第六話 音は自然に出んのんよ
◆音の殿
笑天宮の東側にある「音の殿」は、
白木の柱と薄布の垂れ幕で作られた静かな殿だった。
殿の中央には大きな琴が置かれ、
周囲には鼓・鐘・笛が整然と並んでいる。
天井は高く、音が柔らかく反響するように設計されていた。
朝の光が薄布を通り、
殿の中に白い風のような光が流れ込む。
そこへ天華・蘭花・薄花の三人が揃って入ってきた。
天華は白い光を見て目を輝かせた。
天華
「ほい、自然に音が出るんよ!」
琴雪
「……出んのんよ。弾かんと出んのんよ。」
琴雪は白衣をまとい、静かに琴の前に座っていた。
その佇まいは兵舎の騒がしさとはまるで別世界で、
殿の空気が一瞬で静まり返る。
兵卒
「静の圧なんよ……」
天華は琴の弦を指でつついた。
天華
「ほい、この弦、自然に震えるんよ?」
琴雪
「震えんのんよ。指で弾くんよ。」
蘭花は弦の震えを見て、静かに微笑んだ。
蘭花
「ふふふ……姫様、流石です……
この弦……姫様の御心を……自然に映しております……」
薄花は余白を広げるように頷いた。
薄花
「弦の余白が震えになっとるんよ!!
姫様が触れたら弦が“ほいじゃけぇ”って揺れるんよ!!」
兵卒
「揺れんよう、揺れたら弾けんのんよ!!」
◆自然に音が出るんよ?
蘭花は琴の横に置かれた鼓を見て言った。
蘭花
「……この鼓は“姫様の息遣いを受ける器”なんよ……
ふふふ……流石姫様……」
兵卒
「違うんよ!! 鼓なんよ!!」
天華
「ほい、自然に息が入るんよ!」
兵卒
「入らんのんよ!! 叩くと音がするんよ!!」
薄花は鼓の皮をそっと撫でて言った。
薄花
「鼓の余白が息を吸ってるんよ!!
姫様が近づいたら鼓が“ほい”って震えるんよ!!」
兵卒
「震えんよう、震えたら音が濁るんよ!!」
天華は笛を奏でている演者を見ている。
蘭花は天華の瞳を見て、さらに深読みを始めた。
蘭花
「……この笛は“姫様の御心の形”……それはそれは……
優雅な音色……ふふふ……流石姫様です……」
兵卒
「違うんよ!! 笛なんよ!!」
天華は鐘を奏でている演者を見つめている。
薄花
「鐘の余白が光になって音が聴こえとるんよ!!」
兵卒
「光らんのんよ!!」
そこへ音の殿補佐の礼珠が入ってきた。
礼珠は深緑の衣をまとい、
手には礼の冊子を持っている。
礼珠
「天華様、音は礼の形なんよ。
自然に出るんじゃなくて、
演者か礼に沿って奏でるんよ。」
天華
「ほいじゃけぇ、自然に礼が出るんよ!」
礼珠
「出んのんよ!! 礼は学ぶんよ!!」
蘭花
「……礼も……姫様の御心を肯定しています……ふふふ……」
薄花
「礼の余白が音になっとるんよ!!」
兵卒
「ならんのんよ!!」
◆奏でたんよ
琴雪は静かに琴を弾いた。
琴雪
「……ほい。」
美しい音色が殿に響き、空気がわずかに震えた。
天華
「ほいじゃけぇ、自然に響いたんよ!」
琴雪
「旋律を奏でたんよ。」
蘭花
「ふふふ……姫様、流石です……
この響き……姫様の御心が広がっております……」
薄花
「響きの余白が殿を照らしとるんよ!!」
兵卒
「照らさんのんよ!! 琴雪様が演奏されたんよ!!」
礼珠
「礼に沿って音色が響いたんよ。」
そこへ何故か、剛明が入ってきて、天華に説明をはじめた。
剛明
「天華、音は自然に出んのんよ。
弾いて、叩いて、吹いて、人が奏でるんよ。
それを演奏って言うんじゃ。
演奏はね、『音でおはなしすること』なんだよ。
うれしい気持ちも、かなしい気持ちも、
音にのせておしゃべりしているから、
聞いている人の心がドキドキするんよ。」
天華
「お話ししたら楽しいんよ!」
蘭花
「……楽しさの気配が……音色を肯定しています……ふふふ……
姫様の御心が……音にのるんよ……流石姫様……」
薄花
「音色の余白が殿を照らしとるんよ!!
姫様が話したら音が“ほい”って広がるんよ!!」
礼珠
「照らさんのんよ!!音色は礼に沿うんよ!!
話すんじゃなくて、礼に沿って奏でるんよ。」
琴雪
「……音は……静けさの中で……生まれるんよ……
静けさが……話を支えるんよ……」
天華は少し考え込んだ。
天華
「ほい……じゃあ自然じゃなくて、
みんなで優雅な音色を作るんよ!」
琴雪
「良き演者が奏でて、優雅な音色になるんよ。」
礼珠
「良き演者は礼に沿うんよ。」
蘭花
「ふふふ……良き演者に……御心が響く……流石姫様……
姫様が話せば……音が広がるんよ……」
薄花
「余白が音になるんよ!!
姫様の話が“ほい”って響くんよ!!」
天華
「ほいじゃけぇ、自然に響くんよ!」
兵卒
「自然って言うとるんよ!!」
音の殿は今日も騒がしい。
しかし――
その騒がしさこそが、
笑天宮の文化の始まりだった。




