
影の中に、ひとつの物語が生まれるんよ……
……美しゅうございます……」
兵卒
「出んのんよ!!
静は勝手に息せんのんよ!!
息しとるんは兵卒のほうなんよ!!」
琴雪「……ふふ……自然は……心の音ですよ……」
兵卒「音とかあるかい!!」
琴雪「……ふふ……自然は……姫様の気分しだいですよ……」
兵卒「気分なんかい!!」
静策「……気分は……静ではありません……」
兵卒「静の圧なんよ!!」
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剛明は必死に説明した。
剛明
「自然はな……
人が何もせん状態のことなんよ……
風は気候の流れで……
川は地形で……
雲は水蒸気で……
影は光で……
石は重力で……」
天華「ほい、自然に全部、うちの味方なんよ!」
蘭花「流石姫様、味礼の儀……でございますね!」
薄花
「……味方の心が揺れるたびに、
まるで世界が小さく息をしておるようでございます……
静の中に、ひとつの祈りが生まれるんよ……
……美しゅうございます……」
兵卒
「出んのんよ!!
自然は勝手に味方にならんのんよ!!
味方するんは人のほうなんよ!!」
剛明は完全に崩れた。
理策「お知らせします。“味方”は関係性です。自然とは一致しません。」
礼珠「味方になったら礼を交わすべきでございます……」
兵卒「交わさんでええんよ!!」
牧玄「……自然は……味方ではないんよ……」
兵卒「意味わからんのんよ!!」
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太后は杖をコツンと鳴らした。
太后
「天華、自然は勝手に動かんのんよ。
人が動くんよ。」
天華「ほい、自然に動くんよ!」
兵卒「動かんと動かんのんよ!!」
太后「天華、自然はな……“ありのまま”なんよ。」
天華「おばあちゃん、自然はありのままじゃないんよ!」
兵卒「どっちなんよ!!」
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太后は静かに天華を見つめた。
太后
「天華……
自然とは何なんじゃ……
はっきり言うんよ。」
大広間が静まり返る。
琴雪「……ふふ……静かですね……」
兵卒「静かすぎて怖いんよ!!」
剛明
「天華……頼む……
自然の意味を教えてくれ……」
天華はゆっくり立ち上がった。
天華「ほい、自然は――」
兵卒「何なんよ!!」
天華「ほい、“なんとなく”なんよ!」
兵卒
「なんとなくなんかい!!
なんとなくで国が滅びかけたんよ!!
なんとなくで会議が壊れたんよ!!
なんとなくで全部揺れたんよ!!」
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理策「お知らせします。“なんとなく”は定義ではありません。自然とは一致しません。」
静策「……なんとなくは……静ではありません……」
礼珠「なんとなくには礼が必要でございます……」
蘭花「なんとなく……“無心の境地”……?」
兵卒「全部違うんよ!!」
剛明「なんとなくで国が滅びかけたんか……」
琴雪「……ふふ……なんとなくですね……」
兵卒「静かすぎて怖いんよ!!」
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太后
「もうええんよ。
自然は天華の“なんとなく”なんよ。
それで国が動いとるんよ。」
兵卒
「なんとなくで国が動くんよ!!
なんとなくでわしの常識が壊れたんよ!!
なんとなくで全部終わったんよ!!」
こうして――
天華の自然は、ただの“なんとなく”
という真実が明かされ、幕を閉じた。




