第三話 鎧は自然に軽うならんのんよ
◆ 鉄の殿・兵舎の朝
朝の光が兵舎の黒鉄瓦に反射し、
干された札甲の影が砂地の訓練場に長く伸びていた。
兵舎は笑天宮の北側にあり、
鉄梁と木材を組んだ建物は、朝でもわずかに温かい。
訓練場は広い砂地で、槍の素振りの音が響いている。
「ガシャン……ガシャン……」
兵卒たちが札甲を身につけるたび、
鉄片がぶつかり合い、重い音が訓練場に響きわたった。
黒鉄色の札甲は朝日を浴びると鈍い光を放つ。
◆ 札甲の重さと兵卒の悲鳴
兵卒たちは鎧の重さに慣れるため、
毎朝、鎧を着て歩く訓練から始める。
「うおっ……重っ……!」
「自然に立てんのんよ!!」
一人の兵卒がよろけて転び、
札甲が砂地に「ガシャン」と落ちた。
そこへ天華・蘭花・薄花の三人が揃ってやってきた。
天華
「おー今日もええ音がしとるんよ!」
兵卒
「音じゃなくて鎧なんよ!!」
蘭花は札甲の光を見て、静かに微笑んだ。
「ふふふ……姫様、流石です……
鉄の気配が……朝の訓練を……自然に肯定しています……
“ガシャン”は……鉄の殿の挨拶です……」
薄花は余白を広げるように両手を広げた。
「鉄の余白が音になっとるんよ!!
姫様が来たら鉄が“ほいじゃけぇ”って鳴るんよ!!」
兵卒
「鳴らんように作っとるんよ!!鉄なんよ!!」
◆ 札甲のズレ
天華は重そうな鎧をじっと見つめた。
天華
「この鎧、自然に軽うなるんよねぇ」
兵卒
「ならんのんよ!!鉄じゃもん!!」
蘭花
「……軽さの気配は……姫様の歩みに寄り添います……
ふふふ……流石姫様……」
薄花
「軽さの余白が鎧を照らしとるんよ!!
姫様が触れたら鎧が“ほい”って軽うなるんよ!!」
兵卒
「ならんように作っとるんよ!!重いんよ!!」
天華は肩の大札を指でつついた。
天華
「ほい、この鉄片、自然に曲がるんよ?」
兵卒
「曲がったら鎧が大変なんよ!!」
蘭花
「……この曲がりの気配も……姫様を肯定しています……ふふふ……流石姫様……」
薄花
「曲がりの余白が美になっとるんよ!!」
兵卒
「美とかじゃなくて鎧の大札なんよ!!」
◆ 牧玄の登場
訓練場の端では牧玄が牛の様子を見ていた。
灰色の長衣をまとい、薬草袋を腰に下げ、木杖を持っている。
牧玄
「……また妙なことを言い始めたのう。
見とらんと危なっかしいんよ……」
牧玄は牛の背を軽く撫でてから、
天華たちの方へゆっくり歩き出す。
天華
「ほいじゃけん、この大札、牛が踏んでも壊れんのん?」
兵卒
「踏まさんのんよ!!牛は訓練場に入らんのんよ!!」
蘭花
「……牛の気配も……大札を肯定しています……ふふふ……流石姫様……」
薄花
「牛の余白が大札を照らしとるんよ!!」
牧玄
「照らさんのんよ!!牛は照らさんのんよ!!」
◆ 常識が崩れる
牧玄
「天華様、鎧は自然に軽うならんし、
自然に光らんのんよ……大札は大札なんよ……」
天華
「でもね、自然に軽うなったら走りやすいんよ!」
兵卒
「走りやすいとかじゃなくて鎧は防具なんよ!!」
蘭花
「……走りの気配が……防具の鎧を肯定しています……ふふふ……流石姫様……」
薄花
「走りの余白が鎧を照らしとるんよ!!」
牧玄
「照らさんのんよ!!鎧は防具なんよ!!」
天華
「自然に守れるんよ!」
兵卒
「守れんのんよ!!」
◆ 剛明の号令
剛明
「ほい、鎧を着たまま訓練場を一周するんよ。」
兵卒たち
「はいっ!!」
兵卒たちが歩き出すと、
札甲が一斉に「ガシャンガシャン」と鳴る。
天華
「ほい、自然に歩くんよ!」
兵卒
「自然に歩けんのんよ!!鎧が重いんよ!!」
蘭花
「……歩みの気配が……鉄を肯定しています……ふふふ……流石姫様……」
薄花
「歩みの余白が鎧を照らしとるんよ!!」
兵卒
「照らさんのんよ!!」
◆ 天華の御政宣言
天華は突然、手を叩いた。
天華
「ほい! 鎧を楽しくする御政をするんよ!」
兵卒たち
「楽しくするんはええけど、楽しくするって意味不明なんけど……」
蘭花
「……楽しさの気配が……鉄を肯定しています……ふふふ……流石姫様……」
薄花
「楽しさの余白が鎧を照らしとるんよ!!
姫様が言うたら鎧が“ほい”って笑うんよ!!」
兵卒
「笑わんのんよ!!鎧なんよ!!」
牧玄
「天華様、鎧は楽しくするもんじゃなくて、
守るためのもんなんよ……」
天華
「でもね、自然に守れる鎧を作るんよ!」
兵卒
「自然に言うとるんよ!!」
訓練場は今日も騒がしい。
しかし――
その騒がしさこそが笑天宮の兵舎の日常だった。




