第四話 副将軍は自然にこんのよ
◆ 刀の準備
朝の訓練場は札甲の音がひと段落し、
次の訓練の準備が始まっていた。
兵舎は笑天宮北側にあり、
黒鉄瓦の屋根が朝光を鈍く返している。
鉄梁は夜の熱を少し残し、
砂地の訓練場には早くも槍の素振り音が響いていた。
兵卒たちは腰の布帯を締め直し、
そこに吊るした刀の位置を整えている。
刀は環首刀。
柄の先の丸い環は紐を通して腰に固定したり、
抜刀時に指をかけて安定させるためのもの。
兵卒たちは刀を抜く前に、
環の紐を確認し、鞘の角度を微調整する。
◆刀の世界に乱入?!
そこへ天華・蘭花・薄花の三人が揃ってやってきた。
天華
「ほいじゃけぇ、今日の刀は自然に抜けるんよね!」
兵卒
「抜けんのんよ!!鞘から抜くんよ!!」
天華は兵卒の持っている刀の環を指でつついた。
天華
「この丸いとこ、自然に回るんよ!」
兵卒
「回らんのんよ!!紐を通すとこなんよ!!」
蘭花は環の丸みを見て、静かに微笑んだ。
蘭花
「ふふふ……姫様、流石です……
環の気配が……刀の朝を……自然に肯定しています……
丸は……導きの形です……」
薄花は余白を広げるように手を添えた。
薄花
「丸の余白が刀を照らしとるんよ!!
姫様が触れたら丸が“ほいじゃけぇ”って回るんよ!!」
兵卒
「回らん、回らんのよう!!」
今度は、兵卒が刀を抜く、
鉄の刃が朝日を反射して光った。
天華
「ほいじゃけえ、自然に光っとるんよ!」
兵卒
「光っとるんは刀なんよ!!自然じゃないんよ!!」
蘭花
「……光の気配が……刀の気を……肯定しています……
ふふふ……流石姫様……」
薄花
「光の余白が刃を照らしとるんよ!!
姫様が見たら刃が“ほいじゃけぇって輝くんよ!!」
兵卒
「輝かんように作っとるんよ!!刀の刃なんよ!!」
天華は刃を見て言った。
天華
「この刃、自然に曲がるんよ?」
兵卒
「曲がったら刀にならんのんよ!!」
蘭花
「……曲がりの気配も……姫様を肯定しています……ふふふ……流石姫様……」
薄花
「曲がりの余白が美になっとるんよ!!」
兵卒
「美とかじゃなくて刀なんよ!!」
◆自然にこんのよ
――その時。
訓練場の入口から剛明が歩いてきた。
深衣の上に、
軍務府の副将軍だけが着用を許される黒地の肩掛け(軍肩)をまとい、
銀糸の「軍」の字が淡く光っている。
ちなみに金糸は皇族しか使えない。
腰には細い竹簡を数本差しており、
歩くたびに「コトッ」と小さく鳴った。
兵卒たちは剛明の姿に気づき、慌てて姿勢を正した。
兵卒たち
「副将軍殿、おはようございます!」
剛明は軽く頷き、
天華たちの前で立ち止まった。
◆刀の常識崩壊か?
剛明
「天華、刀は自然に抜けんのんよ。
自然に曲がらんし、
自然に斬れたりもせんのんよ。」
天華
「でもね、自然に軽うなったら楽しいんよ!」
蘭花
「……楽しさの気配が……刀を肯定しています……ふふふ……流石姫様……」
薄花
「楽しさの余白が刀を照らしとるんよ!!
姫様が見たら刃が自然に
ほいじゃけぇって輝くんよ!!」
剛明
「照らさんし、自然に輝かんのよ!!
刀は手にしっくりする重さがあるから安定するんよ。
軽うしたら上手く使えんようになるんよ。」
天華
「自然に折れん刀を作るんよ!」
兵卒
「自然に言うとるんよ!!」
剛明は眉をひそめた。
剛明
「天華、刀は鍛冶が心を込めて打って作るんよ……
自然にできるもんじゃないんよ。」
天華
「自然に鍛冶の親方が打つんよ!」
兵卒
「鍛冶の親方が打つんよ!!」
蘭花
「……鍛冶の親方の気配が……姫様を肯定しています……ふふふ……流石姫様……」
薄花
「鍛冶の親方に余白があって刀を照らしとるんよ!!」
剛明
「照らさんのんよ!!」
剛明は天華の肩に手を置いた。
剛明
「天華、刀は兵士が使う道具なんよ。
自然に任せるんじゃなくて、
人が考えて、人が鍛えて、人が使うんよ。」
天華は少し考え込んだ。
天華
「ほい……じゃあ自然じゃなくて、
みんなで刀を守るんじゃ!」
蘭花
「……守る気配が……姫様を肯定しています……ふふふ……流石姫様……」
薄花
「守りには余白があって刀を照らしとるんよ!!」
兵卒
「自然って言うとるんよ!!」
◆兵舎の日常
剛明
「たちまち刀で、素振り百回じゃ。
副将軍として、今日はわしが見て回るんよ。」
兵卒たち
「おうっ!!」
刀が空気を切るたび、
「シュッ」と鋭い音が響く。
天華
「ほいじゃけぇ、自然に斬れるんよ!」
兵卒
「斬れんのんよ!!兵士が振り上げて斬るんよ!!」
蘭花
「……斬りの気配が……刀を肯定しています……」
薄花
「斬りの余白が刀を照らしとるんよ!!」
兵卒
「照らさんのんよ!!」
剛明
「天華、刀を使うんは自然じゃなくて、
刀の技は、鍛錬した兵士の努力でできとるんよ。」
天華
「ほいじゃけぇ、自然に努力するんよ!」
兵卒
「努力は自然じゃないんのんよ!!」
訓練場は今日も騒がしかった。
しかし――
その騒がしさこそが笑天宮の兵舎の日常だった。




