第十三話 自然の香音なんよ
笑天宮の南側に位置する、茶の文化・接待・休息を司る殿舎、茶の殿。白木の柱が並び、竹編みの天井から柔らかな光が落ちていた。
畳は薄茶色で、歩けば静かに沈み、香炉から淡い茶香が漂っていた。
その自然の空気の中で――
天華が胸を張った。
天華「ほい! 自然に茶が出る時間なんよ!」
蘭花
「茶が自然に出る……“天茶の理”でございますか……?
古来より、天が茶を授けるという……」
薄花
「……茶香が満ちるたびに、
まるで殿が小さく息をしておるようでございます……
静の中に、ひとつの物語が生まれるんよ……
……美しゅうございます……」
兵卒
「出んのんよ!!
天から茶は降らんのんよ!!
茶を淹れるんは、人のほうなんよ!!」
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太后から呼ばれた剛明が茶器を持って来た。
剛明
「天華、茶は自然に出んのんよ……
湯を沸かして、茶葉を入れて――」
天華「ほい、自然に湯が空から降るんよ!」
蘭花
「空から降る湯……“天湯の儀”でございますか……?
古典に――」
薄花
「……湯気が揺れるたびに、
まるで空気が小さく笑うておるようでございます……
殿の静に、ひとつの物語が立ち上がるんよ……
……美しゅうございます……」
兵卒
「降らんのんよ!!
湯は天から来んのんよ!!
沸かすんは人のほうなんよ!!」
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剛明が小炉を覗き込み、鉄瓶を持ち上げた。
天華「ほい、自然に湯が踊るんよ!」
蘭花
「湯が踊る……“湯舞”でございますか……?
湯気の立ち方を舞に例える古典が……」
薄花
「……湯気が立ち上がるたびに、
まるで心がそっと息をしておるようでございます……
湯の中に、ひとつの夢が生まれるんよ……
……美しゅうございます……」
兵卒
「踊らんのんよ!!
湯は舞わんのんよ!!
揺らしとるんは熱のほうなんよ!!」
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剛明が茶葉を器に入れると、天華は目を輝かせた。
天華「ほい、自然に茶葉が跳ねるんよ!」
蘭花
「跳ねる茶葉……“茶魂の躍動”でございますか……?
茶葉が生きておる証……」
薄花
「……茶葉が開く瞬間、
まるで心が小さく息をするようでございます……
湯の中に、ひとつの夢が生まれるんよ……
……美しゅうございます……」
兵卒
「跳ねんのんよ!!
茶葉は夢で動かんのんよ!!
動かすんは湯のほうなんよ!!」
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剛明が湯を少しだけ注ぎ、香りを立たせた。
剛明
「天華、茶はな……
湯を少し入れて、香りを立たせるんよ。」
天華「ほい、自然に香りが勝手に口に入るんよ!」
蘭花
「香りが勝手に口へ……“香気の自来”でございますか……?
香りが人を選ぶという……」
薄花
「……香りは風の手紙のようでございます……
人の心にそっと触れて、
“飲んでほしい”と囁くんよ……
……美しゅうございます……」
兵卒
「囁かんのんよ!!
香りは意思なんか持たんのんよ!!
吸うんは鼻のほうなんよ!!」
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太后は天華の茶碗を手に取り、香りを嗅いだ。
太后「……この茶碗、怒っとるんよ。」
蘭花「茶碗の怒り……“器心の理”でございますか……?」
薄花
「……怒りというより……
茶碗が“もっと丁寧に扱うてほしい”と
静かに願うておるようでございます……
器にも心が宿るんよ……
……美しゅうございます……」
兵卒
「宿らんのんよ!!
茶碗は願わんのんよ!!
びっくりしとるんは、お湯のほうなんよ!!」
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太后は茶を一口飲んだ。
太后「……茶葉が泣いとるんよ。」
蘭花「茶葉の涙……“茶涙”でございますか……?」
薄花
「……涙は、苦味が心に触れた証でございます……
茶葉が最後に見せる、静かな祈りなんよ……
……美しゅうございます……」
兵卒
「祈らんのんよ!!
茶葉は感情持たんのんよ!!
苦しんどるんは湯の強さのほうなんよ!!」
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天華は突然、手を叩いた。
天華「ほい! 茶を楽しくする御政をするんよ!」
蘭花「茶を楽しくする御政……“茶楽政”でございますか……?」
薄花
「……楽しさは、静の中でそっと芽吹くものでございます……
茶香が揺れるたびに、
殿の空気が小さく微笑むんよ……
……美しゅうございます……」
兵卒
「微笑まんのんよ!!
空気は感情持たんのんよ!!
楽しむんは人のほうなんよ!!」
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剛明
「天華、茶は自然に空から降らんのんよ……
人が淹れるんよ。」
天華「ほい、自然に淹れるんよ!」
蘭花「自然に淹れる……“天淹の理”でございますか……?」
薄花
「……湯が茶葉に触れる瞬間、
まるで静が小さく息をするようでございます……
心がそっと宿るんよ……
……美しゅうございます……」
兵卒
「宿らんのんよ!!
心は勝手に湧かんのんよ!!
込めるんは人のほうなんよ!!」
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その時――
茶の殿の隅に置かれた白紙が、
風もないのに、わずかに揺れた。
天華「ほい、自然に揺れたんよ!」
蘭花「白紙が揺れる……“香白紙の理”でございますか……?」
薄花
「……香りが白紙に触れるたびに、
まるで紙が小さく息をしておるようでございます……
静の中に、ひとつの物語が生まれるんよ……
……美しゅうございます……」
兵卒
「揺れんのんよ!!
紙は香り吸わんのんよ!!
揺らしとるんは空気のほうなんよ!!」
官吏たちの噂は一気に広がった。
「白紙は香りに反応して増える前兆では」
「自然の殿に集まっているらしい」
「茶の殿の白紙が揺れたらしい」
茶の殿は今日も騒がしい。




